XL∅


 翌日のお昼過ぎ、レイは、アヤメと外でランチを取ったあと、自宅まで車で送ってもらった。


 自宅で、勉強をしたあと、ネイリストの講習会へ向かう。


 帰宅時、マンションの廊下でリョウと鉢合わせになった。


「リョウくん。夕飯の買い出し?」


「うん、ちょうど戻ってきたとこ」


「私が作ってもいい?」


「いいの?」


「うん」


「じゃ、お願い」


「たまには彼女らしいことさせてね?」


「わかってる」


 二人はリョウの部屋に入ると、レイは、食事に取りかかった。

 嬉しそうにレイを見つめるリョウ。


「レイちゃん。アヤメさんとはどうなったの?」


「彼女にしてもらった」


「よかった」


「本当に大丈夫なの? リョウくんが心配だよ」


「アヤメさんも悩みの多い人だからね。

 俺は気にしないし応援してる」


「私、リョウくんの彼女だよね? 今も」


「うん。これからもそうだよ。

 大切にする」


「本当に?」


「うん。約束する」


「悩みがあったら私にも相談してね?」


「アヤメさんから聞いたの?」


「ううん。悩みをたくさん抱えてるってだけしか聞いてないよ。

 私には話せない事情があるのかなって、そう思った」


「そう言うわけじゃないよ。

 自分で乗り越えなきゃてそう思っててね」


「私じゃ力不足?」


「まさか」


「なら私にも相談してよ。

 リョウくんの力になりたい」


「俺には素敵すぎる彼女だね、レイちゃんは」


「入れ替わったことで負い目を感じてる?

 だったらそれは違うからね?

 私、むしろ感謝してるくらいくらいだし」


 リョウは、立ち上がり、レイを後ろから抱きしめる。


「……ありがと。

 本当、俺には素敵すぎる彼女だね……」


 リョウの体は少し震えていた。


「リョウくん。大丈夫?」


「大丈夫、少しの間こうさせて」


「うん」


「他人に触れられるのが怖いんだ。

 でも、レイちゃんのことはずっと抱きしめたかった」


「うん」


「嫌でたまらなかったはずの体なのに、

 レイちゃんことが好きでたまらなかった」


「うん」


「自分で手放した体なのに、

 レイちゃんを自分のものにしたかった」


「うん」


 レイは、リョウの熱量を感じた。


「リョウくん、私はいつでも大丈夫だよ。

 リョウくんのこと、いつでも受け入れられるからね?」


「……ありがとう、レイ。愛してる」


「私もだよ、リョウくん」


 リョウの震えが止まった。


「いい?」


「うん」


 リョウは、レイに、甘い口付けをした。

 レイは、リョウを嬉しそうに受け入れる。


 二人の熱量が加速して上昇する。


 リョウは器用にレイのワンピースを脱がす。


 ベッドに連れて行き、座らせ、ブラの上から、乳房を揉みしだく。


 レイを寝かせ、焦らすように体を手で愛撫する。


 ブラを外し、胸を愛撫しながら、ショーツに手を忍ばせた。


 リョウは、手慣れた感じで、レイを絶頂まで導くと、自分のジーンズを脱ぎ、ボクサーパンツも脱ぎ捨てる。


 レイはそんなリョウを準備万端で待ち受けた、



……


 

 二人はついに一つになることができた。


 リョウは晴々とした表情で、レイを腕枕していた。


「俺さ、短期間に売り上げをあげたくて、男嫌いなのに、かなり無茶な営業してたんだ」


「うん」


「勘違いされてなんども押し倒された。

 自分の心を何度も傷つけた。

 そのうち身も心もぼろぼろになって、

 気がついたらまともに接客できなくなってた」


「うん」


「そんな時に手に入れたのが、

 あのティーセットだった。

 ほんとうに誰でもよかった。

 自分で、女でなければ、

 あの学部生なら、誰でもよかったんだ」


「うん」


「それなのに、レイは、そんな俺のことを好きになってくれた。

 その時にようやく、自分の罪の重さを理解した。

 苦しんだ。

 こんな素敵な子を罠に嵌めた自分が許せなかった。

 それでも、レイのことが好きでたまらなくて……」


「うん」


「本当は、誰にも取られたくない。

 独り占めにしたかったんだ。

 アヤメさんにだって触れさせたくなかった。

 ……俺はレイのこと好きになる資格あるのかな?」


「もちろんだよ。だって私はリョウくんのこと大好きだから。

 ちゃんと言ってよ。相談してよ。

 アヤメさんと付き合って欲しくないならそう言ってよ。

 そばにいるから、リョウくんだけの女になるから。

 私はリョウくんに負けないくらい、リョウくんのことが好きなの。

 自信を持って私を愛して?」


「……ありがとう、レイ。愛してる。

 俺だけのレイになってほしい」


「うん。もちろんだよ。

 リョウくんだけのものになるよ」


「ありがとう、本当に、ありがとう」


「私からも、ありがとうだよ。

 でも仕事は続けるよ? それもダメ?」


「いあ、気が済むまで続けていいよ。

 レイのこと信じてるから」


「わかってる。

 理解のある彼氏でよかったよ。

 私は無理な営業はしないようにするからさ。

 お店に置いてもらえなくなる前に、お嫁さんにしてね?

 これからもよろしくね?」


「ああ、もちろん。

 これからもよろしく、レイ」



……



 リョウはいろいろと吹っ切れたらしい。


 アヤメとレイの仲は、継続することになった。

 リョウ的にはノーカウントになるとの結論が出たようだ。


 以前はかなり淡白だったリョウだが、現在は、人が変わったようにレイに大して積極的になり、時間が合えば求め合うようになった。



 クリスマスや年末年始、バレンタインやホワイトデーの営業も順調にこなし、季節は春になった。


 レイの生活はさらに充実した。


 レイは、お店のナンバーファイブが指定席になり、着実に貯蓄を増やしていった。

 各種検定試験にも合格し、英語のスコアも高得点をマークできるようになっていた。

 リョウやアヤメとの関係も順調だった。


 


 ある日の昼下がり、桜並木を手を繋いで歩く一組のカップルがいた。


 一年前は、お互いの体が逆だった二人だ。


 今では仲睦まじそうに、リア充生活を満喫していた。

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XL∅ キクイチ @kikuichi

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