監視
「これより第六回報告会を始める」
ソラが入隊してから一週間に一度行われるようになった報告会。
元より死人を隊員として迎えるからには監視の目が必要であり、起こったことを全員で共有しておく必要があった。
一週間交代で1回につき2人。任務はソラと監視2人で行う。勿論他の隊員も行うが。
監視役の仕事は以下の通り
・ソラが異常行動をとらないか監視
・一般人に気付かれないようにフォロー
主にこの2つだが、もしソラが異常行動をとれば捕縛または処分することも仕事になる。
「監視役、報告を」
「はい」
細身だが張り詰めた空気を発する男が腰を上げ報告を始めた。
「まず、任務時の行動ですが特に変わったところはありませんでした」
少し重そうな厚い紙束を持ちソラの様子を述べる。
この男を含め18名の隊員たち(残り2名はソラの監視)は男から重い空気を感じた。
「__先日、」
どこか険しそうな顔で報告を続ける男。
「私が贈った大きなクマのぬいぐるみに抱きついて『むぅ…』と言っていました。眼福すぎです」
「チトセ」
隊長がこれ以上ないくらいに顔を険しくさせて報告をする男_チトセを睨んだ。
他の隊員も同様である。
「…………写真は?」
「ばっちりです」
「録音は?」
「もちろんです」
「よし」
何がよしか(迫真)
しかしツッコミ役はここにいない。全員がボケにまわったこの空間は更にカオスとなる。
チトセは持っていた紙を円卓に座る左右の隊員に渡した。
その紙とは_
「これは、いい……。」
「かわえぇ」
「………至福」
ぬいぐるみのお腹に顔を埋める少女と少女の2倍はあろうかというデカいぬいぐるみ。
3枚セットになったそれは
・ぬいぐるみの前で立ちすくんでいる少女
・恐る恐る、といった様にぬいぐるみに抱きつく少女
・やや上がった口角が微笑に見える表情の少女
いずれも目線をとらえていない。
ある程度は少女_ソラも許容している。監視役たちが写真を撮ることは、監視のために必要だと感じているからだ。
実際、初期の方はソラの緋い痣の広がり方だとか、緋い目の色の変化だとか。
今はもう日常写真すらとり始めている。
がしかし。ソラは普通を知らない。常識は学習したが日常の中で学ぶものはそうならず。
教えてくれるような(正常な)大人がいない。一番の問題はそこだろう。
「次の報告に移ります。
先日、ソラが菓子を作りました。至福です」
「え?俺聞いてないんだけど?」
「お前が昼寝していた時に俺が全部食った」
「は!?」
監視役2人が揉めている。
ちなみにソラが作った菓子とはクッキーのようなもので、初めてにしては上手と言える範囲の出来だ。多少の焦げは仕方ないと言える。窯で作ったことを加味すれば才能すら感じる。
……チトセは全て(枚数にして30枚前後)をたいらげた。相棒のシルバは寝入っていたため分け前はない。
ところでこの2人は自分たちの口論を険しい目で見つめる16人の隊員にいつ気付くのだろうか。そろそろ視線で人を殺せそうなほどの鋭さになりつつある。
「…………チトセ、シルバ」
「「…はい」」
「話がある。これが終わったら隊長室まで来い」
「「…………はい」」
見事、隊長の怒りをかった2人であった。
命削症 儷嚇 @asahanada2002
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