始まりは、生まれて間もない仔猫達との出会いです。
物語を引っ張るのは薬膳カフェを営む虹子さんと、何やら訳ありのドクター青磁さん。
ああ、仔猫さん達を中心に温かな恋愛ドラマが……
ニャンニャン、違うのです。
主人公の虹子さんは、人の顔色を見るだけで体の不調をピタリと当てる。
重きを置くのは食で、恋や愛にはちょっと疎い。
彼女に想いを寄せる男達の気持ちをよそに、今日も虹子さんは中華鍋を振る。
物語は日本に留まらず舞台を世界に移し、脇を固める人達の挫折や成功は、まるでサスペンスドラマです。虹子さんもそうですが、読み進めると不思議な人達が魅力的に見えてしまう。
そして彼女を愛するがゆえ、重い感情を持て余す男、青磁さんの行動に
「おいおい」と心配になったり、笑ったり、ドキドキしたり。
飽きさせない展開に、読まれた方はきっと満足をするでしょう。
作者さまの筆致が心地よく、ラストに向けて、にっこりしてしまう素敵な作品です。
皆様の時間を無駄にはさせません。ぜひご一読を!
捨てられた仔猫たち──この子たちをどうするか、そこから話が始まります。
しかしまさか、そこから薬膳カフェとか、お医者さんとか、香港とか、大金持ちとか、計算高いお嬢さまとか、そんなてんこ盛りな、それでいて滋味あふれる物語になるとは、思いもよりませんでした。
てんこ盛り、そうてんこ盛りです(褒め言葉)。
でも、それでいて、それらの味の中核をなす、二人──虹子と青磁が、実にいい味を出しています。
そしてその味が、最後には熟成というか醸成されて……ぜひ、最後までご覧くださいとしか言えません。
とても、幸せな気分になれること、受け合いですよ!
ぜひ、ご一読を。
こんなお店があったら、通ってしまうなー
ヒロインの虹子(にじこ)さんが切り盛りする薬膳カフェのことです
お客さんの体調に応じた食べ物、飲み物を提供してくれ、いろんなアドバイスまで
「こちらを見てくれる」って、嬉しいことですよね
ところが、この虹子さん、自分の気持ちや立ち位置なんかに関しては、てんでポンコツ(失礼!)で、見えてない
彼氏との関係も、なかなかうまくつかめないし、運べない
そこが、愛しいじゃありませんか
そんな虹子さんが、一生懸命、自分と向き合って、そうして出した結論とは――?
食べることは、生きること
生きることは、愛すること
そう、愛は「する」もの
愛「される」だけじゃ、足りないんです
愛の重〜い彼氏と、天然彼女の、恋の顛末
キャラクターたちが、個性的で、元気をもらえます
ぜひご一読ください
かわいいネコも出てきますよ🐾
「仔猫のスープ」は、捨て猫の兄弟を保護したことから始まる日常群像劇です。主人公・高階湊人が、仔猫“スープ”と“タンタン”を通じて、カフェ「金蘭軒」の店主・虹子や医師の青磁、その妹の柚雁らと出会い、人間関係の輪が広がっていきます。
本作の最大の魅力は、徹底して“日常”と“人の温かさ”を描くスタイルにあります。特別な事件や劇的な展開に頼ることなく、仔猫たちの成長や、登場人物それぞれの小さな悩みや幸せ、さりげない助け合いが物語の核を成しています。
特にカフェを拠点とした人間模様は、猫好きはもちろん、孤独や不安を抱える現代人の心にも静かに寄り添う優しさがあります。
物語が進むごとに、みなと自身や周囲のキャラクターの過去や葛藤も丁寧に掘り下げられていきます。カフェに集う個性豊かな人々――例えばノアや真楼、千胡莉など新しい登場人物が増えていくことで、話は決して単調にはならず、むしろコミュニティの“多様性”と“広がり”を実感させます。
また、外国から来たノアの視点や、季節ごとのイベント(クリスマスや年末年始など)も挟み込み、作品全体に“今を生きる現実感”と“時の流れ”を感じさせてくれます。
一方で、事件性やドラマ性を期待する読者にはやや物足りなさを感じる部分もあるかもしれません。しかしこの作品は、意図的に「大きな事件」を避けて、日々の営みや小さなすれ違い、和解と成長を積み重ねていくことで、「本当の温かさ」や「家族・仲間の大切さ」を浮き彫りにしています。
特にラストに向かって、離れ離れや新たな旅立ちといった“別れ”が描かれつつも、変わらない日常の尊さが静かに語られるくだりは、ほろ苦さと安らぎの両方を感じさせ、読後感はきわめて良質です。
文章自体は派手さはありませんが、描写が端正で、会話も自然。動物や人間の描写が一面的にならず、細やかでリアルなのも大きな長所です。猫が物語の中心にいながら、決して“猫好きだけ”に向けた作品には留まらず、「人が人を支える」ことの本質に優しく迫った物語と言えるでしょう。
総評
“事件がなくてもドラマは生まれる”という作家の信念が伝わってくる、心温まる連作短編集。
読者の日常にもそっと寄り添い、日々のささやかな幸せを見直したくなる一冊です。
温かい気持ちになりたいとき、優しい人間関係の物語を読みたいときにおすすめします。