ガンレイヴンマスター ~寿命を撃ち出す虚弱魔銃使い、余命一日でライフドレインに目覚める~

タック

ガンレイヴンマスター ~寿命を撃ち出す虚弱魔銃使い、余命一日でライフドレインに目覚める~

 人間の平均寿命は貴族で八十歳、平民で五十歳くらいらしい。

 運が良ければ幸せな家庭を築いて、孫に看取られながら死んでいくことも可能だろう。

 肩にワタリガラスを乗せた痩せぎすの男――フローキ・ビリガンズはそんなことを考えていた。


「それに比べて俺の余命はあと二十年か~……」


「ハハハ。フローキ、お前は二十歳ハタチだろう? それなら四十歳まで生きられるじゃないか」


「でもさぁ~……十年分損した感じがするだろ~?」


 森の中、ゴブリン退治のために一緒に歩いている剣士の親友――ヘルヨルヴが笑っていた。

 フローキは病弱で気弱な性格なので、ヘルヨルヴのように逞しく気さくな人間とは正反対だった。


「おっと、ゴブリンがいたぜ」


 小声でヘルヨルヴが伝えてきた。

 草葉の陰から見えたのは緑色の小柄なモンスター――ゴブリン。それが二匹だった。


「それじゃあ、いつもので頼むぜ。相棒」


「わかった。寿命一日分を込めた弾丸を撃ち出す。けん制にしかならないからトドメは任せた、ヘルヨルヴ」


 フローキは肩のワタリガラスを黒い魔銃に変化させ、右手でしっかりとグリップを握り、左手でソッと支える。

 それを確認したヘルヨルヴは赤い剣を構えて、ゴブリンに向かって走り出した。


「たぁッ!!」


 赤い剣はゴブリンを斬り割き、小さな体躯に詰まっていた中身をまき散らす。

 もう一方のゴブリンは驚いて逃げだそうとしたが、フローキが魔銃で脚を打つ。

 威力が弱いために貫通はしないものの、青あざが付いた脚をもつれさせて転んだゴブリン――そのまま頭上からのヘルヨルヴの剣がトドメとなった。




 ***




 ゴブリンを解体して魔石を取りだし、頭部を潰して、二人は村に帰るところだった。

 頭部を潰すのは、以前モンスターのアンデッドが出没したので念のためだ。


「なぁ、フローキ考え直さないか? 冒険者を引退しちまうなんて……」


「いや……さすがに俺じゃ足手まといだしな……」


 その会話の流れで、フローキは冒険者になった経緯を思い出してしまっていた。

 まだフローキが子どもの頃――村に一匹のワタリガラスがやってきた。

 不吉である黒い羽を恐れて、村人たちは気味悪がって近寄らなかったし、石を投げて追い払おうとするくらいだった。


 しかし、フローキだけは違った。

 元来、虚弱体質で慎重な性格だったのだが、引きこもって本を読んでいたために迷信の類は信じていなかったのだ。


『ワタリガラス……またの名をレイヴン……この国の王オーディンの使いと一緒だ……』


 大きな翼を広げた力強いシルエット、闇夜を思わせる艶やかな黒毛並み。

 美しいと思った。

 フローキはワタリガラスに手を差し伸べると、それは魔銃へと変化した。

 脚にくくり付けられていた何者かの手紙によると、このワタリガラスはフギンという名で、寿命を弾として撃ち出す力があるという。


 物騒な力を手に入れてしまったな……と思ったが、冒険者を目指していた親友のヘルヨルヴに誘われて、一緒に冒険者になったのだ。

 だが――寿命を発射するというのは冷静に考えるととても怖い。

 最低出力でも一発で一日分だ。

 もっと威力を上げると一年、いや、十年でも撃ててしまいそうだった。


 そんなわけで、虚弱体質で引っ込み思案な性格のフローキは最低出力の一日分を弾にして、前衛のヘルヨルヴのサポートに努めた。

 結果は、ご覧の通り弓よりも弱く、青あざを作る程度だ。

 十年で寿命一年分も撃っていない。


「はぁ……リスクを必要とする特別な武具でも、もうちょっと使い勝手がいいものならな……」


 フローキはついぼやいてしまう。

 いつも明るいヘルヨルヴは、それを軽く笑い飛ばす。


「ハハハ。何度も言ってるけど、弓矢みたいに次の発射まで時間がかからないし、コンパクトで弾道も安定して一直線。オマケに威力まで調節できる優れものだ。もし、寿命を多く込めたらどうなるか興味があるところだぜ?」


