いかにもなゲーム調ファンタジーの世界に、いかにもな手段で異世界転生した人が、いかにもな感じでメキメキ実力を身につけていく、のだけれど……? というお話。
異世界ファンタジー、ではあるのですけど、でもそれ以上にというかなんというか、実はショートショートのような構造をした作品であるように思います。ある程度予定調和のようなものを前提とした形で始まり、きれいに捻って落とすところに面白味がある物語。つまりは上記の「のだけれど……?」の部分が肝で、ここにどれだけの意外性や諧謔味を持たせられるかがそのまま物語の面白みに直結していると思うのですけれど、まあ見事にやられました。まさかの。いや本当に凄まじいのがきました。
というわけでこの先はどうあがいてもネタバレになりますのでご容赦ください。
実はこれ見た目よりはるかに深いお話というか、まったく異なる二種類の教養を必要とする作品であるように思います。ひとつは『物語のテンプレートとしての異世界転生もの』の知識。そしてもうひとつはおそらく仏教の知識です。実はその、自分はこのどちらも中途半端にしか知らなかったりするので、作者がこの物語に仕掛けた面白味をどこまで受け取れているか、ちょっと自信がない部分もあるのですけれど(すみません)。とりあえずそれでも最低限、物語がとんでもない捻りを見せたのはわかりました。前編のラスト、突然の「世界を滅ぼす」宣言。
まだこの時点だと急に悪堕ちしたようにも見えるのですが、さにあらず。幕間を読み終えると理解できるのですけれど、どうやら最初からそのつもりだったらしいということ。ここの機序というか動機というか、彼の考え方を形作るきっかけみたいなのが面白いです。
たぶんこの救済というのは弥勒菩薩(あるいはそれをモデルにした何か。神だし)のことだと思うのですが、まさかタイトルの「ハピエン」がそこにつながっていくの!? という衝撃。なるほどいくらハッピーエンドが約束されていると言っても、それが六十億年後じゃ遅すぎるわけで、結果生まれたのが〝ハピエン厨〟であるところのこの主人公。死を救済としているのはもうこの際仕方ないとして、六十億年というのがしっかり効いたか、こだわりがその達成スピードにあるところ。おかげで彼が転生するたびに繰り返される、世界滅亡RTA。なんてこった。これ実質魔王よりよっぽどヤバいブツがあちこちの世界をハシゴしまくっているのでは? お願い弥勒パイセン早く来て!
強烈でした。特に結び付近、彼のめっちゃ満足げな様子とかもう大変なことになっています。この落差と、そこに漂う皮肉な感じ。ブラックな結末が綺麗にショートショートしているというか、鋭く効いているお話でした。いつか彼に転生から解脱できる日の訪れんことを。