星は太陽を想う。

 ステージ上でアコースティックギターをかき鳴らし、歌う女性の姿を、幼いながらにカッコイイと思った。その人を見ていると、胸がドキドキして、顔が熱くなる。


 好きなのかもしれない。だけど、はっきりとは分からなかった。

 年上の女性に対するただの憧れなのか、恋なのか……分からない。


 そして、その感情の正体を突き止める前に、その女性は……なしよう”さんは、この世から居なくなってしまった。






 それから数年後。

 両親が経営するライブハウス『ステラ』の近くで、陽さんと雰囲気が似た人を見かけた。

 スマホ片手に、キョロキョロしながらキャリーバッグを引いていたから……道に迷っている、旅行者だと思ったのもある。けれどやっぱり、“ようさんに似ているから”という理由の方が、大きかったように思う。

 ジブンが彼女に声をかけた理由は、きっと親切心などではなく、好きだったかもしれない女性に似たヒトと、話してみたかったからだ。


「あの……! もしかして、道に迷ってたりしますか?」

 あまりの綺麗な横顔に一瞬、声をかけるのをためらった。だけど、ジブンの長所だと思っている、コミニケーション能力を発揮すべきところだと思い、笑顔で話しかける。すると、そのヒトは少し戸惑いながらも、「えっと……このライブハウスに、行きたいんですけど……」と言って、スマホを見せてくれた。

「え、ここって……」

 彼女の……なしはな”さんの目的地は、まさかのステラだった。おまけに、陽さんの妹さんであることも判明する。そこで、そういえば、陽さんには妹さんがいて、何度も陽さんのライブを見に来てくれているという話を、聞いていたことを思い出す。


 そっか……この人が陽さんの……妹さんなんだ。


 なんとも言えないフワフワした感情に戸惑いながらも、他愛ない会話をしつつ、ジブンは華さんをステラまで案内する。


 ステラに着くと華さんは、家出することとなった経緯を全て話してくれた。それを聞いたジブンの両親は、「高校を卒業してからまた、東京こっちにおいで。その時はぜひ、うちのステージで歌ってほしい」と言って、華さんを家に帰し……数ヵ月後、華さんは再び東京にやってきた。




 華さんの歌う姿は、あまり陽さんと似ていなかった。そもそも似ているのは目元くらいで、性格も、作る曲も、全然似ていない。

 だからかもしれないが……何年も経った今、ようやく自覚してしまった。


 ジブンはやっぱり、陽さんのことが好きだったのだと。


 ただカッコイイだけじゃない。歪みそうになりながらも、足掻くように歌と向き合い、真っ直ぐに生きようとしていた陽さんに、間違いなくジブンは惹かれていた。


 もちろん、華さんの歌も、すごく素敵だと思う。けれど、ジフンの心をしっかり掴んで離してくれないのは、陽さんだけだから……ジブンは間違いなく、“なしよう”の曲と彼女の生き様にひどく惹かれ、彼女の歌を求めている。


 そのことに気づいて、思わず涙が溢れた。


「セイラちゃんどうしたの? どこか痛いの?」

 歌い終わり、ステージ裏に戻ってきた華さんは、ジブンが泣いていることに気がつくと、駆け寄って背中をさすってくれた。

「っ……すみません、華さんを見てたら……陽さん……華さんのお姉さんのこと、思い出して……」

「……セイラちゃん、お姉ちゃんの歌、聴いたことあったんだね」

「はい。小学生の時から音楽が好きで、両親にワガママ言って、ステラに連れてきてもらっていたので……陽さんの歌も、聴いたことあるっス」

 涙を拭って深呼吸すると、案外、落ち着いて話せた。華さんはジブンの話を聞くと、「そっか……」と切なげな顔で微笑む。

「……お姉ちゃんのコト、今でも好き?」

「はい! 大好きっス!」

 自然と出た言葉に、ジブンでも驚く。

 ジブンの返答に華さんは目を細め、「あたしも」と笑う。


「華さん、お願いがあるんスけど……ジブンを、陽さんのお墓参りに、連れて行ってください」

 泣いて華さんを困らせてしまったついでに、思わず無理なお願いまでしてしまう。

「いいよ。あたしも丁度、お姉ちゃんに会いたかったし……今度の週末、二人で会いに行こっか」

 流石に断られると思っていたので、華さんがあまりにもあっさり了承してくれたことに驚きながらも、お礼を言う。






 お墓参り当日、ジブンは陽さんの本名を知ることとなる。

 こうさきはるさん。とてもキレイで、陽さんによく似合っている名前だと思った。


 本当の名前すら知らなかった人を、好きだなんてオカシイだろうか……?

 ううん、例えオカシくても、別に構わない。この気持ちに、ウソはないのだから。


 陽さん、あなたのことが大好きでした。


 ジブンはお墓の前で手を合わせ、心の中でそう呟く。



 さようなら。どうか安らかに、眠ってください。



 ジブンはいつまでも……あたなのことを想っています。




 星は太陽を想う。【完】

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花に焦がれる、朝日に唄う 双瀬桔梗 @hutasekikyo_mozikaki

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