「まったく、気軽に言うなぁ……。ヘルヨルヴの赤い剣――それの制約が『三年に一回命を奪う』というだけで、切れ味抜群で刃も欠けないっていう高性能だから言えるんだよ。三年に一回モンスターを倒すだけでいいじゃないか」


「まぁ、帰り道でこんな軽口を言い合えるのも最後か。冒険者には向き不向きの性格がある。それでもオレはフローキとコンビを組めて楽しかったぜ」


「ああ、俺もだ」




 村に帰ると、知り合い達が出迎えてくれた。


「ゴブリン退治ありがとう、いつ畑が荒らされるかとヒヤヒヤしてたよ」――好々爺のビリーお爺ちゃん。いつも野菜をお裾分けしてくれる。


「野蛮なモンスターから人々を守るお仕事、お疲れ様でございます。神も見ていらっしゃいますよ」――以前から滞在している旅の教会説教師ケビンさん。子ども達に勉強を教えてくれている。


「私たちの結婚前に終わって良かったわ」――幼なじみの一人で、今度結婚するアンナ。ビール造りが上手い。


「うん、ほんと二人は自慢の幼なじみだよ」――同じく幼なじみの一人で、アンナと結婚するマイク。代々受け継ぐ酒場を営んでいる。


 ヘルヨルヴは『まぁな!』と自信満々に受け入れているが、フローキは――


「い、いや……俺はサポートしただけだし、今日で引退だし……」


 と一歩引いた態度をしていた。

 すると全員が大きく笑って、フローキの背中を叩いたり、ハグしたり、頭を撫でたりして親愛の情を表した。

 とても温かいと感じた。

 フローキは戦うことを捨て冒険者を辞めることになるが、この大好きなみんなと一緒に暮らすために別のことで頑張ろうと誓った。




 家に帰ったフローキは、白髪交じりになってきた優しい両親と晩ご飯を食べた。

 ニシンのパイ、厚切りベーコンとソラ豆のスープ、硬くないライ麦パン。

 村で出る料理としては豪華な方で、父親がへそくりを出して食材を買い、母親が張り切って料理してくれた。


 冒険者としては最後の晩餐だ。

 これからは薬師である両親から色々と教わって、第二の人生を歩むことになるだろう。

 食事も終わり、新しい明日に備えて早めに寝るか――と思ったところで、家の扉がコンコンとノックされた。


「はーい、どなたかな?」


 フローキの父がドアを開けた。

 田舎の村なのでモンスターはともかく、ノックしてくる相手で危険な人物はいない。


「こんちゃーっす、ヘルヨルヴです!」


「おぉ、息子の親友の――あがッ!?」


 フローキの父が痙攣をして、次の瞬間に臓物をまき散らしながら倒れていた。

 その場にいたフローキと、フローキの母は事態が飲み込めずに固まってしまった。


「おい、フローキぃ……なにボンヤリしてんだよ? 今のを見ていなかったのか? オレが――お前の親友であるヘルヨルヴが父親を殺したんだぞ? ほら、さっさと危機感を覚えて魔銃を使えよ?」


 フローキはガタガタと震えながら、豹変した表情のヘルヨルヴに疑問をぶつけた。


「ど、どうしてこんなことを……? これは……夢……そうだ、疲れていたからきっと……」


「まだそんなことを言っているのか、フローキよぉ? 早くしないと次はフローキのかーちゃんを殺すぞ? あー、もうお袋の味を食べられなくなるなんて残念だなー。オレも子どもの頃に喰ったけど美味かったよなー」


