第38話 ……それはちがうぞ! リヴァイアよ。

「どいつもこいつも……あたしのメイドも、ニンジャも。何もかも分からずに言いたい放題だ! ……でもな、お前達が軽々しく思っているほど、ニンジャの世界も甘く無いんだよね」

 ほとんどイレーヌの愚痴歯知りである――

「あー世話焼けちゃう!!」

 イレーヌ、魔銃を構えながら玉座の隣の台に置かれている王冠――サロニアムの王冠を、あっさりとスナッチするなり。

 スタスタとルンの目まで早歩きしてから、ササっと頭に乗せた……。


 戴冠である――


「……ふう」

 一呼吸するイレーヌ。

「まったく。先代のサロニアムの王様、お久しぶりです」

 イレーヌは、ルンがかぶっている王冠を見つめて、自分が上級メイドとして仕えていた頃を思い出した……。



 ――彼女に語り掛けるのはサロニアムの王。付き添うのは上級メイドのイレーヌ。


「……もはや、オメガオーディンの毒気に、このサロニアム城もすっかりと負かされてしまったな」

「……陛下。承知至極の極みです」

 ここは、サロニアム王の寝室である――

 イレーヌは深く頭を下げることしかできなかった。上級メイドの身分であっても、それ以上の行いは御法度だから。

「一人、また一人と毒気に倒れていき、……イレーヌよ。運良くお前は上級メイドの職を退くことで」

「はい……」

「私は、本当は知っていたぞ」

「……恐れながら、何を?」

「お前がアルテクロスの法神官ダンテマの手先だと、ニンジャだということを」

 そう呟くと、サロニアム王は咳き込んでしまう。

「……! そっ……はい」

 思わず咳き込んだ王に歩みを寄せようとしていた最中、……イレーヌはそれを止めて、更に深く頭を下げる。


「はははっ……。お前もサロニアム流のウソが、しっかりと身についてしまったな」

「お……仰る通りで……」

 上級メイドのイレーヌ、頭を下げたままに返す。

 ――しばらく、それを見つめてサロニアムの王が、

「……アルテクロスの、あの法神官であるならば、必ず、ここ大帝城の地下深くに封印するしかなかったあやつを……オメガオーディンを、倒す術を見つけるだろうと、イレーヌよ、頼んだぞ」


「この世界に、真の平和を導いてくれ」

 咳き込みも峠をこえたのか……、サロニアム王は肩で数度と深呼吸をしてから、深く目を賭してしまった。


「……はい。陛下必ず」

 その姿を、イレーヌは――


「見つけましたからね……。今、ここに、御前に!」


 レイスのしるし

 聖剣エクスカリバー

 サロニアムの王冠


 そうだ……。そろったんだ――




       *




 コマンド > スキル > 究極魔法レイスマ


 ポチッとな……。


 はい!

 異世界――ファンタシーの定番シーンの始まりですよ。


 え? 何かって??

 んもー!! お客さんイケズ~


 メインイベントですよ!!

 究極魔法レイスマの発動ですよ!!


 ――では、さっそく!




「うわわっ、なに??」

 レイスが自分の身体を見回して、慌て叫んだ!

 見ると……、レイスの全身がヴゥオーーン! という具合に、明るく白く輝きだしたのだ!

「うわ……。ちょ、やだ!」

 どうしていいのか分からない。

 レイスの身体が少しずつ空中に浮かんでいく――

「うわっ! ちょ……、これ自由に動けな~い!」

 レイスの身体は、今まさにアンコントロールである。

 両手をバタバタと動かして、なんとか態勢をしかっり取ろうとしているのだけれど、思うようにはいかない。


 レイスの胸に刻まれている紋章――『レイスのしるし』が発動したのである。



「おお……、おいって」

 続いてはルンである。

「なんだ、これ?」

 ルンは思わずそう叫んで……。

 君の気持ちは分かる。

 ルンの頭上にかぶっている王冠――『サロニアムの王冠』が、レイスと同じく白く輝きだしたからだ。

「おい……。ちょっ、なんだ!!」

 更に慌ててしまうルン。

 ルンも、レイスと同様に身体がゆっくりと空中に浮かんでいく――


「こんなの聞いてないぞ!! レイスって」

 ルンがなんとか態勢をレイスの方に向けて……、その投げやりな苦情を申し付けた。けれど、

「わ……私だって知らないわよ!! ルンが、なんとかしてよ!」

 と、溺れる者はなんとやらで。

 この場合は、空中に浮く者は人のせいにすると言ったところか?


