37世紀の捕虜

リペア(純文学)

本文





今宵三十七世紀。平和な時代に拾われるであろうこのボトルに願いを込めて。



人は過ちを繰り返す。現に只今太平洋を囲んでまた戦争をしている。これを見ているということは貴方はおよそ二十世紀から二十四世紀の間に生きているのだろう。このボトルを拾ってくれてありがとう。



今私は敵である▇▇▇国の捕虜となり、凄惨な粗末を受けている。足枷は常として、奴らは毎日私から情報を搾取すべく私を聴取室へ運ぶ。また、適度な餌と本を与えられ、一日三十分は自由時間がある。



残念ながら私はまだ識字できるので、収容所の酷状を書き留めるとする。



ここは三百人規模の収容所だ。これ程のキャパシティを誇る収容所を持つ国は無い。三百人も持っていたら制圧されかねないからだ。ただ、ここは統制と管理が完璧であり、昼間でも檻からは物音一つしない。



統制と管理、と言ったが貴方の時代の言葉に合わせるのであれば、“洗脳”が近い。この収容所の捕虜は洗脳されるか殺されるかの二択しか渡されない。私は虚ろ眼を向きながら何とか自我を保っているので、未だ二択には当てはまっていない。ただ、昨日は隣の方が自身の舌を噛み切ってお亡くなりになった。こうして崩壊したものから淘汰されるのである。





───たった今、聴取室から帰ってきた。今日は「お前は俺の欲求を発散するために存在するのだ。」という質問をされた。椅子に縄で縛り付けられ、膝にスタンガンを数回当てられた。私の生い立ち故、精神力には自信がある。その後のむちも精神は耐えた。そして退出時間になったらこう言うのだ。


『▇▇▇王様に、勝利があらんことを!』





───今日も何とか夜を見ることが出来た。暗いうちは、電気をつけなければ本を読むことを許される。私はいつもこの時間に『労働と生産価値』という、この国の王様の本を読んでいた。もちろん内容に納得するつもりは無かった。むしろ書いてあることが愚かで、心の内で大笑いしていた。



今日の夜はこの手紙を書き上げることに費やすとしよう。



単刀直入に問う。貴方は『生きたいと思うか』。



私が母国にいた時代に、世界史を勉強していたことがある。どうやら貴方の時代は世界平和の只中であったようで。──隣国でいざこざがあれど、お互い作り笑いをして、表面上は解決させ、あとは時間の経過で対立が風化させた。そうして平和を保ってきたのだ。──というのが貴方の時代だと勉強した。さて、今の貴方の世界はどうであろうか。



まぁ、どうであれ、三十七世紀にはこうなってしまった。もう一度言うが、人は過ちを犯す。先程、対立は風化されると述べたが、風化されることで“平和”が世界的で絶対的で不変の根底だと人は錯覚してしまうものだな…




…少し話が逸れてしまいそうなので戻すとしよう。食堂のコルク板に留まっている紙にも書いてあるが、実はここの管理者が決めたルールとして、捕虜を殺してはいけない、というものがある。捕虜を折角捕まえたのだから利用しようという考えであろう。



よって、毎日必ず食事は食べなければならない。必ず運動をしなければならない。必ず適量の睡眠時間を取らなければならない。監視カメラを用いた徹底的な管理の中、私たちは健康的に維持されている。



貴方に伝えたいことがある。私たちは今『生きている』のでは無く『生かされている』のだ。そしてこのように生命維持されられたところで、私には毎日の仕打ちが待ち構えているのだ。



かつて私には夢があった。それは、消防士になることだ。ただこの戦争の中、私の家には黄緑の三つ折の紙が届き、出兵させられてしまった。私の夢はこの愚かな国の威張り合いによって潰えてしまったのだ。



覚えておいて欲しい。この地球という破滅の星は不断の変化をする。未来はどうなるのか分からないのである。



せめて悔いの無い生き方をして欲しい。



『生きたい』と思って欲しい。



そして───




────私の代わりに生きて欲しい。






今日はもう寝るとしよう…









────▇▇き▇えたい▇▇▇きえ▇▇たいきえ▇▇たい▇きえ▇▇た▇▇▇▇ほろ▇▇▇▇▇▇▇▇▇びろ▇▇ほろび▇▇▇▇ろほろび▇▇▇ろしん▇でやるし▇▇▇んで▇▇▇▇やるしんでや▇▇▇▇▇▇───










プラスチックゴミで覆われた海岸で俺が拾ったこのビンの中に入っていた紙の裏には『おまえのじだいだ』と、血でなぞられていた。

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