「や、やめ……」


 フローキは父親を目の前で殺されても、それをやったのが自分の親友ということを飲み込めずに躊躇してしまう。

 意味がわからないからだ。

 これが野盗なら目的があるのだろうと思うし、人殺しは嫌だが正当防衛ということで撃つこともできるだろう。


 しかし、数時間前まで一緒にモンスターを狩っていた相棒――幼い頃からの親友が呆気なくフローキの父親を殺したのだ。

 すぐに気持ちを切り替えて魔銃を向けることなどできない。


「な、なぁ……何かの間違いなんだろう、ヘルヨルヴ……?」


「間違いでもなんでもねーよ、ほいっ」


「ああああああッ!!」


 ヘルヨルヴがオモチャで遊ぶかのように赤い剣を振るうと、フローキの母親の片腕が切断された。

 部屋の中がさらに血で汚れていく。

 フローキは母親まで殺されるわけにはいかない。

 肩に乗っていたワタリガラスのフギンを魔銃に変化させて、右手にしっかりと握りしめ、一日分の寿命を弾丸として発射する。

 狙いはフローキの脚だ。


「お、やっと魔銃を抜いたか――けど!」


「くっ!」


 発射された弾丸は、いともたやすく赤い剣で弾かれていた。

 二発、三発と撃つがすべてが無駄だった。


「おいおい、どうした。もっと必死に撃たないとかーちゃんが死んじゃうぜ?」


「はぁはぁ……」


 激しい運動をしていないはずなのに、この異常すぎる状況で息があがってしまう。

 どうすればいいのか。

 寿命をどれくらい注ぎ込めばいいのか。

 一日でダメなら一ヶ月か、それとも一年か――


「迷っているようだから、もう終わらせるか」


 ヘルヨルヴの剣が振り下ろされようとしていた。

 もうどれくらいの寿命を込めるか小刻みに試している時間はない。


「フギン! 俺の二十年分の寿命を込めろォーッ!!」


 身体から魂がフッと抜けるような感覚のあと、炎よりも熱いモノが右手の魔銃に集まっていくのが感じられた。

 リボルバータイプのシリンダーに命の銃弾が装填されていく。

 すかさず引き金を引く。

 銃口からいつもとは違う大きな魔弾が発射され、反動で右肩が強く押された。


「やればできんじゃねーか……」


 魔弾はヘルヨルヴの心臓がある場所を貫いていた。

 赤い剣を握りしめたまま、ヘルヨルヴが倒れる。


「はぁはぁ……うぷっ」


 フローキはむせ返るような血の臭いを感じ取り、冷静になった。

 父親が親友に殺され、その親友も自らの手で撃ち殺してしまった。

 悪夢ですら生ぬるいと感じる状況だ。

 それに二十年分の寿命を撃ってしまったので、魔銃に浮かび上がる寿命カウンターの数字は――


「たった三日……それが俺の寿命……」


 フッと力が抜けてしまい、壁に倒れかかり、そのままズルズルと床に身体を預けた。


「毎日ビリー爺ちゃんに挨拶して、休みの日にはケビンさんと一緒に神に祈りを捧げて、たまにマイクの酒場でアンナが造った酒を飲む……そんな平穏な人生だったのに……これからも二十年間ずっと続くと思っていたのに……」


