宇宙0キロメートル

水無月 零夜。

第1話

《出会い》


「転校生を紹介しまーす。」

教室中がガヤガヤしている。

この学校に転校生がくるなんて、珍しい。

私、陽月星七ひづきせいなは、ごく、ふつーの田舎の高校に通っている。本当に、ふつー。ただ、自慢出来ることがあれば、星が見える。とても綺麗にね。というか、それぐらいしかない。だとしても、私は星を眺めるのが好きだ。ここでしか見れない星を、まるで独り占めするように。それで、こんな田舎に転校生とは、一体どこの誰なんだろうか。すると、教室に1人の男の子が入ってきた。入ってきた途端、あるものが目に映ってそのまま離れなかった。多分、クラス全員共通だと思う。クラス中に広がっていたガヤガヤは、「え?」という声に変わった。少し静かになったかもしれない。入ってきた男の子は、赤髪だった。いや、元々なのかもしれない、その可能性もある、うん。と自分の中で決めつけて、次の情報を耳に入れる準備をする。「それでは、名前をお願いします。」

「……冬崎とうざき」1番後ろの席の私が耳を凝らしてやっと聞き取れるほどの小さい声だった。

「……えっと……名前も……」

「……いわない」

「……え…」先生が困り果てている。

「……言いたくないです、もう座ってもいいですか」

「少し、自己紹介してもらってもいいかな…」

「……趣味は、星を見ること…よろしく」

と言うと冬崎は、私の左の空いている席に向かって歩いてきた。……だから転校してきたのかな…などとあまり無さそうな理由を考えながら、私はチラチラと歩いてくる彼の顔を見た。前髪で左目が少し隠れ気味になっている。しかし、もっと気になることがある。彼はどうして名前を言わなかったのか。そんなに変な名前なのか、キラキラネームというやつなのか。どっちにせよ、私は彼の名前が気になる。休み時間になったら聞いてみよう。


〜 休み時間 〜


1人でずっと外を眺めている彼に、名前を聞いてみることにした。「ねぇ、冬崎くん」すると、ゆっくりとこちらに目を向けてきた。目で「何?」と訴えかけていた。「…なんでさっき名前言わなかったの?」「……別に、言わなくてもいいだろ、んなこと……」「でも気になるんだもん……教えて?」「何度頼まれてもその願いは聞けねぇな」「…じゃあなんて呼んだらいいの?」「名字でいいだろ、いちいち名前で呼ばなくても……」彼は私から目を逸らしてしまった。私のクラスは、みんな仲がいい。男子も女子も関係なく、みんな名前で呼んでいる。そんな中1人だけ名字で呼ぶのも、仲間外れにしているようで、私にとっては嫌だった。「…んーでも、名前で呼ばせてよ!私仲良くなりたい!」すると背後から声がした。

「俺らにも教えて〜」

そこに居たのは、私が1番仲良くしている男子4人組だった。左から、野影真碧のかげまお遅基晩夏ちもとばんか雷桜純希らいおうじゅんき帆風志遠ほかぜしおんだ。「……集まりすぎ……暑苦しい……」「おいおい、教えてくれたっていいじゃねぇかよぉ……面白くねぇな」と純希が呆れたように言う。「そんなこと言っちゃダメだよ、この子にも言いたくない事情があるんだろうし」と晩夏がフォローに入る。「…俺はそこまで言わないなら興味ないかな……」と真碧が言う。「ふふ、僕は友達になりたいな、ね、名前教えちゃってもいいんだよ?」と志遠が尋ねる。「……めんどいのに絡まれた……」と冬崎は頭を搔いている。「ごめんねぇ、いっつもこのテンションだから」私は4人をなんとか追い払って、冬崎をあまり怒らせないようにしようと決めた。「あ、そういえば」と私は思い出したように言う。「冬崎くん、星見るの好きなんだよね?」彼は無反応だった。「私も星見るの好きなの!」「ふーん」

「ねぇ、良かったらうちの天文部に入らない?」

「……やだ」

「なんで?」

「…俺は一人で見るのが好きだから」

「……えぇ、みんなで見るのも楽しいよ?」

「………」


この時の私はまだ知らなかった。

これが一生に一度の、最高の出会いだったということを。

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宇宙0キロメートル 水無月 零夜。 @Ray_MRN

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