きっといつまでも続く、お伽話のその後

 お伽話の舞台となった深い森、その奥にある館を訪れる少年と、そして館の主人である博士の物語。
 ファンタジー、あるいは伝奇のような(言い過ぎかも)風合いの物語です。全体的にダークな雰囲気が漂っているものの、でもダークファンタジーというのは少し違うような感覚。童話やお伽話をモチーフにするだけでなく、その裏に隠された現実やその残酷性を、ファンタジーという形で描き出したような作品です。たぶん。少なくとも自分はそのように読みました。
 構成というかアプローチというか、物語のイントロである第一話『お伽噺』が興味深い。本当にここだけ短話完結のお伽話で、実質的には第二話から物語が始まっている。おそらく同一の森であることはすぐに察しがつくのですけれど、でもこのお伽話が物語にどのような形でつながっているのか、予測しながら読み進める感覚の独特さ。具体的にはリアリティラインの引き方というか、実際どこにどう線引きされているのか、それを手探りで見つけていくような読み心地が面白い。
 というのも、本編がファンタジーであるのに対し、序章は完全にお伽話そのものなんです。例えば「魔女」やら「呪い」やらの存在が、でも果たして実際には「何」だったのか? いや創作的なファンタジーの世界と思えば、わりと字義通りのそれそのものでもおかしくはないのですけれど。でも『お伽話の魔女』と『ファンタジーの魔女』ではやっぱり違うわけで、ついついその辺りの繋がりや裏の意図を想像してしまう。特に絶妙だったのが第二話以降のファンタジー度合いというか、出てくるのは怪しげな館と博士であって、全然魔女とか呪いとかは出てこない——どころか、着せられた濡れ衣という形(いわゆる魔女狩り)という形で出てくるんです。
 この感じ、材料だけは与えながらも確定させない、煙に巻かれるような感覚がとても好きです。本当なら可能な限り早く明示すべき『物語世界のルール』を、でもあやふやにしておくことでそれ自体を面白みに変えてしまう。言うなればある種のミスリードのようなもので、またそのために作中世界に伝わるお伽話を引いてきたことも絶妙でした。単純にイントロとしての役目を果たしながら、でも必然的に基準がふたつになるため、自然とそこに考えが向いてしまう。
 以下はネタバレを含みます。
 お話の筋というか、描かれる物語も素敵でした。特に結末で明かされるあれやこれや。本当にお伽話の世界というか、ある種の暗さのようなものも含めて、綺麗だけれど寂しさのある終幕。いつまでも森の奥で続く彼らの生活は、でもこの先もきっと今回のように、誰かのハッピーエンドの手助けをしていくのだろうと思わせる余韻。まさにキャッチコピー通り、終わらない世界に幸福を寄り添わせてみせた、優しくも耽美な物語でした。