青い春風
奈々星
第1話
僕は、夏が嫌いだ。
寒い時は服を着ればいいけど、暑い時はどうしようもない絶対に服を着ていなきゃいけないから。
でも僕は本当の理由を見えないフリをしていた。
僕は女子と話すのが苦手だから、解放的になってキラキラしてる人達を見るのが嫌だって言うのが本当の理由。
僕も漫画のような青春を経験して見たかった。
こんな恥ずかしいことを考えている自分にムカついて僕は目の前に転がっていた蝉の死骸を踏み潰した。
僕は女子と話すのは苦手だが男子とは仲良くやっている。男子が喜ぶようなことは大体できるから人気者だということは自覚している。
もちろん男子票のみ。
僕のクラスは男女比が1対2だから女子を敵に回している僕はクラスの人気者では無いのだ。
生物の時間、先生が蝉の話をした。
蝉は生殖を終えるとだんだん元気を無くしやがて力尽き体すら支えられなくなってひっくり返って転がって死ぬんです。
だという。
蝉は生殖してから力尽きて死ぬのか。
俺も恋くらいできてから死にてぇもんだよな。
「ムカつくな。」
無意識のうちに右足が震えるようにビートを刻んでいた。
放課後はクラスの男子たちと丸くなって話をする。大富豪や人狼をみんなでやることもあるしテスト期間には一緒に勉強したりもする。
そして話題は女子の話になった。
「杉崎でかいよなー。」
「福島だろ!」
「ばーか、顔が良くなきゃダメなんだよ!」
「カッコつけんなよ、どっちもかわいいだろ!」
「俺は福島派だな!」
「俺は絶対杉崎!」
今日もいつも通りの下品な会話。
それでもこの場所が僕には心地いい。
今日はみんな部活があるから早めにお喋りは終わった。今話していたほとんどがサッカー部で僕もそうなのだが先日、練習中に左の親指を折ってしまい部活には3週間程行っていない。
いつものように今日も僕は1人で家に帰る。
そんな訳にもいかなかった。
今日は何かと自分にムカついている、こんな日は何か気晴らしをしたい。
そう思って購買部で好物のチョコのアイスとポテトチップスを買って僕だけの穴場の屋外のプールに忍び込んだ。
この学校には水泳部があるが屋内にもプールがありこの屋外のプールは誰にも使われなくなっていた。
しかし、水を張っていないため毎日主事さんが朝からプールをホウキやらモップやらで掃除しているのを教室から見ていた。
このプールは誰でも簡単に水を張ることができる。
ボロボロになった管理部屋に入って「貯水」というボタンを押すだけ。
それだけで僕だけのプールが出来上がる。
プールに入ってまだ先にそのボタンを押し、
靴と靴下を脱いでズボンを膝上までまくって
プールサイドからプール内へ足をぶらんと投げ出す。
アイスが食べ終わる頃にはプールの水が溜まっていた。
プールのひんやりとした水で涼をとりながら
アイスやポテチを食べるのは至福だった。
おやつを食べ切りやることが無くなる頃には
夕日が僕を眩しく照らしていた。
「もう暗くなる、昼寝でもしようっと。」
昼寝から目覚めて教室に戻れば部活から帰ってきたアイツらと一緒に帰れる。
そんなことを思いながら僕は眠りについた。
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誰かが僕の顔を刺激する。
生あたたかい息を顔に当ててくる。
僕は怪訝そうに目を覚ますとそこには僕の嫌いな"女子"がいた。
「え、え、だれ?」
僕は突然のことに驚き挙動不審になる。
「金村 花。ここ。私の場所なんだけど。」
何言ってんだこいつ。この場所は正真正銘僕の場所だ。
「え、え、どうゆうこと?」
「私いつもひとりでここにいるの。私はいつも通りここに来たら水が張ってあって君が寝てたって訳。」
「俺もよくここにいるんだよ。ここは俺の場所でもあるの!」
「あっそ。」
彼女はそう言って僕の隣に座って同じように寝転ぶ。
「もうすぐここにみ周りの人来るよ。」
「え?」
「私よく来てるから分かるんだよ。」
彼女の言った通りプールサイドへの階段を誰かが登ってくる音がした。
僕は慌てて立ち上がり隠れる場所を探そうとする。
懐中電灯の光が階段を登り終えたところに続くプールサイドを照らす。
その時、冷静だった彼女は僕に言った。
「隠れる場所ならあるじゃない、すぐ近くに。」
そういって彼女は僕の左手を引っ張りプールの中に飛び込んだ。
骨折している方の指を強く握られた痛みで水中でも目を開いてしまった。
隣を見ると彼女は目を開いて上を見ている。
僕も彼女の目線の方向へ目をやるとそこには綺麗な三日月が浮かんでいた。
水面が波打つのと同時に三日月も綺麗に揺れる。
あまりにも綺麗な光景に僕は鼻で思いっきり呼吸をしてしまった。
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気づいたら僕はプールサイドに挙げられていて隣には彼女がいた。
話を聞くとどうやら隣で手を握ったまま溺れていたらしい。
とても恥ずかしい。
僕は彼女にお礼を言った。
面と向かって言うのは恥ずかしいから空に浮かぶ三日月を見ながら。
彼女も三日月を見ながら返事をする。
「うん、全然。それより大丈夫だった?」
僕はまた三日月を見ながらうんと相槌を打つと彼女がまた口を開く。
「もう遅いから帰ろうか。」
不思議な体験をした。その日は風邪気味だったから早めに寝た。
次の日学校に行くと昨日の彼女が僕の席に座っている。周りの男子からもジロジロ見られていて話しかけるのが恥ずかしかった。
「何してんの?」
「え?君の席座ってるだけだけど?」
そう言っていたずらに笑う君から青春の風が吹いた気がした。
夏も捨てたもんじゃない。
青い春風 奈々星 @miyamotominesota
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