 それがあと三日で終わるという現実。

 何のためにマジメに生きてきたのか。

 父親に親孝行をすることもできない。


「あ……でも、母さんがまだ……腕を治療しないと――」


 腕を斬られた母親を放置していては失血死の可能性がある。

 胎児のように丸まって無気力だったフローキは立ち上がり、母の方へ歩いて行こうとしたのだが、何やら様子がおかしかった。


「か、かーちゃん……?」


 フローキの母は痙攣を起こしているのだが、尋常ではない形相だった。

 まるで悪魔に取り憑かれているかのような――


「んじゃ、実験も終わったし、残りのお前も眷属モンスターにするか」


「……え? なんでお前が生きて……」


 心臓に穴が空いているヘルヨルヴが立ち上がっていた。

 平然な表情をしていて、いつもの穏やかな口調だ。


「ああ、そういえばお前は知らなかったな。オレやお前のような特殊な武器所持者は制約を破るとモンスターになっちまうんだ」


「……制約? ヘルヨルヴの赤い剣の制約は『三年に一回命を奪う』という簡単なものだったんじゃ……」


「実はそれは言葉が足りなくてな。本当は『三年に一回、一番大切な者の命を奪う』だったんだ。当時のオレはどうしても、お前の命を奪えなくて吸血鬼になっちまった」


「そ、そんな……」


 ヘルヨルヴはみるみるうちに胸の傷が修復されていた。


「けど、今ならもう誰の命でも簡単に奪える。こんな風にな」


「あっ」


 ヘルヨルヴは、フローキの母親の首に剣を突き立てた。

 ゴボゴボと血のあぶくが噴き出している。


「そして、この赤い剣の能力を使えば、殺した相手を眷属モンスターにできる」


 ヘルヨルヴが殺したフローキの両親が、だらりとした力ないポーズで立ち上がっていた。


「な、なんてことを……人を……殺すなんて……」


「アハハ、もしかしてオレが今日初めて人を殺したと思っていたのか? すでに殺ってたさ」


「……え?」


「お前と、お前の家族以外――この村の人間はずっと前に殺して眷属モンスターにしていた。知能がなくなっちまうから、芝居をさせるのは苦労したんだぜ?」


 フローキは大きなショックを受けた。

 今日までずっと話してきたビリー爺さんも、ケビンさんも、アンナも、マイクも――すべてが吸血鬼になったヘルヨルヴがさせていた演技であり、人形のようなものだったのだ。

 家の入り口から眷属モンスターたち――元村人たちが押し寄せてくる。


「ど、どうして……こんなことをしたんだ……」


「二つ理由がある。一つ目は、お前の持つ魔銃――フギンの性能を確かめるためだ。本当だったら冒険者生活で性能を見られるかと思っていたが、腑抜けなフローキは最弱性能しか使わなかったからなぁ。こうして最後は追いつめてテストをしてみたってわけさ」


「そ、そんなことのために……」


「まぁ、こっちは本当の目的じゃねぇ。二つ目の理由、そっちが本題だ」


 ヘルヨルヴは息がかかるような距離までフローキに近付き、満面の笑みで言い放った。


「どうやらオレにも吸血鬼になる前の心が残っていたようでなぁ。親友だったお前が絶望する顔をどうしても見たくなっちまったんだ」


「は……?」


「分かりやすく言うと、大人になると苦い味が美味く感じたりするだろう? アレみたいに、吸血鬼になったオレはお前の笑顔より、絶望した顔の方が美味しく感じると思うようになっちまったってわけさ。サイコーだぜ、今のフローキの顔」


 フローキは悟った。

 すでに親友のヘルヨルヴは存在しない。

 頭の中を吸血鬼として書き換えられたモンスターが存在するだけだ。


「それじゃあ、フローキ。お前は眷属たちに食べられて糞になれや」


 ヘルヨルヴが合図をすると、眷属たちが一斉に飛びついてきた。

 どれもこれも見知った顔だ。

 さっきまで死んでいた父親と母親もいる。

 脚はローストチキンを食べるような表情でかぶりつかれ、人間とは思えない力で左腕を引き千切って取り合いをしている。


「あああああああッッッ!!」


 フローキは激痛で絶叫しながらも、まだ握っていた魔銃を撃つ。

 一発は外れて天井へ、二発目は鳩の豆鉄砲のような威力でヘルヨルヴの腕に青あざを作った。


「もう、その魔銃の限界は見たからいいよ。フローキが死んだあとにオレが有効利用してやるからさ?」


 そのヘルヨルヴの冷たい声を聞きながら、フローキの花のように咲いた臓腑は囓られていた。

 すでに痛みは限界を超えて、全身の感覚が消え失せていた。

 あるのは恐ろしいくらいの体温の低下。

 魔銃に表示された寿命は一日――その僅かな魂ですら凍り付いてしまいそうだ。


(死にたくない……)


