非常に興味深く、面白く、深いお話です。
ある日、子供の頃に公園で頭を打った影響か、自分の中に複数の人格が発生している事に気づいてしまった来野アシタカくん。
実際、31個に分裂していた人格たちは、それぞれ派閥を作り、アシタカくんの身体を完全に支配出来る主人格を目指し、影響力の大きな13番目のアシタカくん(主人公)に次々と勝負を挑んで来るのだった……という、非常に不思議な、自分の意識の中で、他人格の自分とバトルを行うという、そんなストーリーとなっています。
アシタカくんは奇妙極まりない脳内バトルと、イマイチ上手く行かない現実での学校生活を送りながら、自分の立場や生活環境、他人との距離感に悩みつつ、それでも真っ当な男子として生きて行こうという……つまりイニシエーション的なお話でもあり、己が内面と向き合う事で人間的に成長しようという、そういう読み方も可能な、示唆に富んだ作品であるとも言えます。
しかしこのお話は、そこから更にもう一歩踏み込んだ構成となっており、この不思議極まりない脳内バトル展開の本当の意味を悟った時、それまで何処となくボンヤリとしていた状況が一気に繋がって感じられ、同時に言葉にし難い思いに囚われるという、この構成は面白く、興味深いなあと、感じ入った次第です。
また、脳内バトル展開だけで無く、アシタカくんを取り巻く知人や友人、可愛い妹と過ごす楽しくも愉快な、そして何となく甘酸っぱくもある日常のシーンも小気味良く感じられ、飽きる事無く読み進める事が出来ます。
一読の価値ある、読んで損の無いお話だと思います。