Quanji-∞:天下蒼生デスネー(あるいは、世界駆ける/天翔ける馬的なもののように)

 あ、あにゃ~ん?


 肉球も全て鹿フンの如くぽろぽろと零れ落ちていってしまいそうなこの衝撃……自分の創りし世界にて、掌で転がしていたはずの事象が、思わぬ混沌をどんどん雪玉式に巻き込み丸め内包して、気付かないうちにその重さにやられ己が潰されてしまうかのような感覚……


 いや、でも……こんな展開、神でも予測不能と思えませんかにゃん……?


<……>


 さらに私は今、結構なデカさになっとると思とった自身の巨大化を軽く見下ろすくらいのさらにの「緑の巨人」と何とも言えない超越したアルカイックな笑みをされながら対峙しているわけにゃのであって……


<アイワナ世界平和デスネー……スネー……ネー……!!>


 山のような身体自体から何故か発生しとるやまびこのような反響に揺さぶられる間も無く、たぶんその緑青の立像大仏様のような御仁は軽くぽんと私の左肩にその緑の生物なんだか金属なんだかよく分からない質感の分厚い掌を置いてきたのだろうけど、


<……ッ!!>


 私の古今稀に見る撫で肩の中央あたりにその重量物の塊のようなものが乗せられたかと思った時には私はもう体のバランスを失って眼下に広がるギリシャのミコノスタウンを多分に意識意匠したお気に入りの白い建屋のいくつかを己の身体でなぎ倒しながらなぎられ倒れ伏していってしまうのだったけど……あ、あにゃにゃ~ん? あにょ、あにょにょ鎖骨がァッ!! 鎖骨がぁぁぁぁぁにゃあああぉぉぉぉぉおおおおおんッ!!


 こ、これが生命の神秘……? 私の創り出した「生命」にこのような摩訶不思議なパゥワァーが……ッ!?


 どう贔屓目に見積もってみても、最早「漢字」云々とは結び付けられないような、単なる迸る熱いパトスだけが、この澄み渡った空に放射されていっているかのようにゃん……まあ元々漢字とは関係なかったと言えなくもないにゃんけど……それにしてもこの逸脱感は凄い、いや酷いにゃああぁぁぁぁぁ……ッ!!


 セカイ、ヘイワ、セカイ、ヘイワ、としか連呼してこなくなったその笑顔のグリーンジャイアントが「セカイ」で私の左肩を、「ヘイワ」でその逆っかわをぽんぽんとリズミカルに叩いてくるのだけれど、その一撃一撃が私の全身を揺さぶるほどの深度ある震度を芯に与えて来るのにゃけどこれ本当に何なんにゃッ!?


「……」


 そのまま突き立てられた杭が如くに、白建物の狭間に、叩き埋められていく……光線を撃ってやめさせようとしたものの、その金属的なテカりも有する大仏様の肌には効かなそうどころか、反射角を下手したら自分に跳ね返ってきそうな感じがして出来なかった。というか両鎖骨が折れているだろうことを自覚してもう何か抵抗する気も起きなかったのでしたのにゃ……


 急速にシメ感が見上げた空からちょっと泣きそうになっている私の目に差し込んでくるかのようにゃ……嗚呼……私は自分の創り出した「生命」たちすら、思うがままには出来なかったのにゃ……と、


 エターナル刹にゃ、だったのにゃ……


「……よぉ」


 しおしおと元の大きさに縮んでいった私は、それでも何故か肩から上を何とか地表に出して埋まっているという状態だったのだけれど。そこにふいにゆらり差した影は、いまこの瞬間、最も出会いたくない相手だったみたいにゃのであって……その凪いだ雰囲気を纏ってる感こそに、私の生存本能がガンガン警鐘を叩き鳴らしてくるのですにゃにゃん……


