二巻発売記念SS 志乃のことが好きだったとあるクラスメイト、倒れる。

前書き:

 二巻発売記念SS投稿します。とある一人のクラスメイト、真壁武敏くんという男子に焦点を当てたSSです。

 発言が『――』等で出されることも多く、一見モブに見えるクラスメイトたちですが、一人一人にきちんと名前、背景、人生等を設定していたりします。

 タイトルに”倒れる”とありますが、なぜ倒れたのか……最後まで読んで頂ければ、納得して頂けると思います。


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 三代と志乃のクラスに、真壁武敏、という男子生徒がいる。

 剣道部に所属し、寡黙な性格でもある武敏は、入学以来ずっと志乃のことが好きだった。可愛くて、よく笑って、そして実は男が苦手なところが……とても、初々しくて。

 武敏は、志乃とすれ違う時に、必ずと言っていいほど足を止めて振り返っていた。もしかすると、志乃も振り返ってこっちを見てくれるかもしれない、という淡い期待を持っていたからだ。


 だが、そんな期待が現実となることは一度もなかった。

 そして――ある日突然――志乃は、藤原三代と付き合い始めた。

 衝撃だった。

 しかし、色々と振り返ってみると、別におかしいことでもないと気づいた。


 武敏は三代のことも知っていた。

 実は中学が同じで、その時にもクラスが同じだったことがある。だから、三代がどういう人間なのか、他のクラスメイトたちよりもわかっていた。

 自分と同じで寡黙で、頭は凄く良くて、確か親は学者とかで……なにより、単純に良いヤツだ、と。


 中学時代のある時、授業中に気分が悪くなって吐いてしまった男子がいた。その男子はクラスではイジられキャラであったこともあり、誰もが避けて助けようとしなかった。

 そんな中、三代だけがいつもの無表情のまま、すっとその男子の肩を支えて保健室へ連れて行き、戻ってくると汚れた床や机の掃除をした。

 そして、自分の席に座って、しれっとしていた。


 何を考えているのか分からないだとか、意味が分からないヤツだとか、三代のことをそう評する同級生の方が多かったが、武敏は素直に『良いヤツだ』と思った。周囲の目を気にして動けなかった自分より、ずっと『良いヤツだ』と。


 だが、特に絡みがあるわけでもなく、そのまま時間は進み受験も終わり高校の入学式の日がやってきた。

 武敏はそこで、恐らくもう会うことはないと思っていた三代の姿を見つけた。

 頭がよい三代が、どうして微妙な偏差値のこの学校に来たのかは分からないが、ともあれ、同じ中学から入学した生徒も少なく心細かったこともあり、武敏はなんとなく三代に話しかけてみることにした。


 ――藤原だよな? えーと、その、昔の話だが……あの時……吐いたヤツがいた時、お前すぐに助けて凄かったな。


 すると、三代は「覚えてないな。本当にそんなことあったのか? というか、俺と同じ中学だったって本当か? 顔覚えてないんだが……まぁ大体のヤツの顔を覚えてないが」と首を傾げていた。


 やったことを自慢するわけでもなく、むしろ忘れていると三代は言った。

 本物の優しさ、というものを武敏は三代に見た気がした。

 顔を覚えられていないのはショックだったが、まぁ絡みも無かったのだから仕方がない面もある。

 ともかく、志乃と三代が交際を始めたことに納得するくらいには、二人について武敏はそこそこ詳しい方であり、三代は優しくて志乃は男が苦手ということを知っている。


 だから、既に二人がセックスを済ませている、という噂話を聞いた時に武敏は思わず鼻で笑った。

 確かに、三代と志乃は教室で「あーん」をしあってイチャついてる姿を見せることが多い。しかし、それは、小学生とかの恋愛ごっこみたいなものに違いないのだと武敏は思っている。


 武敏は彼女がいたことがないし、当然ながら女性経験もない。しかし、インターネットの配信ドラマ等を通して、”体の関係にある男女”というものを、おぼろげながらに掴んでいる。

 もっとこう、しっとりした雰囲気で、黙ったまま少しずつ距離を詰めて情事に至る……みたいな感じなのだ。


 ゆえに、現在飛行機の中で、三代と志乃が二人で一緒に入った化粧室を見に行くのに周囲がビビる理由が、よくわからなかった。

 せいぜい、おでこにキスをしているくらいだろうに、としか思えなかった。


 武敏はすっと立ち上がり、「俺が見に行く」と呟いた。すると、わっ、とクラスメイトたちの歓声が上がった。


「タケトッシー、すげー勇気あるじゃん」

「真壁くん……行かない方がいいと思うけど」

「そーそー、やめときなって」

「武敏って結構神経太そうだし、ほら、剣道部だろ? 心頭滅却すればなんちゃらって極意とかあるんじゃね?」

「行ってこーい!」


 武敏はひらひらと手を振りながら、化粧室のドアをすぅっと音を立てずに開け――


「もっと……して……これじゃまだ三時間くらいしか我慢できないから……」

「わかった……」

「ぁ……ん……」


 ――武敏の思考が停止した。三代は志乃のお尻を支えるように持って抱っこし、そして、二人の唇が唾液で繋がっていた。

 大人のキス、だ。


 なんだか、えっちな匂いも室内に充満しており、武敏は立ったまま意識を失った。だが、数秒後になんとか意識を取り戻し、すぅっと扉を閉めた。

 そして、鼻血を盛大に噴出させながら再び意識を失い仰向けに倒れ、他のクラスメイトにずるずると引きずられて席へと戻ることになった。


「あー……駄目だったか」

「何を見たんだろ……」

「……おい、次誰が行く?」

「行かないでしょ。誰も」

「でも、気にはなるけどね」

「よし、じゃあ次お前行け」

「やーよ。ってか『お前』って、なにその言い方ムカつくんですけど?」




~~~~~~~~~~~

あとがき:

 タ、タケトッシィィィィィ~~~‼‼(´;ω;`) 武敏は……犠牲になったのだ……。

 ※補足情報。作中の最初の方で触れているのですが、三代くんがこの学校に来たのは単純に家が近いからです。あと、三代くんは現在のクラスメイトの顔と名前もほとんど覚えてなかったり……悪意があるわけではなく、単純にぼっちなので。


 というわけで、二巻をぜひともよろしくお願いしますね。ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイ

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後ろの席のぎゃるに好かれてしまった。もう俺は駄目かもしれない。 陸奥こはる @khbr_ttt

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