エピローグ

新たなる人の時代へ

<ASR1001年1月1日 魔王城>


「明けましておめでとう。

 西暦5001年1月1日。天気は快晴。

 初日の出は新世紀に相応しい、きっと素晴ら……これって千年前と一緒じゃないか?

 まあ、どうせ誰も見てないんだから良いか。


 あー、で、千年ぶりに更新したこの動画についてなんだけど、まあなんだ。

 やっぱり暇潰しだったりする。


 これを見る人が現われたとき……その時は生きてる人がいるのかどうか甚だ疑問だがね。一応俺からのメッセージを残しておこうと思った。


 あ、そか。

 俺の自己紹介をしてなかったな。

 俺は吉備津兆。


 名字が大吉のキチに、備えるって漢字と、津波のツって書いてキビツ。

 名前が1兆のチョウ……億の次のやつね。


 ただコレを見る奴はそんな名前よりこの呼び方のがしっくりくるんだろう。

 君達が魔王と呼ぶ存在。それが俺だ。

 で、信じられないだろうし、信じたくもないだろうが、聖人達と同じ存在って事になる。


 何のこっちゃか解らんだろうが、俺や聖人達は人間じゃない。

 だが天界や魔界や異界から来た正体不明の存在でもない。

 この世界が生まれる前にいた人間達によって造り出された、者ならぬ物。

 それが俺達だ。


 あー、口で者と物って言っても区別がつかないよな。

 映像には後でテロップでも入れておこう。


 まあ、俺達が何者かなんてのは重要な話じゃない。

 俺達のような存在を造り上げられる程に、前時代の技術は進んでいた。

 君達がその技術を魔術と呼ぶほどに……


 人は理解できない術を魔術と呼び、理解できる術を技術と呼ぶ。

 その意味では君達が前時代の技術を魔術と呼ぶことは、君達にとって幸運なのかもしれないな。


 なぜって、前時代の人達はその技術の進歩により星より自身を優先し、結果星を破壊しかけ、その為に滅ぼされたのだから……


 君達はきっと魔王は封印されたと聞いているだろう。

 まあ、半分間違っていない。


 ASR1000年。

 あのとき起きた戦争の後、俺は君達が魔王城と呼ぶこの場所の地下にずっと籠もっている。

 自分の安全の為ってのもあるけど、俺がいると住民達が更なる力を授かろうとして寄って来るからな……


 籠もっているといっても結構優雅な生活をしているけどね。

 毎日美味いものを食い、好きなときに寝て、愛する者が側にいる。

 俺は元々引き籠もりでね。

 時々暇を持て余して困ることもあるが……うん。

 人生ってのはこれくらいで丁度良い。


 シェルター……魔王城って言わなきゃいけないんだったな。

 魔王城の外ではシュテンが中心となって、居候達皆で協力して平和に生きている。


 居候達を覗き見てると思うよ。

 悪くない。

 今の世界は悪くないって。


 あ、そうそう息子もできたんだ。

 事情があってここにはいないけどな。


 今どこにいるかって?

 豪華客船で優雅に海上をクルージングしてるよ。

 まあ、まだ卵だから本人にそんな自覚はないんだろうけど。


 ウチには優秀なメイドが何体もいてね。俺と同じで人間じゃないけど。

 彼女達がアイツが成長するまで見守ってくれるってさ。

 スィンが完璧に調整してくれたからね。

 彼女達に任せておけば安心だ。


 彼女達が地下からいなくなってスッキリしたおかげで、魔王城は広々空間。

 まあ、前から広かったけどね。


 ああ。


 何の気兼ねもない。

 正に理想の生活ってやつだ。


 この先何十年、何百年、この生活を続けられるのか解らんが、いつまでも続いていくことを願っているよ。

 もし、この日々に人が終止符を打てるほどに、人が進化したとき。

 それはきっと、人の時代の終わりへの、カウントダウンが始まるときなのだから。


 前時代の人間を滅ぼした黒い霧。

 君達が魔王の呪いと呼ぶ物は、今も尚生きている。


 人が魔術を技術に変えたとき。

 それは人が黒い霧に滅ぼされるときだ。


 あー……いや、やめとこう。

 らしくないな。うん、俺らしくない。


 世界の在り方は俺なんかが決めることじゃないしな……


 あー、うん急に辛気くさくなった。スマン、スマン……」


「トキ」


「ん?」


「良いじゃない?

 決められないも、願うくらいは許されるわよ。

 ねえ、スィン?」


『はい、マスターアンチス。

 我々は思いまで束縛は致しません』


「……そうか。

 ……あ、そうだ。言われて思い出した。

 そういえば今年から俺名前変えるんだったわ。


 いや、キビツトキとか魔王の名前としてどうかと思ってさ。

 どうせなら世界の敵っぽい名前を名乗ろうってことになってさ。

 てわけで、さっきの自己紹介は忘れてくれ。


 俺は魔王。

 魔王……アンチス。

 人に滅びの力を授けし者。

 そして魔の力を人にもたらした世界の敵。


 だからどうか……皆が俺を、魔を、嫌い続けてくれますように」





<ASR1005年4月5日 聖教国聖都大等学部講堂>


「起立、礼、着席。


 皆さん入学式以来ですね。

 講義を始める前にまずは自己紹介をしましょう。


 私はミレニア。

 皆さんの歴史の講師を務めます。

 以後よろしくお願いしますね。


 あー、はいはい。そうです。

 ……ちょっと、静粛に。コラ、そこ! 静かに!

 

 コホン。

 皆さんご存じの通り、5年前の戦争で兄ラスティスが魔王アンチスを封印しました。その代償は大きく、聖人様方もまた、魂を還しました。


 天使召喚の為にビリオン様、ウィシア様、ルナ様、ライン様が。

 そして契約の為にピッタ様が……

 聖教国の理想のために先陣を切り、魔王アンチスに命奪われたリンディア様、ヨハン様。


 全ての聖人様の魂の下で、勇者ラスティスは遂に魔王の脅威を打ち払ったのです。


 ASR1000年のあの戦争。

 各地で謳われる天使と魔王の戦いは、決して誇張でも何でもないのです。


 我々は語り継がなければなりません。

 戦争の悲惨さを。

 魔を手にする危険性を。


 今一度あのような戦争を起こさぬ為に。

 次の世代に今と変わらぬ日々を引き継ぐために。


 さて、では早速ですが講義を始めましょう。

 語り継ぐべき事を、語り継ぎ続けて未来に繋ぐ。

 その為に我々は歴史を学ばねばならないのですから」




~FIN~

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人工魔王 ~ハイテク使ってダラダラ生きていたら何故か魔王と呼ばれるようになったんだが(泣)~ 村人T @MurabitoT

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