ネコ「……ッ助けてくださいッ!! 助けてくださいにゃッ!!」


ダリ「……え? いや何も取って喰おうっつうわけじゃあないのよ猫ちゃん。なんかさ、ひとり倒したらいくら、みたいなこと言ってたの思い出してさ……まあそれで手打ちにしようっていう、総意を告げに来た私はただのメッセンジャー、でも交渉の決裂具合によってはそれ相応の落とし前をつけよと遣わされたエクセキューショナー……」


ネコ「ヒギィィ、笑ってない目も口も何もかもががらんどうだにゃあぁぁぁぁ……ッ!! お、お金ならきっちり払いますからッ!! 一億ッ!! だからボクをおうちに帰してにゃんッ!!」


ダリ「なんかさぁ……口の横辺りがじくじく痛いんだよね……何だろうねこれ……何かあの踵が高なってる靴で踏まれたかのようにね……」


ネコ「二億ッ!! 何だか今日は太っ腹な気分ですにゃ……知ってますかにゃ? この世界のお金はどの国もおおよそ『カード状』をしてるんですにゃよ面白いですにゃよね……?」


ダリ「癱癯~♪ 癰癮癬癧~♪ 癥癡癉~♪ 瘵瘙瘌痿痜痍疱~♪」


ネコ「歌てる!! 何か歌てはるッ!! さながら執行具を鼻息混じりに選ぶかのようにッ!! ざ、残金もってくれにゃよぉ、よよよ四億にゃぁぁぁぁあぁぁッ!!」


 こうして。


 突然だけど、旅路の途中なわけで。


「目的の地、『火の七曜』が司る街まではあと四十kmケルメトラァほどあるそうですマイマスター。人の営みがこう点在しているというところに未開感というか、つくられし世界感みたいのがありますカナ……?」


 妖精カナエちゃんはまた以前通りの小ささに戻り、いやあれは僕の脳内で描き出された虚ろな絵図だったのかも知れないけど……あんまり記憶が無い。と言うかアクセスするのを拒否されるかのように全くの闇に沈んでいるかのようなのだけれど、まあそれはもういいか。みんなが無事だった。それが何より。


「……猫の奴はあれで良かったのかよ? 結局カネもその『街』の地下に隠してあるとかよぉ、見えてる罠にかかりにいくもんじゃねえのかそいつは?」


 眼鏡坊主氏は相変わらずひしゃげた顔のまま、やる気なさげだけど、


「貨幣掴んでも使える場が無けりゃあ意味ねーだろーが。その減らねえ口は動かさず、その手の小刀でうっとおしいこの蔦を切り落とす作業だけに没頭しろ」


 ダリヤさんも厳然たる態度は相変わらず。でもその右手が隣に並んで歩く僕の左手を優しく包んでいるのは相変わらずではない……


「おーでも、ナニかわからないでしゅけど、わくわくするのことデスネー」


 そしてミスター相変わらずこと、ヅオンさんの明るく、どこか力の抜けた言葉は、僕らにいつもフラットなポジティブ感、みたいなのを抱かせてくれるわけで。


 元の世界に帰ることが出来るのか、それは分からない。これから先、どうなるかも分からない。けど、


「……」


 それはいつでもどこでも同じこと。その場その場を生きていく、それの繰り返しで僕らは為っていて、成っていくんだろう、何かに。


 ならもう腹を据えて向き合うしかないよね……とりあえずは、目の前のことに。


 鬱蒼とした木々の葉の隙間から、遠近感を掴ませないような蒼く澄んだ空が、無限へと繋がっているかに思える宇宙が、見えた気がした。


 とか、詩的な気分ではどうとも僕はしまらないな。では改めて。僕は肚に力を込めると、精一杯の声を張り上げていく。


「僕たちの冒険はッ人生はッ!! ッこれからだぜぇぇぇぇいいいッ!!」


 僕の中の心の「島宇宙」にも、外の全部の「島宇宙」へも、届け広がれ!!


(終)

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(漢字イイネ!!>聖★漢闘士=ヅオンさん gaction9969 @gaction9969

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