第2話 普通の食事が、普通にとても美味しい

 地面に描かれた魔法陣らしき幾何学模様と文字から光が浮かび上がる。

 本間と小牧が降り立つと、光はふっとなくなった。

「よし、召喚完了!」

 耳の長いエルフが杖をふるうと、その杖が宙に消える。

 本文に書いてあった特徴からいって、あの中華鍋をふるっていたエルフだった。

 見事に物語の中に入ってしまっている。

(今月で何回目かな)

 本間は数えるのはやめにした。


「君たちを呼び出してすまない。ただこれから出てくる料理を食べて、どっちが美味しいかを決めて欲しいんだ。審査員に困ってしまってね」

 エルフの言うことに納得はできる。

 物語の世界でいう別の異世界から召喚した本間と小牧に、中立的な審査員を任せようということだ。

(これは好都合だ)

 本間は心の中で笑った。

 地球側を選べば、ハッピーエンドとなる。話が終われば、物語世界から現実世界へ帰れる。

「わかりました。やりましょう」



 一品目の料理。

 異世界側『味の宝石箱~ミミックを添えて~』

 宝箱の口にはミミックの鋭い歯が並んでいたが、その中には色彩豊かな野菜と魚介類が格子状に綺麗に並んでいる。

 エルフはにこやかに料理を説明する。

「ミミックは一般的には知られていませんが、貝類です。あの舌と思われているのは足ですね。もう動きはしないので、安心して召し上がってください」

(なるほど。アサリみたいなものか)

 食べてみると、濃厚でクリーミーなハマグリの味がした。

 普通に美味しい。

 

 地球側『タバスコ漬けアイス、ワサビを効かせて』

「うっ、けほっけほっ、げほっ」

「み、みず・・・」

 小牧は水を一気飲みし、つぶやく。

「こんなものを作るだなんて・・・」

(お前だよっ!!書いたの、お前だよっ!!)

 物語世界で言うわけにはいかないので、本間は心の中で叫んだ。


「さあ、一品目の結果はどうでしょう。地球側なら青旗を、異世界側なら赤旗をお上げください。さん、にー、いち、ピシャッ」

 司会の掛け声に合わせて、小牧は赤旗、本間は青旗を上げた。

「本間係長・・・。味音痴だったんですね」

 心底残念そうに小牧が哀れみの目で見てくる。

 とても心外である。


「さあ割れました!二品目で決着がつきます」

 司会の言葉に、地球側からざわつきの声が聞こえた。

「そんな!あの画期的なタバスコ漬けアイスに2票入らなかったなんて」

「一度食べたら癖になる美味しさが伝わらないとは」

(まずいな)

 何がまずいかというと、状況も料理もである。

 小牧が事前に書いた本文の所為で、主人公もその周りも致命的な舌になっていることは間違いない。

 二品目の料理も食べられたものじゃないだろう。

 というか、闇鍋風とか食べたくない。


 本間は胸ポケットからメモを取り出し、スーツの背広で隠しながら、文章を物語を書いていく。

 物語世界に合うように書かれたものは、世界に反映される。

 どうかその通りに動きますようにと願いを込めて、本間は最後の文章に句点を打った。



 二品目の料理。

 異世界側『ドラゴンステーキ、赤ワインソース』

 肉の塊をとげとげしい尻尾と赤いソースが囲み、黄色い花が端に添えられてある。

「尻尾は飾りなので、食べないでくださいね。花は食べることはできますが、ちょっと苦いかもしれません。肉と一緒に召し上がりください」

 料理の説明を聞いてから、肉にナイフを入れる。

 弾力があって切りにくかったものの、口に入れ噛むと肉汁が広がる。

 味は鶏肉のようでありながら、脂がジューシー。だが、その脂がさっぱりしていて、しつこくない。重くないのでいくらでも食べれる。

 普通に美味しい。

(これワニ肉だな)

 ドラゴンも羽のあるトカゲとか言われるし、そう変わりないのかもしれない。

(ワニ肉は好きな人は好きだけど。好みが分かれるんだよな)

 本間が隣を見やると、小牧が難しい顔で口をもぐもぐさせていた。

 地球側の料理が不味くなければ、小牧は青旗を上げるだろう。



 地球側『闇鍋風ハンバーグ、中身はお楽しみに』

(来たっ)

 本間は手を上げる。

「すみませんが、料理人に自分の品を一口だけ毒見してもらえないですか。そちらにとっては地球の存亡をかけた戦いなので、何か変なものが入ってないかどうか気になりますからね」

 その提案に主人公は眉をひそめたが、了解した。

 ほんの少しハンバーグを切り口の中へ入れると、主人公は大阪のコント劇場のように倒れる。

(ヤバそうとは思ったが、闇鍋って何入れたんだほんと)

 主人公の周辺は慌てざわめき立ち、テレビカメラもそちらへ寄った。

 その隙にある男がハンバーグを入れ替えて去っていった。



「今こそ運命が決まります。地球側なら青旗を、異世界側なら赤旗をお上げください。さん、にー、いち、ピシャッ」

 司会の合図に、本間と小牧は青旗を上げる。

 地球側は歓喜の声を上げ、涙ぐむ者もいた。

 そして、英雄である主人公を胴上げしたのだった。


「あの料理、とても美味しかったですね。普通でしたけど。闇鍋風って何だったんでしょうか」

 小牧は首をかしげた。本間は微笑む。

「ああ、あれね。頼んで普通のハンバーグと入れ替えてもらったんだよ」

「誰に?」


「ウーバーイーツ」



 こうして、物語世界の地球の平和は守られたのだった。 

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物語終了課―料理バトルものは料理できる人が書いた方がいいー lachs ヤケザケ @lachs-yakezake2255

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