過ぎゆく秋の中、僕は彼女に訊いてみた――

中学3年の青木健也は日課にしている夜のランニングの途中、同じクラスの沢元優美と出遭う。特に近しい仲でもなかったふたりだが、それをきっかけに言葉を交わすようになり、いっしょに走ることとなり、距離が近づいていって――健也は優美へ問うのだ。「秋と冬の境目って、どこにあると思う?」。

ささやかなきっかけから小さな結び目ができて、それが少しずつ大きく育っていく。これを見せるんじゃなく魅せるのは本当に難しいものです。さじ加減を微量に間違うだけで冗長やら単調やらに成り果てますから。

しかしこの作品はそれらに陥ることなく魅力的です。なぜか? 小さな起伏へ健也くんの心情(描写)が極大に効かされているからですよ!

心情というフィルターを通した景色は、その有り様によって形を変えるもの。そして健也くんの想いが重ねられたフィルター越しだからこそ、優美さんは最高に輝くのです。

青々しく香り立つ恋愛物語、すべての方と、特に体と心が寒い方へおすすめいたしますー。


(「季節、秋から冬へ」4選/文=髙橋 剛)