第22話 混じり合う憎悪と疑念

「えっ……琴里ちゃん……?」

 突然目の前に現れた元恋人の名前を恐る恐る声に出す陸斗。


 そんな陸斗の様子が視界に入っていないのか、琴里は周りの目を気にする様子もなくかなり興奮気味に自己主張をする。

「りっくんに最初にあーんするのは私なの!他の誰ともしちゃダメなの!!!」

「えっ、先輩たちってまだしてなかったんですか?てっきりしてるものだと」

 普段から学校でイチャイチャしていた陸斗と琴里が未だに未経験だったことに驚きを隠せない愛利。

 だったのだが、

「……って先輩どうしたんですか?」

「……どうして?琴里ちゃんは姉貴の……」

 真正面に座る陸斗の様子がおかしいことにすぐさま気づき、愛利は自分の席を立ち陸斗の側へと駆け寄った。

「もしもし?先輩?おーい?」

 陸斗の目の前で愛利は手を振るが、陸斗はブツブツと呟き愛利の手をまるで気にも止めていないようだった。


「そろそろ頃合いね。私は先に行くわね、友徳くん」

「えっ、あっちょ……っ!美海先輩!」

 遠目から見ているだけだった美海だったが、遠目からでもわかるくらいの陸斗の異変に我慢できず友徳を置いて3人の元へと飛び出した。


「あっ、美海先輩。こんにちは」

 陸斗、それに琴里と美海の3人の状況を知らない愛利は、ひょこっと現れた美海に軽く挨拶をした。

「せっかくの陸斗との邪魔しちゃってごめんね〜」

「い、いえそれは構わないんですけど……」

 チラッと愛利が美海から目を逸らした先には

「姉貴……!」

「美海先輩へのいような嫌いよう、ただ事じゃない気が」

 今にも怒りが爆発しそうな陸斗の姿があった。

「それの説明はちょっと待ってね」

 そう言いながら愛利と陸斗の間にずいっと入る。

 その圧力に押された愛利は

「あっ、はい……」

 それだけ言って引き下がるのだった。



 そして半日ぶりに対面する鷹峰姉弟。

 相も変わらず怒りが爆発しそうな陸斗に向けて、美海は口を開き言葉を出した。

「ねぇ、陸斗。そんな怖い目で睨まないでよ。少なくとも今は虐めるつもりもないんだから」

「……本当だろうな?」

「信用ないわね〜。まぁそりゃそうよねぇ、日頃の行いってやつか」

 美海の言葉に疑心暗鬼な陸斗と、その理由を自明する美海。

 仲は険悪だが、やはり姉弟と言った具合に話は噛み合う2人。


「日頃の行いかって?そうだよ!きっと、今だって心の中でこの状況ほくそ笑んでるんだろ!?」

 今にも掴みかかりそうな勢いで陸斗は美海に気持ちを爆発させる。

 しかし、その言葉に美海は首を横に振る。

「それがね、ちょーっと違うんだよね」

「……どう違うのさ」

 普段は喜々として自分の嫌がることをする姉が、今回は違うと言ったことに動揺する陸斗。

 そんな陸斗を見つめながら美海は左人差し指をピンと天井に向けて垂直方向に立てる。そして、すぐさまこんなことを言い出すのだった。

「実はね、さっきまで友徳くんと一緒に愛利ちゃんとのデートつけてたのよね〜」

「はい!?」

 美海や友徳が後ろをつけていたことなんて知る由もなかった陸斗はそれはそれは大きな声を出し、驚いていた。

 すぐさま、キョロキョロと親友の存在を確認しようと辺りを見渡したが特にそれっぽい姿がなかったことに、これまた驚く。

 そんな陸斗の様子を他所に今度は愛利を見る美海。

「そんでもって、愛利ちゃん」

「は、はい!!」

 突然名指しされた愛利は飛び跳ねる勢いで驚く。

 愛利の反応に微笑みながら、美海は言葉を続けた。

「気づいてたでしょ?私たちが後ろにいるって」

「……まぁ、はい」

「愛利ちゃん、後ろに姉貴がいた事知ってたの!?」

「邪魔してこないなら別にいいかなぁって思って先輩には黙ってました。すいません」

 これまで見た事のない陸斗の動揺具合に、愛利は戸惑いながらも知らせなかったことに対して、頭を軽く提げながら謝る。


 けれど、陸斗にとってはいっぱいいっぱいであった。


 長年の恋が成就し恋人同士へとなった幼馴染から突然別れを告げられた挙句に、その幼馴染が自分の姉と新たに恋人関係になったことを知った昨日。

 その幼馴染と自分の姉が、自宅のリビングで早朝6時にも関わらずイチャイチャしていたのを目撃した今朝。


 そして、つい先程までコソコソと裏で何かが行われたことを知った今である。

「もう、誰を信じればいいんだよ……!!」

 短時間で悲劇が連発しているのだから、誰も信じられなくなってもおかしくないだろう。


 ポロポロととめどなく陸斗の瞳から涙がこぼれ落ちていく。




「…………どうしよう、出るタイミング逃したかも」

 そんな様子を友徳はただ遠くから見ていることしか出来なかったのだった。

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