4章10.友達はえっちの詳細が気になる ※書籍二巻が12月20日に発売です。詳細はあとがきにて。

前書き:

 前回のお話→ 修学旅行で空港現地集合にて電車に向かっていた三代と志乃は、イチャついてサラリーマンに歯ぎしりさせてた。


 PS:更新遅れて本当ごめんなさいでした! 二巻詳細については、あとがきにございますので、ぜひ、お読み頂ければと……。


~~~~~~~~~~~




 空港に着いた三代と志乃の二人がまず最初に見つけたのは、中岡だ。

 随分とやつれており、眼下には酷い隈もあり、”教師として二度目のやらかしはできない”という決意が見てとれる顔色の中岡は、こちらに気づくと手招きをしながら掠れた声を出した。


 ――藤原! 結崎! こっちだ、こっち!


 呼ばれるがままに中岡のもとへ行くと、そこには、先に来ていたクラスメイトたちの姿もあった。

 クラスメイトたちは、一様に”修学旅行が楽しみ”という雰囲気で、和気あいあいとしている。だが、ふと見えた委員長だけは顔色が中岡同様に悪く、その眼下には隈があった。


「……遅刻はできなかった。ボクは既に一度やらかしている。二度目はないのだ。しかし、さすがに徹夜も三日となると……顔に出てしまうな。しかも、こうして独り言を言っていないと意識が無くなりそうにもなる。駄目だ。まだ寝れない。せめて、飛行機に乗ってから……」


 委員長も中岡同様、二度目はやらかせない、という心持ちであるらしい。ぶつぶつと念仏を唱えているかのような状態に、若干だが皆が距離を取っている。

 いや――一人だけ例外もいる。

 高砂だ。

 唯一、高砂だけは委員長の近くにおり、ウンウンと頷いていた。


 まぁそれはさておき。

 時間は過ぎていき、まだ姿が見えない一部のクラスメイトたちも徐々にやってきて、そのうちに全員が揃い、時間もやってきた。

 ふらふらな足取りの中岡の先導で、次々に自動チェックイン機で搭乗券を発券。荷物を預けたり等、諸々の手続きも進めていく。

 と、ここで、三代と志乃の二人は、自分たちが隣同士の席ではないことに気づいた。


「あっ……あたし、三代の隣じゃないっぽい」

「……のようだな」

「あたしの隣は……」

「……私、です」


 おずおずと手を挙げたのは、ひょこりと後ろから現れた高砂だ。どうやら、志乃の隣は高砂らしい。

 では、三代の隣は――


「隣、藤原じゃん」


 ――志乃の友達の一人だった。以前に三代の改造計画の時に加わっていた四人組の一人でもあり、つまり、ギャルである。


「……お前か」

「あたしだと不満か?」

「不満というか、志乃の隣がよかったからな」

「ハッキリ言うねぇ。まぁ我慢しなって。席交換してもいいけどさ、そうするとあたしが高砂の隣になるじゃん? 高砂が嫌でしょ、あたしと一緒は」


 ギャルが高砂をちらりと見る。高砂はびくっとして志乃の後ろに隠れた。


 高砂も志乃には随分と慣れた方だが、しかし、だからといって志乃の友達にも慣れたかというと、そんなことはない。

 あくまで、結崎志乃という個人に慣れた、というだけなのだ。志乃もそれを感じ取ったのか、むむっと眉間に皺を寄せたものの、最終的には諦めた。


「……三代に変なことしないでよ?」

「変なことはしないって。そんなことしたら、志乃怒るでしょ」

「うん。すっごい怒る」


 志乃は三代に近づくと、「何かされたら、後で教えてね」と耳打ちをしてきた。三代は志乃の頬にキスをして返事とした。


 ☆


 さて……『変なことはしないって』と断言していたギャルだが、退屈な時間に耐えきれなくなったらしく、最初の三十分こそ我慢していたが、徐々に三代に話しかけてくるようになった。


「志乃とさ、どんなえっちしてんの?」

「は?」

「なんか気になるなって。志乃から話を聞くことあるけど、盛ってんじゃないかなって思う時あるし。……バレンタインの時、チョコ塗りたくってえっちしたって、マ?」

「それ答える必要あるか?」

「別にないけど……答えないと、志乃が嘘言ってるってあたしは思うかもね。志乃は嘘つきーって」

「志乃は嘘をつかない」

「……じゃあ、本当にチョコえっちした?」


 からかわれているのは分かっている。だが、それでも、志乃を嘘つき呼ばわりされるのだけは三代も許せなかった。

 だから、断言した。


「した」


 三代の凛としたその佇まいに、ギャルはぎょっと目を剥いた。そして、おそるおそるに三代の手の甲をつつく。


