文字通りの意味での〝世界観〟の美しさ

 至福冥還師と呼ばれる特別な魔女、ネフティスが魔族を退治して回るお話。
 物語世界の設定そのものに絶妙な切れ味を含んだ、ダークな風合いの異世界ファンタジーです。まずもってこの「至福冥還師」というものそれ自体がすごい。詳細はだいたい紹介文(あらすじ)にある通りで、ざっくりいうなら魔族を退治する人です。が、面白いのはその方法で、なんと『最後に幸福を与えて殺す』というもの。もちろん明確な理由あってのことで、そしてそれこそが本作の肝にして最大の魅力です。
 この世界そのものの大きなルールというか、物理法則にも似た〝変えようのない仕組み〟の問題。生き物が死に際に残す悔いや恨みが、現世にそのまま〝祟り〟としてとどまり、それがいろいろ厄介を引き起こす、という設定。これを防ぐためには必然的に「幸福の中で死んでもらう」という手段を取ることになるわけで、作中ではその通りにいろんな魔族やら何やらが退治されていくわけですが、この設定から設定へと繋がっていく感じ、ひいてはそれが世界を構築している感覚が非常に魅力的でした。
 個人的には〝世界観〟の面白さというか、この世界に住む人の目に見えている世界の、その美しさのようなものを感じます。例えば『死者の怨念』みたいな考え方やものの見方自体は、(それがこの作中の世界のように実在の現象として観測・認識されていないとはいえ)普通に現世にだってあるものだと思うんです。でもこの作品の中では、そこから「じゃあ幸せにして殺せばいいじゃん」に繋がる。筋が通っていて、実際「至福冥還師」はそういう生業として成立していて、それってどういう感覚なのかしら、と、そこを想像するのがとても楽しい。
 実を言うならこの「幸福を与えることで厄介を解決する」という考え、現実にも似たような概念自体はあるわけです。例えば「この世に残した未練を解消させることで成仏させる」というような。多少順番が入れ替わるだけで構造は似ていると思うのですが、でも比べるまでもなく全然違う。筋道というか組み立て方をちょっと変えただけで、結果として出来上がる世界の全体像がまるで違ったものになる。この明らかにハードでダークなこのファンタジー世界が、実はその構成要素そのものは現世とそんなに違わないのではないか、という面白さ。いやこれはどちらかというと逆というか、軸に「幸福」「呪いや恨み」そして「人間」があるならほとんど一緒で、でも切り取り方や見方の違いでここまでの世界を作り上げている、その事実にうっとりしてしまったような感覚です。幸福をこう表現するのか、というような。
 話の筋に触れている余裕がなくなってしまいましたが、次から次へとバシバシ始末されて(幸せにされて)いく魔族たちが軽快でした。設定部分が凝りに凝っている分、お話自体は真っ直ぐポンポン進んでいくのが好きです。組み上げられた設定とその醸す雰囲気が美しい、シニカルながらもストレートなファンタジーでした。