怪異一夜城、落城すべし!

牛☆大権現

怪異一夜城、落城すべし!

 江戸時代、ある小藩しょうはんの城下町。

 一夜のうちに、城が現れたり!


 藩主はんしゅ居城きょじょうでは無い。

 居城きょじょうを見下ろすように、もう一つの城が建ったのだ。


 物見が伏して報告する。


「怪異の城にございます。

 城の周りには霧立ち込め、ドクロどもが遊んでおります 」


 騒然そうぜんとする重臣ども。


「すわ、怪異一夜城かいいいちやじょうか!

 徳川様にお伺いを立てよう 」


いな、それでは殿の面目めんもく丸潰まるつぶれ。

 我がはんたちまち、お取り潰しぞ! 」


 騒々そうぞうしい議論の中、藩主はんしゅ立ち上がりて大渇だいかつす。


落城らくじょうすべし!

 怪異一夜城かいいいちやじょう落城らくじょうすべし! 」


 藩主はんしゅ命令は絶対、即座に隊が編成された。


 稀少なる火縄衆500、弓兵500。

 槍兵は1000、刀兵も1000。


 総勢3000人のつわものたち、一気呵成いっきかせい怪異城かいいじょうに攻め入ったり。


 報告にあったドクロども、姿を見せた。

 火縄衆、構えれども火が点かぬ。


濃霧のうむにございます、火縄は使えませぬ 」


「仕方ない、弓隊放て! 」


 500の矢、ドクロどもを貫いた。

 額を抜かれ、膝関節を壊されても、ドクロどもはまだ動く。


「当たったのう 」


者共ものども、矢が当たるなら壊れるぞ。

 壊れるなら、怪異かいいとて死なぬ道理なし! 」


 つわものども、奮い立つ。


 面白き光景であった。

 ドクロども、強者たちに追い立てられ、城門の内に逃げ込んだ。


 藩内の大工が、総出で作った破城槌はじょうついが到着。

 破城槌はじょうつい、門に叩き付けられる。


 だが、城門に口が現れ、破城槌はじょうついを呑み込んでしまった!


「生きた城門とは、珍しい 」


「我が藩の城にも一つ、取り付けられないか? 」


 二つ目の破城槌が到着。

 今度は一味違う、経文きょうもんが隙間なく書かれている。


「これならどうだ? 」


 破城槌、放たれる。

 城門は口を開けども、経文の効力によって、触れる前に腐り落ちてしまった!


「坊主どもも、こういう時は役に立つ 」


 つわものども、城門から怪異城かいいじょうに突入する。

 狭き通路は、人の作った城と似ていた。


 通路の先に、種々様々しゅしゅさまざまな怪異が現れる。


「占めたぞ、奴等は兵法へいほうを知らぬようだ! 」


「狭き道にいる敵兵、広き場所にて待ち構えるが道理。

 自らも狭き道にいるなら、地の理を活かせぬ! 」


 その通りであった。

 戦を知らぬ怪異達かいいたちが、兵法ひょうほうを知る訳もない。


 地の理を活かせず、戦力の逐次投入ちくじとうにゅうを重ねるばかり。

 怪異達が、いかに怪力・不死身でも、物の数では無い。


 破竹の勢いで、つわもの達は城主の居室きょしつに辿り着く!


「バカな。

 わらわの怪異軍が、呆気なく崩されたのか!

 」


 そこにいたのは、見目みめうるわしき女なり。

 妊婦にんぷのようであった。


怪異城かいいじょうの主よ、答えろ!

 なぜこのような場所に、城なぞ建てた? 」


 つわもの達に油断はない。

 女が怪しき術を使う前に、鈍器で滅多打ちにしてから、尋問じんもんに移る。


「知れたこと、人のきも妖力ようりょくを高める。

 鍛えたサムライどもの生き肝なら、子に最上の養分となろう 」


 女の顔面に、木刀が打ち込まれた。


 ただの木刀では無い。

 鍛練用の大木刀に、経文がびっしり書き込まれている。


「どのような理由があれ、我が藩を脅かしたは大罪ぞ。

 子に罪は無かれども、母の罪は罰せねばならぬ 」


 女の声を聞いた、藩主の言葉である。

 女妖に科された刑は、つわものたちのなぐさみもの。


 一夜で建った怪異城、一夜とかからず落城す。

 怪異より恐ろしきは人、と言うのは真なり。

(完)

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怪異一夜城、落城すべし! 牛☆大権現 @gyustar1997

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