「……ほー、この手で、チョコでべっとりの志乃を、撫で撫で揉み揉みちゅぱちゅぱして、そして合体したと?」

「そうだな。文句あるのか?」

「や、ないけど……こうも堂々とされると……っぱ藤原って凄いなーって」

「言っている意味がよくわからないが、俺は事実を言っただけだ」

「別に悪いとは言ってないって。むしろ、清々しくて感心してる。変に隠そうとしたりされると、そっちのがさ、志乃の立場からするとなんかヤな感じじゃん。それにしても、この手……ほほう……ごつごつしてて、意外と男らしい手――」


 ギャルは再び三代の手の甲をつつこうとするが、ハッと何かに気づいて固まった。一体どうしたのか、と三代が怪訝に首を捻ると、ギャルはゆっくりと通路に顔を出して後方を見た。


 視線の先――少し離れたそこの席に座っていたのは志乃であり、目を細めて、恐ろしいほどに冷たい表情だった。

 距離的に、こちらの細かい動きは分からないハズなのだが……それでも、何かを感じ取っていたらしく、圧をかけてきている。


 ギャルは冷や汗を掻きながら、そーっと前を向き、何事もなかったのように、鼻歌を歌い始めた。

 どうやら、ほとぼりが冷めるのを待つ作戦らしい。


 飛行機の中に、なんとも言えない重苦しい空気が充満する。


 ――おい、この重すぎる空気なんだよ。さっきまで、楽しい楽しい修学旅行って雰囲気だったろ。

 ――結崎さんでしょ……。ほら、友達が何か藤原くんにちょっかいかけてるから。

 ――藤原をイジるなよ。マジで。

 ――ウケる。

 ――こういう時に役に立ちそうなのっていうと、中岡ティーチャー……って寝てる。

 ――次に役に立ちそうなの委員長だけど、こっちも寝てるわ。

 ――いや、委員長はどっちみち結崎にビビってて役に立たんから、寝てていい。


 この手の雰囲気については、三代はいつも素知らぬ顔をする。だが、イギリスに着くまでの十時間以上を耐え続ける、というのはさすがに経験がなく堪える。

 というわけで、三代はすっと席を立ち、志乃をちらりと見る。すると、志乃はきゅぽんと小動物のような顔になって慌てて三代の後を追ってきた。


 二人が一緒に入ったのは化粧室だ。


「……なんか、怖い顔してたな?」


 三代がそう訊くと、志乃はむーっと口を尖らせた。


「だって、あの子がちょっかいかけるんだもん」

「黙ってるのが苦手、みたいな感じなんだろうな。別に、志乃が思ってるような変な意味はないと思うぞ」

「それはあたしもわかってるけど、でも、他の子と話してるの見てるだけで、ヤな気持ちになゆ」

「少しの間の我慢だ」

「……うん。でも、じゃあ我慢する代わりに……ね?」


 志乃が目を瞑る。三代はそっと唇を重ねる。甘い吐息が化粧室の中を満たし、女と男の匂いが充満し始める。



 ――二人して化粧室入ったぞ。

 ――なにしてんだ……?

 ――きっと、彼氏らしく藤原くん結崎さんのこと”めっ!”ってしてるんだよ。たぶんそう。まさか、飛行機の中でいかがわしいことなんて、するわけ……。

 ――教室でも人目を憚らずにイチャついてる二人が、何もしないと思うか?

 ――……。

 ――誰かちょっと様子見てこい。

 ――嫌よ。万が一本当にえっちなことしてたら、仰天して倒れる自信あるわ私は。

 ――機内に勇者はおられませんか⁉

 ――勇者は死んだ。

 ――ニーチェの”神は死んだ”みたいに言ったって、何も解決しないけど?




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あとがき:

 ダメぎゃる二巻、出ます。

 2022年12月20日発売です。

 前巻に引き続き、緋月ひぐれ先生の素敵なイラストで華やかにして頂きました。内容の方も、名前が出ていなかったあのキャラクターに名前がついたり、雰囲気やテイストはweb版を踏襲しつつ、けれども書籍版として新しい展開も大幅に加えて仕上げましたので、楽しんで頂けると思います!


 メロンブックスではタペストリー付きの特装版を用意して頂いたり、他にも店舗ごとにSSがついたりと、色々と作品も広がりを見せております。

 予約も既に始まっています。

 なにとぞ、よろしくお願い申し上げます。


 PS:前書きでも書きましたが、更新遅れて本当すみませんでした。許してください。

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