26.回顧/花島彩花side


八方美人


この言葉が褒め言葉なのか、貶し言葉なのかは分かりません

ただ、私は昔からそう言われていました


小学生の頃までは問題ありませんでした

でも、中学に入ると状況は変わりました



あれは、中学1年の3学期の事です

水道の蛇口が壊れてクラスメイトの男の子が水を浴びてしまい、私は持っていたタオルでその男の子を拭きました

それは‥‥中学に入ってできた友達の好きな男の子でした



「何で知ってるくせに、私の好きな人に手を出すの!?」


「えっ!?違います、私は手を出してなんて‥」


「最低!彩花なんてもう友達じゃない!」


「そんな‥」



友達じゃない‥‥‥そんな拒絶をされるのは初めてで

‥私が悪かったんです


女子の一部からは無視されるようになり

私は、男子とは距離を置くようにしました


学校での話し相手はほとんどクラスが違う美空ちゃんだけ


ずっと勉強だけをしていたら、気が付けば学力だけは学年で1番になっていました



高校に入って最初の試験

上位30位までの結果が張り出される紙に、全教科満点で書かれているのが私ともう1人いました

海北海君

高校に入っても周りと上手く馴染めずに、勉強だけしかする事が無くなっていた私と同じ点数

‥どんな人なんでしょうか?

その事を美空ちゃんに話すと、美空ちゃんの彼氏の友達だというので紹介される事になってしまいました

私は不安でした

男子とは2年以上まともに話してません

美空ちゃんの彼氏とも、ほとんど話した事はありません

またあんな事になるのが怖かったから


様々な不安を抱えながら紹介を受けた時

私は挙動不審だったかもしれません


だけど、その男の人は


「海北海です。よろしく」


私の不安を取り払うかのように、安心する笑顔で接してくれました


会うたびにその優しさに私は惹かれていきました



海君と恋人になってからは幸せでした

無くしてしまった中学時代を取り戻すかのように、友達も増えて

男の人に対して作っていた壁も無くなって‥







あれ‥‥私‥‥泣いてる?

何で私はこんなに弱いの‥‥

自分の性格が‥‥嫌い‥‥


涙をハンカチで拭いて深呼吸



「帰りましょうか‥」


今日は、何となくほとんど思いつきで海君と初めてデートをした場所に来てしまいました



「あれ?」


あれは真凛ちゃん?

角を曲がったところで5メートルくらい先を歩いているのは見覚えのある後ろ姿と鞄

どうしてこんな所に‥制服なので学校関連でしょうか?


!!!


車が信号を無視して‥駄目、真凛ちゃんは気付いてない

助けなきゃ!


私は真凛ちゃんに向かって駆け出した


「真凛ちゃん!!!!」







真凛ちゃんを抱きしめながら車から逃れるように飛び退きましたが‥


痛っ


痛い痛い痛い


左足がジクジク痛む


「彩花さん!?」


真凛ちゃんは大丈夫だったでしょうか?

左足を押さえながら顔を向けました


「大丈夫でしたか?」


「私は大丈夫だけど、そんな‥何で!?」


「え?」


「何で彩花さんが‥私を‥酷いことたくさん‥言ったのに」


「私にとっては真凛ちゃんは今でも大切な人ですよ」



話をしていると車から降りてきた人が駆け寄ってきたので真凛ちゃんが立ち上がって話をはじめる

良かった‥大丈夫みたいですね


「あ、あなたは警察に連絡して下さい!私は救急車を呼びます」





救急車が着くと真凛ちゃんも同乗してくれました

私の足はおそらく車のフロントに少し掠めたのでしょう。血は出てないようです


私が救急隊員の人から問診を受けている間、憔悴しているような真凛ちゃんが心配でした


「どうしよう‥どうしよう‥‥あっ、あの!すみません、この救急車どこの病院に向かっていますか?」


私は真凛ちゃんの手を握りました


「私は大丈夫ですよ」


安心してくれるといいのですが‥





念のため精密検査を受け、結果は明日との事でしたがおそらく打撲で1週間程度は松葉杖になりますが3日程で退院できると言われました


看護婦さんに車椅子で病室まで案内されるとそこには‥


‥‥ぇ、海君?


「あら、彼氏さん?」


「いえ‥‥違い‥ます」






私が自分で手放してしまった‥‥とても大切な人です





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る