27.再発の火曜日
彩花が真凛を庇って事故にあった日
俺はすぐに病院へと駆けつけた
打撲で跡も残らないと聞いて胸を撫で下ろした
彩花は本当に申し訳なさそうに
「海君にまで足を運ばせてしまって、すみません」
なんて言うものだから居た堪れなかった
俺は彩花と駆けつけた彩花の両親に頭を下げて感謝すると共に、頼み込んで退院する3日後に彩花と2人になれるようにしてもらった
退院当日
タクシーで彩花の家のすぐ近くにある自然公園へ行き、池ほとりのベンチに2人で腰掛ける
あの別れた日と同じ場所
「なあ彩花、聞いてほしい事があるんだ」
「はい」
「俺の父親と母親が離婚してるって話、した事はあったけどさ。その原因が‥‥父親の浮気なんだ」
「‥‥‥ぇ」
「そんな父親についていく気になるわけもなく俺も真凛も母さんに引き取られたんだけどさ、その時の母さんは見てられないくらい塞ぎ込んで‥‥信じていた人に裏切られるってこういう事なんだって、何で母さんがこんなに傷つかなければならないんだって、俺は浮気という行為を心底憎んだ」
「‥‥そ‥んな、ごめんなさい‥ごめんなさい」
「‥でもさ、浮気は憎んでるけど父親が嫌いかと聞かれたら‥‥分からないんだ。父さんとの楽しい思い出も記憶の中にたくさんあって、俺小学生の頃から中学の途中までバスケしててバスケが大好きでさ、そんな俺にバスケを教えてくれたのも父さんなんだ。多分仕事も忙しくて休日は休みたいはずなのに、朝から晩まで練習付き合ってくれたりして」
「‥‥」
「だから、彩花の事も分からなくなってる‥‥俺は、彩花に憧れていたんだ。父さんと縁を切って母さんと真凛を不安にさせたく無かった俺は必死で強がってみせたんだけど、人を不安にさせないという行為を自然体で出来る彩花に、俺は憧れた」
「そんな‥私は‥‥」
「今回の事故の事も、近くにいてくれたのが彩花じゃなければ多分‥真凛が大怪我をしていたか‥最悪な事になっていたかもしれない」
「真凛ちゃんが‥無事で良かったです。それに‥私なんかよりも‥真凛ちゃんに何かあったら海君は泣いてしまいますから‥‥」
「彩花、真凛を助けてくれた事は本当に心底感謝してる‥‥でもな、彩花のその自分を省みずに誰もを助けようとする性格、俺は大好きだけど‥‥嫌いだよ。行動を起こす前に一度止まってよく考えてほしいと思ってる。そうしたら‥‥真凛が事故にあってたかもしれないから言ってる事めちゃくちゃだよな‥」
「‥そんな事ありません‥私も、自分が嫌いです‥」
「でもこれは俺の我儘だけど‥‥俺は彩花に変わっては欲しくないとも思ってる。俺が好きになったのは‥‥誰にでも優しくできる、ほんとうに女神なんじゃないかと思うような温かさがある彩花なんだ。だからさ‥‥」
俺の心は、多分この彩花と別れたこの場所でずっと立ち止まっている
彩花も前に進めずに立ち止まったままだ
このままずっと反省だけを続けて動けない
俺が折れずにいられたのは真凛のおかげで
俺が沈まずにいられたのは雨宮のおかげで
俺が前を向こうと思えたのはよもぎのおかげで
‥はは、何だかんだ俺は周りに甘えているんだな
だったら‥俺が‥俺達がここから先に進むには
「彩花、もう謝らなくていい」
「え‥‥」
「彩花‥‥俺は、彩花を許すよ」
俺は彩花を許し
俺を縛りつける浮気という名の鎖を緩し
浮気をした彩花を赦そう
前に進むために
「海君‥‥」
彩花は堪えきれないように泣いていたが顔をあげて
「ありがとう‥ございます」
と言った
「話はそれだけだから‥‥またな!」
そう言って立ち上がり歩き出すと、背中から声がかかった。普段の彩花からは考えられないような大きな声で
「海君!」
「私!」
「もう一度私を好きになってくれるように頑張ります!」
俺はその言葉に応えずに歩みを進めた
ふと見上げた空は、青色だった
end
浮気していた彼女と別れたけど、反省の色が濃すぎて思わず許してしまいそう 楽樹木 @kakujyuki
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