「できるか!!」

 たまらずルンが大きくツッコミを。

「わ……、私だって!!」

 続いてレイスも同じく。


 ――2人の身体は、更に更にゆっくりと浮上して……、見た目7メートルくらいにまで上がって浮かんでいる。


 ヴッワワワ~ン


 レイスの全身を包み込んでいる輝きが、いっそう光を強めている。

 ルンがかぶっている頭上の王冠も同じくだ!



 ――それを見上げているのは、聖剣士リヴァイア。

 その手に持つ聖剣エクスカリバーも、あの最果ての洞窟の中で、オメガオーディンの声を心で聞いた時と同じく、

「……はやまるな。聖剣エクスカリバーよ」

 と言った時のように、怪しくも7色の光を放ち、その呼吸のような光の移り変わりを、今こうして究極魔法レイスマの発動へと……意気込んでいるかのように。


「……ついに来たな」

 聖剣士リヴァイアは……独りで静かに呟いた。

「……ようやくか」

 そう言うと、リヴァイアは少し顔を下に俯かせた。

 聖剣エクスカリバーは……いっそう光を強めている。


「ちょ! リヴァイアって!! こ……これっなんとか」

 空中で身体をくねらせて、なんとか態勢を……、と試行錯誤しているレイスが、下に立つ聖剣士リヴァイアに叫ぶ。

「リヴァイアって! これって俺達、大丈夫なのか??」

 ルンも同じく。


「――――」

 しかし、聖剣士リヴァイアは俯いたまま無言である。


「リヴァイアさま? いかがしましたか?」

 魔銃を床に向けて、ああ……ようやくサロニアム王の遺言を果たせたと。

 感無量に感慨していたイレーヌが、リヴァイアの俯いた姿を目にして疑問を抱く。


「……リヴァイアちゃん。リヴァイアっち。……聖剣士リヴァイアさま」

 アリアはこの究極魔法レイスマの発動の、ズヴァヴァ……な光景を目の当たりにして、腰砕けな感じになり床にへしゃぎこんでいた。

 そりゃ驚くよね?

 だって天下無敵? の、究極魔法レイスマを、今まさに目の前で目撃しちゃってるんだから……

 そんな中でも、天然アリアは健在であった。

 頷いて無言の聖剣士リヴァイアに対して、……まあ、ちょっとした意地悪めいた言葉で、つまり「ちゃん」とか「っち」という呼称をわざとつけて、彼女の気を引かせようと試みたのだった。


「アリアよ。……聞こえているぞ」

 表情一つ変えることなくリヴァイアは、俯きながらもアリアに返す。


「ちょ……、リヴァイア」

「おいって! リヴァイアって」

 レイスとルンは、いっそう空中に浮かんでいく――けれど。


「……毒をもって毒を制することはできなかった。毒気にやられた私は、その毒元を倒すことは不可能だったな」

 聖剣エクスカリバーは、いよいよ光を強めている――

 その聖剣をギュッと力強く握り締めた聖剣士リヴァイアは、


 かつてのサロニアム王……


 毒気から誕生した聖剣エクスカリバー


 そして、初代のダンテマよ



 発動した究極魔法ダンテマ――

 しかし、封印することしかできなかった。

 なぜなら、私とオメガオーディンとに間には……、血縁に等しき関係が――


 だから、すべて私のせいだ!!




(否……それはちがうぞ! リヴァイアよ)




「誰だ!!」

 ふと、意気込む自分にまるで宥めるように、話し掛けてくる男性の声が聞こえてきた。


(忘れたのか……。お前の旦那だよ)

「……ダンテマ、か??」


(……ああ、そういう血気な姿に俺は惚れたのだっけな?)


 初代ダンテマだった。つまり、リヴァイア・レ・クリスタリアが愛した人物――初代クリスタ王女の父親である。

 夢の向こうに見える1000年前のダンテマは、まったく変わらずに、

「……ダンテマ。……1000年前のダンテマよ。……懐かしいな。……そして、いまでも……、いまでも私はあなたを愛しているのだから」

 グッと……涙腺が緩んで一気に涙を流してしまうリヴァイア。


(……嬉しいぞリヴァイア。折角だから、この際全部浮気とかなんちゃらとか告っても御破算してくれれば……なお有難いのだけれど……)


「ダンテマ。私は……いまでも愛しているのだから」

(許して……)

「……それはカズースへと凱旋した時に、しっかりと話し合おうぞ。温泉に浸かりながらな」


(……リヴァイア、お前の生まれ故郷カズースで俺は……待っているからな。まあ今のうちに謝ることができてよかったと思おうか)

