追記のあとがき
「俺のミューズ、俺のではないあなた」との繋がりが途絶えて
私は昨年の冬に、匿名でやっていたTwitterのアカウント、いわゆる裏アカというやつで、一人の女性と出会いました。
彼女とは一度も会ったことはありませんので、画質粗目の写真や録音・配信などで、お顔やお声などを見聞きさせて頂いたことはありますが、本当に女性であるという確証はありません。
それでも、私はほんの数カ月程度のやり取りで、彼女のことを本気で好きになってしまいました。そして、彼女はその思いに交際などの形で応えてはくれませんでしたが、優しく受け止めてくれました。私も交際だとかそういったことはむしろ微塵も求めていませんでしたし、お友達として末永く関係が続けばいいなと思っておりました。
Twitterで切り取られた彼女しか知らないのに、それで「本気で好き」だなんてという気持ちは私にもあります。でも、同時に、私は思うのです。
もしも目の前にいる人を好きになっても、それは目の前にいる人そのものを好きになっているわけではないんじゃないかと。
相手そのものをではなく、相手を見て、聞いて、感じて、思って、いわば自分の中に投影した相手を、相手の像を、相手の虚像を好きになっているんだと私は思うのです。
ならば、好きになった相手が例えネットで知り合った部分的にしか知らない相手でも、キャラを作ったアイドルでも、誰かが考案したキャラクターでも、拾い画加工音声なりきりテクニシャンネカマおじさんであろうとも、本質的には変わらないのではないのだろうかと……。
私は、そんな風に思うのです。
それはとても悲しくて虚しいことのように思えますが、同時に、だからこそ、誰かを好きになるということは素敵なものなんじゃないかとも思います……。
そんなこんなで私は、私の思いを受け入れてくれる彼女に、何度か詩歌を詠んで送りました。
もちろん、誰にでもそんなことをするわけではありません。そんなことは初めてでした。
彼女は出会った時に、匿名の裏アカの中にほんのわずかに色濃く表れていた私を、私の言葉とその感性を褒めて下さいました。
それで、私は空リプのような形で、彼女への思いを無定形の詞や短歌などの言葉にしてツイートするようになりました。
実際のところ、それを彼女はどう思っていたのか私にはわかりません。「コイツ、ちょっと褒めたら短歌詠みやがったwww」とか思っていたかもしれません。
それでも、私とのやり取りの中での彼女は、それを喜んで褒めてくれていました。だから私も、不安を胸にそれを続け、たくさんのインスパイアを与えてくれた彼女を「俺のミューズ 俺のではないあなた」と表現しました。
Twitterで知り合った顔も知らない女性を好きになって詩歌を送るだなんて、まるで平安時代の暖簾越しの恋みたいだなと思ったものです……(笑)。
『オレは悪魔だぜ』は、そんな時期に観測した小説でした。
あらすじにもある通り、米津玄帥さんの『Lemon』のMVからインスパイアを受けたもので、直接彼女の存在にインスパイアを受けたわけではありません。
さらに、私はもともと自分の小説の構想に「観測する」という言葉をあて、フィクションではあるもののノンフィクションのつもりで、私が観測した異世界や並行世界やもしかしたらこの世界での本当の出来事を文章に書き起こすような感覚で、「リアル」であることを大切にして書いています。
ですから、直接的に彼女に向けて考えて、作って、書いたわけでもありません。
それでも、「今このタイミング」でこの物語を観測したことに彼女の存在が関係していることは明らかな内容でした。
読んで下さった方ならばきっと、悪魔やシャルルの心情から、そこに私と重なるものがあることは感じ取って頂けるのではないでしょうか。
心がシンクロしたことでその物語を引き寄せて観測することができたのかなと、そんな風に無理やり思っています……(笑)。
とはいえ私には同性愛の気は全くないので、もし仮に彼女を男性が演じていた場合、そういう意味で彼女のことを愛することは出来ないとは思うのですが……。
そして、さらにその時期は、彼女の大切な人が死んだ時期でもありました。
そんなことなどもあって、まだ私の本名が彼女に知られていなかった当時、私はどうしてもこの小説を彼女に贈りたくて、匿名でこの小説を公開しました。
もちろん大切な人を失ったばかりの女性に贈るのに、この小説の大部分はふさわしくないようにも思いました。
ですから出来る限りいくつかの配慮などをしつつ、空リプというような形を取り、無理に読んで欲しいわけでないことも明言してリンクをツイートしました。
もちろん、やはりそこには私の身勝手さがあるので、配慮が足りていたとは全く思いませんが……。
結果的に、彼女は私の小説を読んで初めて「涙が出た」と言ってくれた人になりました。
どんな意味の涙でも、泣かせてしまったことへの申し訳なさはあるのですが……。
それでもやはりうれし過ぎるそのお言葉を信じるとして、それは小説の内容そのものに感動して泣いて下さったわけではなく、最後の部分に私の彼女への思いを感じて泣いて下さったんだとは思います。
私は「彼女を泣かせたい」、「それくらい心の奥底に強く届けたい」という思いがあり、それを乗せられる物語をこのタイミングで観測することができたので、小説という形にして贈ったので、小説そのものがよかったからではなくとも、涙が出たという感想はうれしかったです。そして、それ以上に彼女が語ってくれた言葉が私はうれしかったのです……。
それに、この小説の最後の部分は、誰かが大切な人にこの小説を贈ることで、その思いが乗って、関係性が作用して、その真価を発揮する小説なのではないか。誰の心にも悪魔はいるから――。
なんてことを思ったりもして、だとしたらそれはとっても素敵なことだなと、そんな風に思いました。
あれから数カ月が経ち――。
先日、彼女との繋がりは途絶えてしまいました。
それでも私は、俺は、今でもあなたのことを思っています。
まだ今のところは、毎日思い出しています……(笑)。
改めまして――。
私のミューズ、私のではないあなたに。
そして、素敵なインスパイアを下さった米津玄帥さんと彼の『Lemon』に携わった全ての方に。
今まで私と関わって下さった全てに。
そして何より、ここまで読んで下さった貴方様に――。
ありがとうございます。
あなたの、貴方様の人生が幸せなものでありますように。
そして、もしよろしければ。
あなたの、貴方様の心の中にも悪魔がいるということを、どうかお忘れないように――。
二〇二〇年 九月一〇日
二〇二〇年 九月二二日 最終加筆修正
『裏アカ それは たとえるなら 仮面舞踏会』https://twitter.com/i/events/1218568585452212224
オレは悪魔だぜ 木村直輝 @naoki88888888
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