第22.5話 私と恋敵と乙女の秘密

 あれ?私は何してるんだろう?


「りっくんに最初にあーんするのは私なの!他の誰ともしちゃダメなの!!!」

 こんなこと今更言ってもどうにもならないのに。


 りっくんと愛利ちゃんを囲う人集ひとだかりを分けへだて、二人の間に私は泣きそうになりながら立つ。


 今更、りっくんに合わせる顔なんてないはずなのに……。

 それなのに、気づけば足が勝手にりっくんの方へと向かっていた。

 だが、

「……どうして?琴里ちゃんは姉貴の……」

 りっくんは信じられない、といった拒絶具合で、まるで意図的とも言えるくらいに私の方を見ようとしない。


 分かっていた。

 りっくんがこういう反応するのなんて、今朝の事を見られちゃったことから、分かっていたはずなのに……やっぱり辛かった。


 どうしてこうなっちゃったんだろう。


 ヴヴヴ……。


 ヴヴヴ、ヴヴヴ……。


 先程から、右ポケットのスマホのバイブレーションが止まらない。きっと電話なのだろう。しかも間違えなく、相手はお母さんかお父さんだろう。

 けれど私は、それに手をかけることはしなかった。

 今は……この場に留まりたかった。電話に出てしまえば、ここにはいれなくなってしまうから……。


 しかし、何度も何度も切れてはまた鳴って、切れてはまた鳴ってを繰り返すスマホに近くにいる人が気づかないはずもなく

「あの……スマホ、鳴ってませんか?出なくていいんですか?」

 ちょんちょんと、愛利ちゃんが肩を軽くつつきながら私に電話に出ないのかと聞いてきた。

「大丈夫。いつものだから」

 私はそう言って、今できる精一杯の笑顔で返した。

「ま、まぁ櫛形先輩がいいならいいんですけど……」

「ええ、教えてくれてありがとうね」

 難色を示しながらも、引き下がる愛利ちゃんに私は感謝した。

 そういったやり取りをしていると、いつの間にバイブレーションが収まっていた。


 愛利ちゃんが深く聞いてこなくて、本当に助かった。

 私はホッと一時の休息に胸をなで下ろす。

 どうせ、電話に出ようが出まいが結果は変わらないのだから。

 どうせ、家に帰れば自分の両親に怒られるのだから……。



 そんなことを考えていると

「ところでさっきから気になってたんですけど、陸斗先輩と琴里先輩って何かあったんですか?」

 りっくんと美海さんがいがみ合いを始めた事で実質的に弾き出された愛利ちゃんが、再び私に話しかけてきた。

「……どうしてそう思うの?」

 聞かれることは何となく予想はできているが、万が一のこともある。それを見越して、私は理由を聞いてみることにした。

「どうしても何も、今の陸斗先輩の様子普通じゃないですもん!!!」

 頭を抱え、今も尚、私を見ずないように俯いているりっくんを指差しながら愛利ちゃんは私に強く言い放つ。

 じっと、私を下から見つめる彼女の目はとても頼もしくそしてそれに恐怖感を覚えた。


 有り体にいえば……この子もりっくんの事が好きなんだろうとすぐに分かった。

 そんな彼女の瞳の強さにすっかり魅了された私はあっさりと口を割ることにした。

「そうね……。簡単に言えば、私とりっくんはもう恋人同士じゃないってことよ。別れを切り出したのは私だし、りっくんには何の非は無いわ」

「……理由を聞いても?」

「私の心が満たされきれなかったのよ……。りっくんといくらデートしても、りっくんといくらキスをしても……ね」

「…………」

 愛利は静かに、黙って琴里の話を聞く。否定も肯定もしない。

 それがかえって今の私には心地よく、そのまま話を続けた。

「そう思ってたある日、初めてりっくん以外の人とキスをして私思ったの」

「……その人のことが好きってことをですか?」

 口を出さずには居られなくなったのだろうか、愛利ちゃんが問いてくる。

「いえ、違うわ」

「では、なんて思ったんですか?」

 余程気になることなのだろう、問われた内容を否定した私に対して、愛利ちゃんは食い下がって質問をしてきた。

 私はそれに真正面から真摯に向き合って答える。

「もっと、りっくんに愛されたいって思ったわ」

 とても、素直な答えを。

「……えっ?なのに別れたんですか?先輩から愛されたいって思ってるのに!?」

 信じられない!と言わんばかりに愛利ちゃんが驚く。


 私の考えが誰かに理解されるものでは無いのだと前々からわかっていたので、愛利ちゃんの反応は想定内だった。

 むしろいい機会だったのかもしれない。

 美海さん以外に私のりっくんへの気持ちを吐き出すことが出来るのだから。

 そう決めた私は、りっくんが未だに塞ぎ込んでしまっているのを確認して

「だからこそよ。りっくんから……愛されたいの。りっくんからキスして欲しいし、りっくんから積極的にボディタッチされたいの!その為には今のままじゃダメなの!」

 、気持ちを言葉にした。

「それで……別れたんです、か……」

 何を言ってるんだこの人、とでも思われてるのだろうか。それでもいい。

「そうよ。……りっくんのことを嫌いになった訳じゃないわ、むしろ愛してるの」

「何が何だか……」

 私が、まだりっくんを求めていることを恋敵である愛利ちゃんに伝えられたことに意味があるのだから。



 思いを吐き出し終わり、このまま沈黙するかと思っていると愛利ちゃんが思い出したかのように私に質問してきた。

「そう言えば、先輩以外と初めてキスした人って結局誰なんですか……?」

「えっ?美海さんだけど?」

「えぇ……」

 愛利ちゃんは今までで1番の困り顔を見せたのだった。


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大好きな幼馴染彼女を姉貴に奪われました。 こばや @588skb

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