第2話 点鼻薬の禁じ手
「あー、なんか風が涼しい。爽やかなこの雰囲気が俺を飾るぜ」
何言ってんだよ俺。
このナルシストっぽいことを言っているやつが俺、
学校の二学期が始まる日に電車のホームにて階段から転落するという事故を起こし、死んでしまったンゴ。 正直、あれは事故ではなく殺人と言ってよいだろうが。
そんでその俺にチャンスを与えてくれたのが天使のじじい。そいつは若くして死んだやつを異世界に勇者として転生させるとのこと。俺にもその資格はあり、転生する道を選んだ。
ただ、異世界転生の際の特典が残念ながら、
「あー↑。草原は気持ちいいが花粉がやばいよ!来い!相棒よ!―――――おお、効き目が早いぞ!お前がもし生前の世界にあったら
人生はおそらく変わっていたね。なあ、点鼻薬」
これが俺の転生特典である点鼻薬。ただの点鼻薬ではない。薬は無くならず、効き目、効果時間が長い。これで勇者をやれという方がおかしいが、やるしかない。いや、いつから俺は武器を点鼻薬しかないと思い込んでいた?
街で別の武器買えばええやん。
そうすることにしよう。じゃないと多分やっていけないわ。そのためにも早く街に辿り着かなければ。俺はひたすら草原を歩き続ける。
――――――――――――――――――
「魔王様!この世界に何か異質な者が現れました!」
「何ぃ!?異質とはなんだ。詳細求む」
「魔王様、これをご覧ください」
彼、この世界ではネクロマンサーと呼ばれている者が手に持つ水晶玉を魔王と呼ばれる男に見せる。魔王の背はネクロマンサーより高く、大体190cmというところだ。
ネクロマンサーの見せた水晶玉には草原で寝ている1人の男が映っていた。
「こいつがどうかしたのか?見たところただの人間ではないか」
「いえ、それがですね………。わたくしの使い魔にそのフィールドを常に監視してもらっていたのですが、その男は急に前触れもなく現れたそうなのです」
そんなことがあるのか。いや、普通はないだろう。だが魔王には心あたりがあった。
「異世界転生…………」
「え?何ですかその異世界転生というのは」
うむ。魔王は何かを思い出すように考え始める。
「確か、先先代ぐらいの魔王が残した書物にあったのだ。取ってくるとしよう」
『我はこの世界を順調に侵攻していくことが出来た。だが、我が襲った最後の街であるどんなやつでも基本的に立ち寄るだろう最初の街[リスポット]にて事態が起こった。街にある城を破壊しようとしたとき、目の前に光が注ぎ、眩しさが無くなったと思えば謎の男がいた。
「貴様、どこから来た」
「異世界転生してここに来たんだけど」
「そんなもんは知らん。邪魔するなら潰すぞ。消えろ」
「よく分かんねぇけどこいつ倒せばいいのかな」
男が鞘から剣を抜く。魔王は高火力魔法である[サンダーストーム]を発動。荒れ狂う雷が男へと降りかかる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ……………。あ、全然効かないわ」
男は剣を振りかざしてくる。その間も魔法をいくつも使ったが全く効かない。
「エクスカリバー(棒)」
「グおおおおおおおおおおおおお!!」
左腕を飛ばされた。出血量が尋常ではない。
これはヤバいぞ。撤退せねば。
「[エスケープ]!」
魔法を使った瞬間、魔王はその場から消え去っていった。
「魔王を逃亡させた俺TUEEEE!!!」
我のエスケープ先は自身の城だ。
だが今から治療しても助かる見込みはほぼないだろう。せめて次の魔王にこのことを伝えねばならぬ。そして我はここに書き記したのだ。最後にやつのような者を止める魔法を生み出した。実現は出来ておらぬ。頼む。この魔法を完成させてくれ。やり方はこの続きに書いておる』
「これが最も世界支配に近づいたと言われる先先代様ですか…。異世界転生者と呼ばれる者。やつはこれから先確実に壁となるでしょうな……」
「そのためにも例の魔法を完成させるのだ!そしてその魔法を使うのはお前だ」
「わたくし……何故ですか?」
「お前は今日まで我の元で働いてくれた。腕は分かっておる。お前なら大丈夫だ」
ネクロマンサーが返答するのに時間はかからなかった。
「分かりました。是非やらせていただきます」
「この書物はお前に渡す。あとは頼んだぞ。我は我の部屋へと戻り、寝る」
「このわたくし、今日中に魔法を完成させてみせましょう!」
ネクロマンサーは魔法の解析にとりかかった。邪魔者はさっさと去ることにしよう。
まさか我の代で異世界転生者が来るとはな。
先先代の仇、討たせてもらうぞ。
――――――――――――――――――
「ここどこだよおい」
俺は今、森の中にいる。草原を歩いていたところ、森が進む先にあったので入ることにした。
最初の方は道は単純だったが数分後には入り組んだ道へと突入し、戻るにも戻れない状況に
「迷ってなんかいられねぇ。とりあえず進まなきゃな」
ゆっくりだった足が早くなる。
(はあ、異世界転生しても楽じゃねぇよな)
俺は現実を見た。アニメとかだとスタート直後からあまり困るようなことはないように思っていた。だがそれが自分の身ともなると考え方が変わってくる。
さらに30分程歩いた。
「はあ、はあ………あー疲れたぁ!」
俺は声を上げて近くの石に腰を下ろす。休憩だ。ノンストップなんて体育成績2の俺には無理な話だ。もうこのままここで寝ようかなと俺は思っていた。その時、声が横から聞こえてきた。
「おい、兄ちゃん。てめぇの持ってるもん全て置いていきな!」
ボロボロの服を着た男だ。おそらく山賊か何かだろう。俺は正直に答える。
「いや、俺持ち物何もないっす」
「嘘つけよ。バッグ開けや」
「いや、マジで。ほら、何もないだろ?……あっ……………」
俺がポケットに手を突っ込んでみると、あったよ。持ち物。
「あ?点鼻薬だァ?まあいい、よこせや」
こいつ何言ってんだ?点鼻薬をよこせと。それは俺の命を奪うのと同じことだ!実質脅迫!こいつは許さねぇ。あの手を使ってでもな!
「成敗!」
プシュッ
俺はおそろしく早い速度で点鼻薬を2回プッシュした。点鼻薬の先から薬が噴射する。
それは山賊の両目へと吹きかかった。
「目が!目がぁ!ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
「ざまぁ味噌カツ!点鼻薬のクイックドロウで俺に勝てるやつなんぞ地球上にはいねぇんだよ!」
出来れば点鼻薬の注意欄にある
[目に薬を吹きかけてはいけません]
というルールは守りたかった。だが仕方ない。外道にはそんなもの関係ないのだ。
「ついでに1発もらっとけ!」
俺はやつの顔面を拳で殴りつけてやった。
だが山賊は目を押さえているだけで倒れたりはしなかった。弱すぎるぜ俺の拳。少し筋トレしなければ。
「じゃあな!ペッ」
唾を飛ばしてやった。あと、点鼻薬を5回程吹きかけた。なんか殴った時よりも苦しんでるんだけど。点鼻薬は特殊攻撃扱いらしいので何故か拳より有効という意味不明な現象が起きている。え……中身は酸か何かなんですかねぇ………?
俺は走って森の中を駆け抜けていくのであった。早く森から出てぇよ………。花粉ヤバいんだよぉ…………。
俺の武器は点鼻薬 〔しばらく投稿しません〕 39ZOU @39ZOU
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。俺の武器は点鼻薬 〔しばらく投稿しません〕の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます