25.夕暮れ時の土曜日


夕方、駅からよもぎの家までの帰り道

よもぎと、なずなちゃんを背負っている俺の影が夕暮れの橙色の光に照らされて並んで伸びる


「重くない?」


昼寝から起きたなずなちゃんは、まるで充電完了とでも言うかのようにはしゃぎ回り、帰りにはこれまた電池切れとでも言うかのように寝てしまった

俺がなずなちゃんに買って帰り際散々可愛がられたキリンのぬいぐるみは、今はよもぎが抱いている


「全然。少し前に球技大会のために結構運動してたからな。これくらい余裕だよ」


「決勝しか見れなかったけど、格好良かった」


「ありがとう。よもぎは何出てたっけ?」


「‥‥卓球」


「‥‥ああ、あったな。卓球」


男子がサッカーとバスケで女子はそういえばバレーと卓球だった

卓球も一応球技といえば球技か


「何故か勝ち進んで‥‥早く負けて応援行きたかった」


「俺はどちらかと言うと卓球見たかったけどな」


無表情で淡々と球を打ち返すよもぎは相手からすれば割りとプレッシャーを感じるだろう




そんな事を話していると家の前に着いた

玄関先で背負っていた寝ているなずなちゃんをよもぎが受け取る


「今日はありがとう」


「ああ、俺も楽しかったし、なずなちゃんも楽しんでくれた‥と思うけどどうだ?」


「うん、あそこまで楽しそうなのは滅多に見れないくらい楽しんでたよ」


「それなら良かった」


俺が笑うと


「それに、私も楽しかった」


そう言ってよもぎも笑った


「それじゃ、またな」


「うん、またね」




暗くなる前に帰したので時間もまだ早い

どこか寄り道でもしようか‥そう考えつつも思い出すのはよもぎと話した昼の事






「私は海の事が好き」



そう言われた時

心も体もまるで鎖に絡め取られているように動けなかった


よもぎと‥誰かと‥恋人になる?

その考えがよもぎの告白で現実感を帯びると、俺の中の何かが囁やく




また‥‥浮気されるんじゃないか?




そんな俺の内心など知らないはずのよもぎだけど、まだ話には続きがあるらしく、ゆっくりと喋りだす

一言一言伝わるように


「でも‥」


「海がまだ、そういうの考えられないって分かってる」


「だから待ってる。海が前に進めるようになるまで」


「そうしたら、私と向き合ってほしい。私の事、考えてほしい」


「私に何か手伝える事があったら、言ってね?」


そう言ってよもぎは微笑んだ






少しづつ、自分の中での考えがまとまってきたように思う



明日、彩花と話をして自分なりの答えを出そう


そう決心して彩花に連絡しようとスマホを取り出すと、電話がきた

真凛?


「もしもし真凛?どうした?」


「お兄ちゃん!すぐに駅前の総合病院まで来て!」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る