第21話 積極的暴走妹と消極的沈黙弟とそれを見守る兄と姉
琴里が4人の姿を遠目から見ていた事を、当の本人たちは知るはずもなく、陸斗と愛利はデートをし美海と友徳はその2人を引き続き見守っていた。
のだったが、
「ねぇ、友徳くん」
「なんでしょうか、美海先輩」
「私たち今何を見せられてるんだろうね」
2人は何やら若干やつれている様子。
その理由は言うまでもなく今2人の目の前で繰り広げられていることなのだろうが
「それ、俺が聞きたいです」
「だよねぇ……」
「はい……」
どうやら2人は考えるのを諦めたようだった。
そんな美海と友徳が何を今見ているのかと言うと
「それじゃあ先輩、あーん」
「いやカレーくらい1人で食べれるから!」
「恥ずかしがらないで大丈夫ですから〜」
人が大勢見ている中であーんしようとする愛利と、それを頑なに拒否しようとする陸斗、見るからにイチャイチャムードの光景だった。
自分たちの妹と弟がイチャイチャを繰り広げていたら、何かしら心にクるものがあるのかもしれない。
とは言え、
「今は私と一緒にいるんですよ?」
「確かにそうだね」
「だからあーん、しましょ?」
「ごめん、そこがどうしても分からない」
先程から愛利の暴走を見逃しているのは如何なものかと思ってしまう。
そして、残念なことにこのやり取りが何度も繰り返されているということだ。
訂正。
美海と友徳が愛利の暴走を止めるのを諦めても仕方ないだろう。
愛利の執念深さが相当なものであることを、この場にいる3人が今回のことでわかったようであった。
先程のやり取りが数回繰り返されると、愛利は別のアプローチを仕掛けるようにしたようで
「いいですか、先輩」
と、陸斗に突然問いかけた。
「うん?」
何だろう、と思い愛利の言葉に反応する陸斗。
すると、愛利はずいっと陸斗に顔を近づけ、愛利節を語り出す。
「デートっていうのは共同してこそ楽しいんですよ」
「うん」
愛利の独特な価値観に、陸斗はただただ相槌を打つ。
恐らく愛利の発言の邪魔をしないような反応をしているのかもしれないが、それにより愛利は気分良く語り続ける。
「先輩はさっき、私が楽しそうにしているのが自分の楽しみだって言いましたよね?」
「確かに言ったね」
なぜ突然そんなことを、と思いながら陸斗は問われたことをそのまま答える。
そしてこの陸斗からの反応は、愛利にとって好都合な反応であったようで
「それじゃあ私も、楽しみを主張してもいいですよね?」
これ以上ない笑顔で陸斗に宣言する。
陸斗に、私も楽しみを主張してもいいですか?、と聞くのではなく宣言する愛利。
「その主張っていうのが、“ あーん”だと?」
陸斗は額に汗を浮かべながら、愛利に聞く。
すぐさま愛利は大きく首を縦に振った。
「そういうわけです!だいぶ分かってきましたね!」
「うーん……なんか色々と引っかかるところがあるけど」
そう言って、どうにかして愛利からのあーんを避けた気な陸斗なのだが、もう既に逃げ場を失っているのである。
陸斗と愛利のやり取りを見ていた人達が
「頑張れ少年!勇気を出すんだ!」
「もう一押しよ!彼の心を射止めるまで後ちょっとよ!!」
と口々に応援することになってしまっている始末。
そんな状態に陸斗はウンザリし、愛利は張り切るのであった。
「というわけで、早くお口開けて私からの熱々のものを受け取ってください!」
「……カレーのことだよね?」
「もちろん、カレーですよ?何だと思ったんですか?」
「うっ……」
いよいよ、愛利の暴走が変な方向へと走り始めたその時……銀髪の少女が2人の間へと割って入った。
「……そろそろ止めに行かない?」
「……そうですね。だいぶ愛利が調子乗り始めてるし」
やや離れた場所から見ていた美海と友徳の2人は愛利の異変に気づいたようで、人集りを作っている2人の元へと向かおうとしたその時だった。
「りっくんの初めてのアーンを奪っちゃダメーー!」
泣きそうな顔で陸斗と愛利の間に立つ琴里の姿があった。
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