星は太陽を想う。
ステージ上でアコースティックギターをかき鳴らし、歌う女性の姿を、幼いながらにカッコイイと思った。その人を見ていると、胸がドキドキして、顔が熱くなる。
好きなのかもしれない。だけど、はっきりとは分からなかった。
年上の女性に対するただの憧れなのか、恋なのか……分からない。
そして、その感情の正体を突き止める前に、その女性は……
それから数年後。
両親が経営するライブハウス『ステラ』の近くで、陽さんと雰囲気が似た人を見かけた。
スマホ片手に、キョロキョロしながらキャリーバッグを引いていたから……道に迷っている、旅行者だと思ったのもある。けれどやっぱり、“
ジブンが彼女に声をかけた理由は、きっと親切心などではなく、好きだったかもしれない女性に似たヒトと、話してみたかったからだ。
「あの……! もしかして、道に迷ってたりしますか?」
あまりの綺麗な横顔に一瞬、声をかけるのをためらった。だけど、ジブンの長所だと思っている、コミニケーション能力を発揮すべきところだと思い、笑顔で話しかける。すると、そのヒトは少し戸惑いながらも、「えっと……このライブハウスに、行きたいんですけど……」と言って、スマホを見せてくれた。
「え、ここって……」
彼女の……
そっか……この人が陽さんの……妹さんなんだ。
なんとも言えないフワフワした感情に戸惑いながらも、他愛ない会話をしつつ、ジブンは華さんをステラまで案内する。
ステラに着くと華さんは、家出することとなった経緯を全て話してくれた。それを聞いたジブンの両親は、「高校を卒業してからまた、
華さんの歌う姿は、あまり陽さんと似ていなかった。そもそも似ているのは目元くらいで、性格も、作る曲も、全然似ていない。
だからかもしれないが……何年も経った今、ようやく自覚してしまった。
ジブンはやっぱり、陽さんのことが好きだったのだと。
ただカッコイイだけじゃない。歪みそうになりながらも、足掻くように歌と向き合い、真っ直ぐに生きようとしていた陽さんに、間違いなくジブンは惹かれていた。
もちろん、華さんの歌も、すごく素敵だと思う。けれど、ジフンの心をしっかり掴んで離してくれないのは、陽さんだけだから……ジブンは間違いなく、“
そのことに気づいて、思わず涙が溢れた。
「セイラちゃんどうしたの? どこか痛いの?」
歌い終わり、ステージ裏に戻ってきた華さんは、ジブンが泣いていることに気がつくと、駆け寄って背中をさすってくれた。
「っ……すみません、華さんを見てたら……陽さん……華さんのお姉さんのこと、思い出して……」
「……セイラちゃん、お姉ちゃんの歌、聴いたことあったんだね」
「はい。小学生の時から音楽が好きで、両親にワガママ言って、ステラに連れてきてもらっていたので……陽さんの歌も、聴いたことあるっス」
涙を拭って深呼吸すると、案外、落ち着いて話せた。華さんはジブンの話を聞くと、「そっか……」と切なげな顔で微笑む。
「……お姉ちゃんのコト、今でも好き?」
「はい! 大好きっス!」
自然と出た言葉に、ジブンでも驚く。
ジブンの返答に華さんは目を細め、「あたしも」と笑う。
「華さん、お願いがあるんスけど……ジブンを、陽さんのお墓参りに、連れて行ってください」
泣いて華さんを困らせてしまったついでに、思わず無理なお願いまでしてしまう。
「いいよ。あたしも丁度、お姉ちゃんに会いたかったし……今度の週末、二人で会いに行こっか」
流石に断られると思っていたので、華さんがあまりにもあっさり了承してくれたことに驚きながらも、お礼を言う。
お墓参り当日、ジブンは陽さんの本名を知ることとなる。
本当の名前すら知らなかった人を、好きだなんてオカシイだろうか……?
ううん、例えオカシくても、別に構わない。この気持ちに、ウソはないのだから。
陽さん、あなたのことが大好きでした。
ジブンはお墓の前で手を合わせ、心の中でそう呟く。
さようなら。どうか安らかに、眠ってください。
ジブンはいつまでも……あたなのことを想っています。
星は太陽を想う。【完】
花に焦がれる、朝日に唄う 双瀬桔梗 @hutasekikyo_mozikaki
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