海中学園物語

オルカ

第1話 行ってきまーす

 朝が来た、ようだ。カーテンからうっすらと光が差し込み、ルカは目が覚めた。目覚まし時計が鳴るよりも早く起きられたので、気分が良かった。ベッドから立ち上がったルカは、洗面所へ向かった。顔を洗い、歯を磨いて、髪をとかした。その後、自分の部屋へ戻り、学校の制服に着替えた。ルカは、15歳の女の子。今日も学校へ行くのだ。


 自分の部屋を出てリビングに入ると、ママが朝食を準備してくれていた。テーブルには、もうすでにパパが座って朝食を食べていた。ルカはママとパパに「おはよう」と挨拶し、パパと一緒に朝食を食べ始めた。パパとルカの朝食のメニューは、まるで違っていた。ルカの朝食は、食パンとベーコンエッグ、それにコンソメスープといった普通のメニューだが、パパの前には生魚が何キログラムか置かれていた。「置かれていた」というのは適切な表現ではないかもしれない。その魚は、パパの周りをふよふよ浮いていた。パパはそれを全部、大きな口で一気に吸いこんでしまった。朝食を食べ終わったルカは、ママとパパに「行ってきまーす」と言い、玄関を出ていった。その後ろを、「いってらっしゃーい!サメにきをつけてねー」と言って見送っているのは、大きなザトウクジラだった。ルカは、手で水をかき分けながら学校へ向かって歩いて行った。


 これは、今から何万年後かの物語である。かつて、地球上の陸地は地球の表面積の約3割を占め、海にも陸にもヒトを含め多様な生物が暮らしていた。しかし、唯一文明を持ち、最も知能の高い動物であるヒトは、地球環境に負荷をかけすぎた。装飾品や食料とするために特定の生物を乱獲し、莫大な量の化石燃料を使い、地下のみならず海底に眠る資源を掘りつくしたあげく、生物が分解する能力を超えた化学物質を作り…、地球は取り返しのつかない状態に陥った。気候は厳しくなり、世界中で気温が上昇し、天気が崩れ、毎日のように災害級の大雨が降った。南極や北極の海氷も、山岳地帯の氷河もすべて融けた。そしてついに、地球の表面はすべて海に覆われてしまったのである。

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海中学園物語 オルカ @OrcaSakamata

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