 何もかも失いそうになった瞬間、フローキはそう渇望した。

 今まで平穏に生きてきた人生ではありえないくらいに、強く〝思考〟したのだ。

 どうすれば死ななくて済むのか――と。


【アンサー、一つ方法がある】


「なん……だ…………声……が…………」


 知らない声が響いた。

 この空すべての重さと同じくらいズッシリとした声。

 頭の中に直接話しかけられているのだが、不思議と不快ではない。

 ずっと知っていたような温かな感覚がある。

 魔銃――フギンの声だと確信した。


【シコウの化身である私を受け入れ、渡鴉の銃使いガンレイヴンマスターとなるのだ】


「へへ……ならない……なんて選択肢はないよな、余命一日なら……。いいぜ、なってやるよ」


 全身を食べられながら、フローキはそう呟いた。


「あぁん? フローキ、何か走馬灯でも見えて――」


「なってすべてを撃ち抜いてやるよ! もうお行儀良く生きるのは止めだ! どうせ最後は死んじまうのなら、俺は好き勝手やらせてもらうぜ!」


 フローキは血を噴き出させながら勢いよく、飛び上がるように立ち上がった。


「今日から俺は渡鴉の銃使いガンレイヴンマスターだ! 目の前のジャマなモノは――」


 魔銃に表示されていた寿命一日の数字が変動していた――どんどん上昇している。


「ぶっ放して黙らせてやるぜーッ!!」


 魔銃が侵食して、右腕全体が銃に変化していた。

 いつの間にか身体の傷も元通りになっている。

 壁に掛けてあった大きなテンガロンハットが頭に落ちて、フローキの目元を隠し眼光だけを光らせていた。


「ヒャッハー!! 一発十年分で乱射だー!」


 吹っ切れて頭のおかしくなったようなフローキは奇声を発しながら、強力な魔弾を放つ。

 群がっていた眷属たちは弾け飛び、動かぬ肉片へと還っていく。


「なっ、どうしてだフローキ!? お前の寿命は残っていないはずじゃ――」


「ガンマンが弾を補充する手段を持ってなくてどうするよ?」


「……ま、まさか」


 ヘルヨルヴは、最後に撃たれた肩を見た。

 一見、ダメージが通っていないように見えるが、魔力による管のようなものがフローキと繋がっていたのだ。


「ライフドレイン――撃った相手から寿命を吸い取るフギンの力だぜ」


 村人すべてを殺し終え――いや、死人を死人に還しただけのフローキは魔銃に表示された寿命カウンターを確認した。

 書いてあった数字は666年だ。


「ま、まて……これからも一緒にヘルヨルヴとフローキの親友コンビを組んで――」


「みんなの本来の寿命だ、受け取れ吸血鬼野郎」


 フローキは悪魔のように笑い、躊躇せずにトリガーを引く。

 夜に太陽のような光が灯った。

 吸血鬼ヘルヨルヴと赤い剣は跡形もなく消え去った。




 ***




「ハハハ、何もかもなくなっちまったな」


 フローキは村人たちの墓を作って朝を迎えた。

 死体すら塵になっていたので、遺品を埋めただけのものだ。


「さてと……これからどうするかな。寿命は戻ったんだから、街の方にでも行って仕事でも――」


【アンサー、残り寿命は三日】


「……は? だ、だって……最後に吸血鬼野郎を撃った瞬間、数十年分の寿命をライフドレインして魔銃のカウンターが増え……って、ほんとだ。なぜか三日になっている」


 フローキが見た魔銃のカウンターはたしかに変動していた。

 あれから寿命を発射していないのに、なぜだろうという疑問が浮かぶ。


【三日以上の寿命は溢れ出て、すぐに霧散してしまう。つまり――残り寿命は最大三日まで。生き残るには常にライフドレインし続けなければならない】


「マジかよ。そんな気軽にライフドレインできる職って………………結局冒険者じゃねーか」


 フローキは溜め息を吐くしかなかった。

 今までと同じ冒険者を続けなければ死んでしまうのだから。


「だけど、三日しか生きられないと思うと、死ぬ気で何でもできる気がしてきたな。よし、完全に吹っ切れたぜ! 冒険者としてバンバン稼いで、美味いメシを喰って、可愛い恋人を作って、良い家に住んでやる!」


 フローキは街へと向かって歩き出した。

 もう後ろは振り向かない。

 三日しかない未来だけを見続ける。

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