戦う者とその理由、そしてヒーローというもの

 自らを『終末企画』と名乗る悪の組織が暗躍する世界、それに対抗するための集団たる『同盟』がひとり、ヒューマンマンの戦いの物語。
 めちゃめちゃ熱いヒーローもの小説です。いやどうでしょう、単純に「ヒーローもの」と言い切ってしまうのはちょっと語弊があるかも。確かにヒーローの活躍するお話ではありますし、またとても胸を熱くしてくれる物語でもあるのですが、厳密に「ヒーローもの」として括られるべきかどうかは難しいところで、むしろもっと普遍的な人間のドラマを描いているような部分があります。というか、そう感じます。好き。
 ヒーローものというか日曜朝の戦隊ものというか、その雛形をそのまま生かしたような設定で、特に序盤の展開なんかを見るとわかりやすいのですけれど、「ヒーローもの」要素はパロディ的に用いられている部分があります。事実、序盤から中盤までの展開は完全にコメディで、いやそもそも「ヒューマンマン」というタイトルの時点で推して知るべしなのですけれど、とにかく笑いながら読みました。脱力ものの設定や展開、それをどこまでも生真面目にこなす主人公に、救出後の少女との軽妙な会話まで。コントみたいな掛け合いの空気感が面白く、普通に笑って読めるお話で、こういうコメディ的なお話は本当に大好き、なのですけれど。
 やっぱりどうしても外せないというか、この作品を語る上で一番魅力的なのは、その上できっちり心を揺さぶる物語を展開させてくるところです。
 個人的にこの「その上で」がポイントというか、つまり「思いっきり笑えるコメディをやってからのシームレスな王道展開」というのがもう非常に辛抱たまらんというか、これやられるとその場で白旗上げざるを得なくなります。いやこれ読む側としては普通に読んじゃうんですけど、でも見た目ほど簡単なことではないと思うんですよ。ある意味、お話の毛色が途中からガラリと変わっているようなもので、だからしっかり流れを整えてこっち(読者)の意識を誘導してやらないといけない。その点、本当にいつの間にかシリアスなところに放り込まれていた感覚だったので、その辺りが見事というか実に巧みでした。
 そして、そのシリアス部分、このお話を通じて訴えかけられている主題。戦うものの悲哀であり、誰からも望まれずとも立ち向かう覚悟であり、またそれを貫くための哲学というか心情というか、とにかく主人公の生き様そのもの。いやもう、なんてものをぶつけてくれるんですか……。本当に好きで、ただ震えました。それを描き出す終盤の、その展開や描写そのものも。
 序盤のコミカルさが嘘のような(普通に頭からすっかり吹き飛んでいました)、ただただ硬質で壮絶な格闘の場面。短文による淡々とした描写は序盤からの特徴なのですが、でもここにきてそれがなお生きてくるというか、ある種のストイックさのようなものを帯びて見えるような感じ。
 鮮烈でした。当初の、というかタイトルをみた時点での予想を遥かに超える地点に連れていいってくれる、愉快ながらも力強い物語です。加えて個人的に一点、「ライトノベル」とタグづけされているところがとても好き。戦闘して、勝利して、そして手にするハッピーエンド。ヒーローの物語。この辺りがまさにライトノベルのイメージでした。