「……断じて、許さんぞ! アホか! バカか! 反省文ものだぞダンテマ」

 怒りの方向を……そろそろ本題へと戻そうね。



 リヴァイアは理解していた――


(オメガオーディンからの毒気を食らったリヴァイア、聖剣士リヴァイアとなり聖剣エクスカリバーを持った)


(でも、その聖剣エクスカリバーは、言うなればオメガオーディンが自らの子孫を残すための『雄蕊』のような存在。――リヴァイアよ、お前はそれを永遠に背負うことを余儀なくされてしまった)


「それは、承知なり!」

 視線をレイスとルンに向けたまま、心の中で語り続けてくるダンテマに、リヴァイアは鋭く返答。


(その『雄蕊』が『雌蕊』に戦いを挑むことは、あり得ない。その先にあるのは『受粉』である。だから、リヴァイア、お前には絶対に倒せないのだ)


「それも、承知だ!! オメガオーディン……。お前と戦い毒気という呪いを受ける前に、私は……、私が愛し愛された彼と出逢い、運よく娘を授かることができて、本当に良かった。お前と“兄妹”という汚名を1000年も自らの心の中から浸食されながら……、永遠の命を生きることを強制されて」

 流す涙を、リヴァイア自身はなんとか流すまいと、今更流しても1000年前には戻ることもできず、だから流すまいと――

 それでも、流れてしまう……目元からそれは雫となり、頬を伝って――


 両手で持つ聖剣エクスカリバーの、リヴァイアが郷愁と共に身を竦めるような気持で思わずそれを抱きしめようとした時に、リヴァイアの涙の一滴が聖剣エクスカリバーのみねへと落ちていった。

 ちょこんと峰に触れた涙に、聖剣エクスカリバーは一瞬光を大きくして反応する。

「私は、愛する彼と結ばれたのだから……、もう、ほっておいてくれないか?」

 反応してから、また元の7色の光の層を響かせ続けて――


「……ダンテマ。必ず逢おうぞ!!」

 俯いていたリヴァイアがグッと顔を上げた! 見つめる先はレイスとルンである。


 リヴァイアはルンとレイスに視線を向けたまま、その向こう側を遠目にして1000年前の彼――初代ダンテマとの愛し愛された日々を想った。

 ……もう、その彼も墓標の下に眠っていて、その肉体は勿論のこと、骨もきれいさっぱいと土に分解されたことだろう。


「ルン!」

 クイッと、ルンを睨んだリヴァイアは、

「ルン!! これを受け取れ!!」


「へ? な……何を?」




 ブオーーーーーン!!




 リヴァイアは自分が持っていた聖剣エクスカリバーを、円盤投げの如くルン目掛けて投げ付けた!

「わっ。わわ……」

 そんな物騒な武器なんて、普通投げ付けるもんじゃないだろ……


 

 ブオーーーーーン!!



 それでも、聖剣エクスカリバーはグングンと円を描いて、ルンに迫ってくる。

「わ……ちょ、どう……すれば?」

 ルンは今はサロニアム王の王冠を“戴冠”したことで、更にはレイスのしるしも交えて、究極魔法レイスマの発動へ向けた準備段階といったところである。

 空中に浮かんでいる自分を、自分で制御できないのは無念の極みなのであり――


 そんな最中に、リヴァイアから聖剣エクスカリバーを投げ付けられたもんだから、

「わ、わわ……って。もう、こうにゃらって」

 そんなルンが両手を前へと、体制を無視して掲げる。

 なんとか、あの飛んでくる物騒な武器を――なんとしてでも捉えなきゃ。

 んで、



 ナイスキャッチ!!



