◇2◇
「それはさておいて、だ」
新しく煙草を取り出し口に咥え、オーパスを見る。
少なからず、この先の話を聞くからには面倒事を背負い込む。
そういえば落としたあのガラクタの剣は拾ってこなかった事もあって、中身どうなってたんだろう等と考えながらもう一度考えをまとめ直す。
「実際どうするかは一旦置いて、どういう状況になるのかを確認したい」
まだ、適切ではない。シュアリィを任せるかどうか、という話は解らないラインだ。このオーパスという男がどの程度信用できるかの話が聞けていない。
「私があの少女を保護する、という話は元々個人の話だ。
「おそらく別の組合か。だいぶ手荒な様子だし、しきりに金でどうにかとか言ってきてはいたがよ。どうにもならないと思うだよな」
「一考の余地はありだ。私は見当をつけるとしても、個人で関わるには些か問題も生じるというものだ」
「……だろうな。そんで、保護のプランはどうなんだ? オレはここの孤児院に預けておくのが割りと良いと思っているが」
用心棒のアニーを一瞥、その後に扉に目線を送る。
「歯車を隠すなら部品入れにか。それも正しかろう。こちらも嬢を一人匿うのにも色々な準備が必要だ。どうしたら良いものかと悩むが」
そこまで言って席を立つ。
「お前がここでボディーガードをするのであれば――いや、逆か。そんな風体の
続けるように言えば、考える仕草を見せる。ナナシに視線を向けているので、
おそらくお前も考えろ。ということなのだろう。
ナナシは深く背もたれに背中を預け肘掛けにひじを置いた。
「隠れ家かあ? 隠れ家と言えるほどろくな場所ではないが辺境であんまり人は来ない。要するにオレの店なんだけど」
悲しいことにいつも閑古鳥が鳴いている自分の店を頭に浮かべた。
「客が入らないから収入が先細って結局スカベンジャーの真似ごと。ぱっと見は喫茶店だが実質寝止まりするだけの小屋みたいなもんだ」
「いいのではないか。
上出来だ。と言わんばかりにオーパスはうなずいてみる。
心底嫌そうにナナシはにこりと、どちらかといえば口元が歪んだだけにも見える。
ここまで来たのは良いが、結局とんぼ返りになる。
大した手間ではないが、ここを狙われるのは非常に不味いのだ。
目をつけられたかはともかく、ここをいかにして無関係であるかを示す必要もある。
「オーライ。シュアリィはオレの店に連れて行く。それでまずはここでの話はなかったことと判断して良いのか?」
確認のために指を一つ建てた。
「よかろう。こちらも本当に偶然見つけたに過ぎん。少なくともどこかで暴れた奴らがいる限りはそれが隠れ蓑にもなろう」
オーパスは頷いて見せる。
「それじゃあ商談、になるんかねこれは。ひとまず承知はしたが」
「……したが?」
「言うだけ無駄かもしれないんだが、報酬とか、そういうのねえの?」
むむむ。という顔をしながらオーパスはナナシを見た。
流石にそれは予想していなかったらしく、面を食らった表情だ。
ちょっとだけ溜飲が下る気持ちで今度は嫌らしそうににこりとする。
「そりゃあ、黙っててやるから預かれ。って脅されてる訳だから、それ相応に見返りは欲しくなるのも人情だろ?
ここは押しどきでは。などと思いながらナナシは続ける。
「ならば、そうだな。――
多少のコネがあれば以外になんとでもなるとは言えるし、おそらくこのオーパスという人物にはそれなりの権限があるのだろう。
正しい手順を使って昇進するのはごく一部だ。コネクションも人望という実力の一つではあるが、実際に実力は最低限必要になるのである。それに、ナナシ当人があまり乗り気ではないところもある。
「――それはパスだな。オレはナナシで通ってるんでね」
身元の保証。というのも一つ必要な段階になる。「名無し」などと名乗っている男に対して後見人になって署名してくれる人物がいるかというと怪しい。
それに関しては少しだけ悩んだ後に納得したのかオーパスはその考えは捨てたようだ。
「確かに、私も身元引受人を買って出るほど仲良くなった覚えもない」
「なんで、当面の資金を頂ければ」
にぃ、といやらしそうな笑みを浮かべて答える。
「子供を匿うにしてもそれ相応に入り用になるんでね? ここらでの支払いなら銀貨や金貨よりクラスタのほうが助かる」
じゃらじゃら、と革袋を見せて中身のクラスタを出す。
大小に差はあれどそれなりの数だ。
「いいだろう。多少なりとも協力の手間賃として支払おう。どの程度が必要になる」
「少なくとも金貨一枚分は欲しいね。金貨そのもので渡されてもここじゃ両替も難しい。一括で全てでなくていい。まあ最終的にそれぐらい貰えればいい。ってことだ。そっちの準備が終わったらシュアリィを引き渡すことも視野に入れやすいだろ?」
「大きく出たな。確かに組織からすれば大したものではないだろうが、……まあいい。概ねそれで構わない。その分の仕事はこなしてくれるのだろう」
法衣から手を出せば彼の財布なのだろうか、しっかりとした造りの革の財布を取り出し。そこから大きめのクラスタを複数出す。金属音もしていたのでおそらく通常の金銭も入っているのだろう。
「この程度で構わないか? お前が言うように両替が手間で今すべてを出すのは控えておきたいのだ」
了承するように頷いて、クラスタに触れる。結構な大きさのものだ。一個でもそこそこ融通が効く金額とも言える。
「じゃあ、オレの隠れ家……ってのも悲しいが、店まで行こう。残りの話はそこでだ」
二人は立ち上がり、アニーを見て頷く。
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「というわけで、すまんがやはり一旦シュアリィはオレが預かることになった」
両手を合わせてルアルとシュアリィ、ルニミィアの三人に頭を下げる。
「事情はわかりました。本当にそれでいいんですか?」
「まあまあ落ち着きなさいルニ。他の子供達が危ない目に合うのは避けないわけには行かないでしょう」
理解はしているが納得はしていない。という雰囲気をこれでもかと出しているルニミィアを横目にナナシは片膝をついてシュアリィに問いかける。
「まあ、言うほど悪い部屋じゃないはずだから問題なければついてきてくれると助かる」
「わかった」
シュアリィは二つ返事だった。
存外に聞き分けが良くて驚く。
「それでいいなら行こうか。とりあえず一旦家まで行ってから買い物も必要だしな」
この辺で生活するにはシュアリィはやや薄着だ。寒がっている様子はないので問題はないのかもしれないが、風邪を引かれても困る。
そんな事を考えていたらルニミィアが奥のタンスから桃色のマフラーを取り出して シュアリィの首に巻いてあげていた。
「首輪も隠れるしちょうどいいね。前に使っていたものだけど、よかったら使って」
ルニミィアがシュアリィの頭を撫でるとくすぐったそうにしていた。
「何かあったら、いつでもここに来ていいからね。ナナシさん、生活力あるのかわからないし。配給はあるから食べ物には困らないと思うけど、何かあったらね」
何度か同じことを言っているのを若干呆れながらルアルへと視線を向けた。
「とりあえず私のところで調べれるものは調べてみるよ。もちろん報酬は頂くがね。小さな子だからね。体調には気をつけてやりなよ」
だいたい似たようなことを言われ、首を縦に振るだけで答えれば、孤児院を後にする。
風見鶏の向く方へ 七篠 昂 @ladida_boys
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