物語終了課―料理バトルものは料理できる人が書いた方がいいー
lachs ヤケザケ
第1話 料理バトルものは料理できる人が書いた方がいい
『レディースエンドジェントルメ―ン!!皆さま、心躍り、炎が踊る料理バトルへようこそ!!今回は地球の存亡をかけた異世界間のバトルです!さあどうなるのでしょうか!』
と新人が書き込んだところで、係長は待ったをかけた。
「ちょっと待て。なんで大ごとにするの?どうしてわざわざ大風呂敷を広げるような真似をするの?」
明るい茶髪の新人はニッコリし、グッとこぶしを握った。
「え、だって、料理のうんちくとかサッパリなんで、とりあえずドカンと打ち上げようと思って」
「打ち上げすぎだろ・・・」
【料理バトルものは料理できる人が書いた方がいい】
文部科学省、地方文化局の物語終了課。未完の物語は放置しておくと暴走し人を飲み込むことがあるので、それを防止するために設置された課である。
業務としては、あらゆる物語を終了させること。無理やりにでも。
くたびれた顔をしている三十代の男、
当課の係長である。
「あのね。いいかい。うちの課は終わらせるのが第一であって、派手にする必要はないんだよ」
「いえ、この作品は主人公が地味にそこら辺のシェフとバトルしているだけで、なんかこう普通にしていては終わった気にならないです」
元気いっぱいに新人女性、
「いや、ね。地球の存亡とか大げさだろう」
「何言っているんですか。サッカーで惑星の運命決めるのもあるのだから、料理バトルでそれをしてはいけないことはないですよ」
「おい、混ぜんな」
(本当に不安しかない)
本間はまた嘆息し、小牧のパソコンの画面をのぞき込む。
話の中では料理バトルが始まっており、相手の異世界は定番の洋風RPGっぽい剣と魔法の世界らしかった。
これまたオーソドックスなエルフの男性が中華鍋をふるって食材を炒めている。
(中華鍋・・・)
まあ、地球上で勝負しているようなので、道具は借りたのだと解釈しよう。
さっそく一品目ができたようで卓上に置かれるシーンとなった。
『味の宝石箱~ミミックを添えて~』
「添えるな」
思わず、本間はつっこんだ。小牧はちらっと視線をよこすと、キーボードを叩く。
『ボワット ア ビジュー グー ~アベックミミック~』
「なんちゃってフランス語で誤魔化すな。どうせGoogle翻訳だろ」
『シュムックケストヒェン フォン ゲシュマック ~ミミック ダンツーゲーベン~』
「なんでもドイツ語にすればカッコイイとか思うなよ」
次、二品目。
『ドラゴンステーキ、赤ワインソース』
「うん」
ありがちであるが、公務員の仕事としてはとにかく終えればいいので、中身はどうでもいいのだ。
対して、地球側の主人公の料理というと。
『タバスコ漬けアイス、ワサビを効かせて』
『闇鍋風ハンバーグ、中身はお楽しみに』
「・・・・・」
大して美味しくなさそうである。
というより、これで地球側は勝てるのかと心配になる。
物語終了課としては負けてバッドエンドでもいいのだが、やはりハッピーエンドの方がいい。
「なあ、もうちょっと地球側の料理はうまそうなものにしない?」
「係長。こういうのは意外性のあるもので勝負しないと、つまらないじゃないですか」
「つまらなくていいんだよ。公務員だもの」
これだから新人は困る。
面白さを追求をすればするほど、物語を終了させるのが遅くなる。漫画の打ち切りのごとく、数ページで決着をつけるのが理想だ。
まず、終わり方の見当をつけてから書き始めるのが肝心である。
―と、本間は重要なことに気づく。
「これさあ、審査員どうするんだ?地球側、異世界側のどちらから選んでも不公平だろうに」
「あっ」
目を見開いて、小牧はキーボードから手を離す。
考えてなかったらしい。
「複数人選んだとしても、偶数なら自分側に票を入れるだろうから決まらない。奇数ならどちらかに偏りが出る」
「う~ん」
本当に書き始める前に、そういうところはちゃんと想定していて欲しい。
「地球側、異世界側の料理と知らせずに、審査員に食べてもらうとか」
本間は提案するものの、
「ミミック添えちゃったし、ドラゴンはわかりやすいよう尻尾の先を飾りにしたので見るとわかります」
小牧はそう返答した。
「審査員は全員目隠しして食べるとか」
某格付けチェックのような異様な光景となるだろうが、仕方ない。
「料理の採点に見た目の美しさも入ってます」
駄目か。
「どうするの?」
「どうしましょう」
二人して、腕組みして固まる。
―リーン
その重い空気を吹き飛ばすかのように、鈴の音が鳴った。
未完の物語が暴走して、人を飲み込む時に響く音である。
空間ごと歪み、白い背景に変わったかと思うと、まるでゲームのように画面が切り替わった。
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