 である。よかったね。

 ……なんとかルンが聖剣エクスカリバーを手に持った。ああ良かった。

「リ……リヴァイア!! とっと ーーと、これをどうしろと??」

 手に聖剣エクスカリバーを持ったルンは、当然のこと戸惑った。


「んもーって!! リヴァイアーーッ」

 たまらず、レイスも発狂して、

「……私の仕事は、ここまでだぞ」

 リヴァイアが呟く。……そして、静かに眼を閉じて……しまった。

「リヴァイアって!!」

 レイスが空中で身体の姿勢をなんとか留め置こうとしながら、叫ぶ――



 ――我が最愛の妹のレイス姫


 そして、求婚の相手の子孫のルン王子――



 末永く……

 どうか末永く……



 レイスのしるし

 ルンの王冠

 聖剣エクスカリバー



 ――三種の神器、一層と輝いて、

「わわ……ちょ、リヴァイアって」

「おいって! リヴァイアってば」

 2人、白い光に輝き、包まれて―― 包まれて――



 包まれて――


 ――――


 ――




「……王子。いけませんよ」

「……イレーヌ?」

「王子、言いましたよね? この地下へは、来てはダメですって」

 サロニアム城の地下――聖剣エクスカリバーが封印されていた……という部屋。

 イレーヌがカギを盗んで忍び込んで、……確かめようとした部屋。


「……そうかな?」

「はい! 言いましたよ。しっかり (#^.^#)」

 ……ああ、イレーヌ。上級メイドのイレーヌだ。

「ね……、いけません」

「……うん。分かったよ」

 ルン王子、コクリと頷いた。


「ねぇ、イレーヌ?」

「はい。なんでしょう??」

「どうして、僕はここには来てはいけないのかな?」

 ルン王子は疑問に思ったことを、上級メイドのイレーヌに素直に尋ねた。

「……ふふっ。はははっ」

 と、イレーヌがお腹を抱えながら笑って――

「王子は、まだお若いですよね?」

「……うん」

 コクリと頷いた若きルン――王子。

「ですから……まあ」

「まあ?」

 ルン王子、首を傾げる。


「――まあ、いずれ大きくなったら、ルン王子も理解できますよ」

「何が? イレーヌ」

「ふふっ……」

 上級メイドのイレーヌが、思わず右手を口に当てて笑った。


「……失礼。ふふっ、ルン王子!」

「どういうこと? イレーヌ??」

 ルン王子が上級メイドのイレーヌに、


「……最愛だった相手に恋をして、だから求婚をして。それでも、上手くいかなかった」

「いかなかった……??」



 サロニアムの伝説―― リヴァイアとサロニアム王との恋煩い。

 所詮は身分の違う恋だった。始めから恋破れることは分かりきっていた。

 彼女は、リヴァイアは……それでも自分の思いを届けようと、サロニアムに聖剣エクスカリバーを残して旅立った……という物語。



「まあ、虚構の作り話だったのですけれどね……」



 ですけれどね――


 ――――


 ――




「パパン……。あの?」

「なんだ? レイス」

「その……私、今日はこれしか……」

 レイスが手に持っているそれは、


『ドラゴンフルーツ』


「……そうか」

「パパン。……その、ごめんなさい」

「どうして、レイスが……謝るんだ?」


「……その、もっとお肉とかお魚とか、栄養価の高い者を私ちゃんと盗めなきゃって」

 レイスは、もじもじと……


 パパン――レイスの育ての父親は、それを見るなり、

 また、ギーコギーコと手元の臼をついて……それに何やら草をまぶしては、またギーコギーコと臼をついている。


「……パパン。 その……私、ドラゴンフルーツを……」

「……ああ、分かっているよ」

「私、今日は……これだけしか盗めなくて……」


「それが何だっていうんだ?」

 パパンが臼の手を止めてから、

「また……、明日から気位を高くもって、堂々と上手く、今度こそかっぱらってくりゃいいだけだろ?」

「……パパン」

 レイスはコクリ……首を縦に何度も振る。

「……俺達スラムの最下層に住む者にとって、今までも……これからもずっとこういう“手を汚す仕事“の繰り返しなんだから。逆に高級な物をかっぱらえなかったレイス……、お前の方が正しいんだからな……」


「……私が正しい……の?」

「ああ、正しいんだぞ!」

 パパンは、レイスがかっぱらってきたドラゴンフルーツを、また一目見て――

 見るなり、目の前に立ち尽くすばかりの怯えているレイスの頭をササっと撫でるなり、それからすぐに自分の作業を、臼を研ぎ続けたのだった――


 そして、でも――


「……ははっ。レイス。良くやったな (#^.^#)」

 ギーコギーコの手を停めてから、しばらく振り向き、パパンが笑ってくれた。

(めずらしくである)

 レイスは――その一瞬パパンに、今日もこれしかかっぱらって……と怒られると思って、すごく肩に力が入って緊張していたけれど。

 なんだか肩すかしな感じで……


「あ……ありがとう。……パパン」

 もう一度、深く頭を下げたレイスであった。




 ルン王子――

 レイス姫――


「あ……ありがとう」

「ありがとう……」

 と――




       *




 ヴワワワーーーーーン!! ブオーーーーー!!!



