第20話 今はもう手が届かぬ“彼”を見つめる彼女


 大量の包帯が入ったビニール袋を引っ提げた少女、もとい、櫛形くしがた 琴里は目の前の光景に困惑していた。


 手前に見えるのは同級生の友徳と琴里の現在の恋人(?)の美海。

 そしてその奥には友徳の妹の愛利と、美海の弟で琴里の元恋人の陸斗が腕を組みながら歩いてる姿があった。

「なんでりっくんが愛利ちゃんとデートしてるの……?なんで、美海ちゃんは西沢くんと一緒に2人を見てるだけなの……?」

 そう言って、琴里は気持ちを抑える為か左手で長袖に隠れた右手首をギュッと握る。

 友徳はともかく美海が陸斗と愛利の2人に対して特に行動を起こそうとしていないことに琴里は戸惑いを隠せなかったようだ。

「一体、美海さんなんのつもりで……!」

 と気を高めていたが、すぐさまそれを鎮める琴里。

「って、私が言っても仕方ないよね。もう、りっくんとは彼氏彼女じゃないんだし……」

 瞳に映る元恋人が楽しそうに愛利とデートしている様子を見て、今の自分の立場を突きつけられたようだった。


 今の琴里には陸斗のそばにいる場所は無い。そう彼女に突きつけられた。

 はずだったのだが……

「なのに、なんで私4人の後をついて行ってるんだろう。お母さんたちが帰ってくる前に、家にいないといけないのに……」

 どう言ったわけか、琴里は4人から距離を保ったまま見守ることにしたのだった。



 新たに後ろをつける人が増えた事を知らない陸斗と愛利はと言えば、アクセサリー選びに夢中であった。

「先輩は赤と青、どっちが好きですか?」

 そう言って愛利は赤と青、それぞれの色の装飾品がついた小洒落たブレスレットを陸斗へと見せた。

 すると陸斗は悩むことなくすぐさま答えた。

「こっちの赤かな」

「なるほど、赤の方が好きと……」

「それがどうしたの?」

 陸斗はうんうんと頷く愛利を不思議に思ったのか、質問した。

 すると、愛利は選ばれなかった青色のブレスレットを棚に戻し、赤色のは店のカゴに入れながら質問に答える。

「んー、そうですねぇ。先輩って自分から好みだったり言わないじゃないですか」

「そりゃまぁ、聞かれないと言わないけどさ」

 陸斗からしてみれば、聞かれたことには答えるけど聞かれなかったら答えない。そう言った感覚なのだろう。

 陸斗が自ら動くことは恋愛やデートにおいては無いのかもしれない。

 それを愛利は先程のやりたいことは無いのか、と言うやり取りで気付いたのだろう。

 むしろ、愛利にとっては好都合だったのかもしれない。

「なので、この機会に先輩の好みをとことん把握しちゃおうかなぁって」

「別に今じゃなくたって、いつでも教えるのに」

「今がいいんです!誰にも邪魔されない今が!」

 誰も知らない陸斗の一面を愛利だけが知れるチャンスかもしれないのだから。


 そんな愛利の押せ押せムードに気圧された陸斗は

「そ、そう?それなら……どんどん聞いていい、よ?」

 若干歯切れは悪かったが、それでも愛利からのアタックを拒絶することは無かった。

「言いましたからね?後悔しても知りませんから!」

 そう言って、愛利は絡ませてる腕をさらに密着させた。





 そして、そんな2人のやり取りを遠目から見ていた琴里は

「…………こんな遠目でもりっくんの楽しそうな顔見れてよかった」

 とても満足気に、それでいて寂しげな表情をして後ろを振り返ると、そのままその場から離れていくのであった。

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