後編 ハッピーエンド!


「おおー。キレイになんにもなくなったなあ!」


 オレは自分が滅ぼした世界を上空から見ていた。

 大陸は形をとどめず、荒れ狂う海が小さな島はもちろん分裂した大陸の破片も飲み込んでいく。無理やり起こした火山の噴火で大地はマグマと灰色に覆われている。

 仕上げに毒ウイルスを風魔法で運んでいるので、無事な土地があっても、ちゃんとそこにいる人間も死んでくれてるだろう。


「うんうん、今回は前の反省も生かせてよかったなあ。やっぱり魔界を先にすませて正解だったな」


 魔王城に行ったのは、この世界には魔界の概念があると知ったからだ。魔界に住んでいる魔族ももとは地上の人間に追われたという種族らしいので、神の救済対象だ。この世界すべてを救済するなら魔界にいってそこに生きているものたちに死を与えなくてはいけなかった。予想通り魔王城から魔界へ行けてよかった。地上をこんな風にしたら、魔界へ行くゲートもなくなってしまうからな。

 前回も同じようなファンタジー世界に生まれてたが、魔界の可能性に気づいたのは地上を滅ぼした後だったので大変だった。今回は手際よくうまくいった。たった15年でこの世界を滅ぼして、人々を救済できたのだから。

 最初の世界は大変だった。一大宗教の教祖といっても、魔法もなにもない世界では満遍なく人類を死なせて、救済するのは大変だった。苦痛からの解放のための行為だから、ウイルスをばらまいて、無意味に苦痛を長引かせる方法はとれなかったし、そもそもどんなウイルスは数パーセントも発症しない人間がいる。中途半端はダメだったから、一度で全人類を救済しなきゃいけなかった。まあ、その時はゴリラに頑張ってもらった。

 その世界の人類全てを救済した、と確信して、オレは満足に最初の世界で息を引きとった。


 が、気づけば『転生』とやらをして、全く別の世界にいたのだった。


 最初は混乱したが、すぐにわかった。パラレルワールドや並行世界の存在は知っていたし、何より宇宙とは広く、大きく、一つではない。これは神がこの世界の人類も救済せよ、という意思だと気づいた。

 そこでももちろん人類を救済したが、また別の世界で生まれなおした。そして世界を滅ぼして、救済した。

 今回の転生は丁度一千回目だ。だいぶ世界を滅ぼすノウハウは身についた。おかげで知識チートを使って世界救済RTAができるようになった。今のところ最速記録は五年だ。長い時は四百年くらいかかったので、だいぶ手際が良くなってきている。

 魔法が使えるのはやはり便利だ。魔法がない世界ではだいたいゴリラっぽいのに手伝ってもらうことになっていた。そろそろゴリラは神の使徒として崇められていいはずだ。きっとそんな世界もどこかにあるだろう。


「さあ、今世はこれで終わりか。次の世界へ転生するかは……神のみぞ知る、ってやつだな」


 自殺はできないので、マグマが固まった地面に穴を掘って、土の下で睡眠も食事もとらず祝詞を上げる修行をする。これは自殺ではない。立派な神への道にいたるための行いだ。肉体が人間離れしているので、数十年くらいかかるかもしれないが、そんなものは苦ではない。むしろ喜びだ。

 オレは毒が漂うそよ風を浴びながら、荒れ狂う大地に降り立つ。

 見回せば、そこは人はおろか、どんな生物も生きることができないであろう、灰色の世界が広がっていた。なんと理想的な景色だろうか。オレは嬉しくなる。


「嗚呼、今回もちゃんとみんなを救済できた。これでみんな、生きることの苦しさを味わうことなく、六十億年後の救済を待つだけでいい。オレが不甲斐なくて十六年も苦痛に耐えてもらうことになってすまない。でも、もう苦しむことはない。大丈夫、神は必ず、等しく、全ての君たちを、救ってくれるだろう。それがこの世の真理であり、唯一の幸福にいたる道なのだから!」


 オレは心から溢れる歓びをこめて、この滅んだ世界を祝福した。





       ――――――――――――――――


  だが友よ、世界の終わりに到達することなしに、

  苦を終わらせるということはないとも私は言う。

  友よ、実に私は、想と意とを伴っている、

  この一尋ほどの身体においてこそ、


  世界と、世界の集起と、世界の滅尽と、世界の滅尽へと導く道とを、

  告げ知らせるのである。


               『ローヒタッサ経』


       ――――――――――――――――

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ハピエン厨の異世界転生者~テンプレチートで全世界をハピエン!~ コトリノことり(旧こやま ことり) @cottori

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