第8話 差別と四人の魔女

夜は眠れなかった。空に浮かぶ二つの月を見つめていた。




ササは言われたとおりに仕事をして、三時間もすると戻って来た。




「幸か不幸か、彼女に身内は居なかったようです。母親は、別の国で死んだようです。遺体はきちんと葬儀屋に頼んで弔ってもらえるようにしました」




それを聞いて少しホッとしてしまった自分が嫌になった。




日が昇る頃に、メリスは目を覚ました。




「おはようございます」




「おはよう」




メリスはゆっくりと起き上がると、書斎へ歩いた。




床には乾いた血が付いたままだった。




「やっぱり夢じゃなかったんですね」




カエデは小さく頷いた。




「レイフィを操ってカエデ様を殺そうとした人を、私は絶対に許せません」




空には三の月が昇っている。メリスは窓からそれを眺める。




「必ず見つけ出します」




「そのためにも、早く計画を進めないといけない。老導院から、僕に全権力を移す計画を」




王宮の召使いが用意した朝食を食べて、すぐに書斎に戻る。




ササには既に別の仕事を与えた。この国を変えるために必要な個人情報の収集だ。




メリスはカエデの隣で書類の整理を手伝った。




 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




 ササ 16歳








 美貌:342/4302








 作法:2321/4302








 学力:3541/4302








 心:3983/4302








 備考 D地区出身




 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




「ちょくちょく見かけるんだけど、D地区ってなんだ? A、B、C地区は見ないのに」




メリスは少し黙る。




「……D地区は、輸出用の地区なんです」




この国の不可欠な制度。外の国に女を送り、その腹から生まれた子供達だけ帰国する。選ばれた女がこの国に帰国するのは死んだときだけである。大体が三十歳になるより早い。それは仕方のないことだと分かってはいる。だからこそ、送られる女は抽選で、平等に選ばれると思っていた。そう教えられていた。




だが、違うようだ。




「つまり、生まれた時から決まっているってことか? 自分が外の国に送られるということが」




子供を産むことは良いことだ。だがそれはこの国以外の話だ。この国の女は皆、それ以外の幸せを見つけ出して生きている。だからこそ、生きていられる。それがどうだ。生まれた瞬間から最悪の運命が決まっている。




「どうして、どうしてそんなことが……」




昨夜のメリスのようにカエデは止まった。




「老導院です。全部、あの人達が仕組んでいるんです。選ばれし魔女の血と、そうでない凡人の血を分けて考える人ですから」




魔女? この国に生まれて、初めて聞いた言葉だった。だが、どうにも初めて聞いたとは思えない。




「魔女っていったいなんだ?」




「魔女は、かつていた四人の魔法使いのことです」




「それがどう関係あるんだ?」




「老導院はほとんど全員が魔女の血を引いているんです。でもそれ自体は悪いことではないんですよ。何を隠そう、私だってその血を引いています」




カエデは驚きを顔に出した。




「カエデ様はあまり、こういったことを教わらなかったでしょう。あまり知るべきことでもありませんし、老導院の人達からしたら、知られたくないでしょうから。とくに、あなたには」




「ということは、魔女の血をひかない人間がD地区の住人ってことか?」




「概ね、そうです。実際は難しい問題です。例えばクイン様はルヴァル―グ族、つまりこの国の創始者の家系です。ここら辺が少し難しいのですが、この国は男が生まれれば正義ですから、王の血を濃く引いていても、国のトップになるわけではありません。女王は老導院が決めますから。ですが老導院の中にも王族信仰派が少なからずいます。それによって、ギリギリのところで食いとどまっています」




メリスは深く呼吸をする。




「つまりですね。魔女の血をひかない人間の中から更に抽選をしているんです。もしもその歯止めがなかったらもっと酷かったと思います。その血をひかない全ての人間が、考えたくもないですが、輸出品として扱われたと思います。しかも国のためではなく、自分の私腹を肥やすために」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

前世で美少女4人を殺したものの老人を1人助けた男が、女しかいない国に召喚された @himeru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