「ああ、レイスさん」

「……ああ、ルン王子」

 アリアとイレーヌが見上げ、そう言って声を掛けた。

 でも、その声は究極魔法レイスマの発動中である2人には、到底聞こえることはない。


 玉座の間――


 その天井スレスレに、

 レイスとルン、頭上に高く現れたのは、



 ダークバハムート――



 である。


 ――刹那に。


「ダークバハムートよ!!」

 ……と、天高く言い放つのは聖剣士リヴァイアである。

「……ン?」

 それに気が付いたダークバハムートは目下を見て、

ハ、ナンゾ?」

 ダークバハムートが見下げた視線の先には――

「私は、お前と共に1000年を生きた聖剣士リヴァイアである」


「――ショウチ。何ヲ、ワレニ望ムノカ?」

 大きく肉付きのいい翼をはためかせながらの、ダークバハムート。


「……ダークバハムートよ! 私の聖剣士の称号を、私は捨てる……」


「捨テル……?」


「……そうだ、端的に言わせてもらう!!」


「リヴァイア……ワレ、オ前ト共ニ1000年ヲ生キテキタ。ワレ、オ前ノコトヲ……ズット仲間トシテ今マデ……ズット」

「……それは、至極承知であるぞ!」

 聖剣士――否、今はただのリヴァイアは言った。

「我、最後の力で、お前を幼少期にまで戻すから――」

 リヴァイアは両手をダークバハムートに広げて言い放つ!


「リヴァイア――其ノことわりハ、ナンゾ? ワレハ、オ前ノ望ミヲ、ショウチスル……其ノ真意ハ、ナンゾ??」

 翼を大きく羽ばたかせるダークバハムート――

 その勢いで、一瞬リヴァイアが身を屈めて防ごうとする。

「答エヨ……。理ハ、ナンゾヤ……」


「……ダークバハムートよ。命を……お前も……、新しい命を共に」

「トモニ――リヴァイアト?」

 ダークバハムートがリヴァイアに聞く。

「違う! 我が最愛の妹――レイスとルン王子の――混血の聖剣ブラッドソード――を。……2人を、レイス姫とルン王子を見守ってはくれまいか?」

 両手をダークバハムートにかざしたままで、リヴァイアは自身の胸に秘めていた本当の気持ちを……思い願いを伝える。


 羽ばたかせながら、天井高くで飛空を保っているダークバハムート。

「ナラバ、其ハ……リヴァイア、オ前ハ命ヲハテル気カ?」

 ハテル……果てる。つまり死を迎えるという意味である。


「否! それは違う!!」

 たまらず、リヴァイアが――

「お前も私と同じ思いだろう。オメガオーディンは私には永遠に倒せない。封印することしかできない。ならば――」

「――アア。赤子ノゴトク。還元スルコトデシカ、我ラノ困難ハ、ノリコエラレン。ソレヲ――変エタイガタメニカ?」

「ああ、そうだ……。御名答だ!」



 じゃあ、一緒に!!!!!


 リヴァイアが叫んだ!!



「アア――リヴァイア。其、ヨウヤクカ? オ前ハ、タダノイッカイノ人間トシテ」


「ああ! これで……、私も、ただの人間に、お役目おしまいだな」


 ふふっ……


 リヴァイアが笑った。

 その笑みは、女性らしい――かわいい微笑みで、でも、物憂げな表情にも見えて、それから何かからか、吹っ切れた気持ちの時の、リラックスできた時の表情にも見えた。


 総じて――、リヴァイアはしてやったりな気持ちだった。


「オメガオーディンよ……、一足遅かったな」

 リヴァイアは勝ち誇った気持ちを、一心に発する――

「サロニアム城に来なかったお前は、愚かだった。こうして戴冠も聖剣も無事に、彼に与えることができて、この世界を彷徨う悪の権化であるオメガオーディン……お前と。何がなんでも……お前との私と、まったく……。と言っていいのかものなぁ……。兄妹の血というものは争えないとな!!」



「混血の聖剣ブラッドソードの誕生だぞ!!」



 聖剣士――違う。今はただのリヴァイアが、叫んだ!!



「我が命を掛けた行いは、これで報われたな。レイス姫とルン王子よ、君達にこれからは全てをゆだねる……ゆだねる聖剣士リヴァイアと名乗った我を、どうか許してくれないか……」

 リヴァイア――1000年という悪夢を生きてきた悲運の女性、聖剣士リヴァイアの共通する願いと思いが、今ここに叶ったのだった。




第四章 終わり


運命編終わり。郷愁編に続く――

この物語は、フィクションです。

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【第一幕 運命編】聖剣士リヴァイア物語 ~ リヴァイア・レ・クリスタリア ~ 橙ともん @daidaitomon

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