第4話 肌が緑色で髪は深緑の高貴なる人間
今回はこの世界のチート人間パートです。次回が反撃パートとなります。多分。
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翌日の朝、朝霧に包まれた森のドワーフ集落の前には鉄の兜と胸当てで武装した50人程度の集団が進軍してきた。
人間は武器よりも魔法を主体とした部族らしく軽装だ。だがそれ以上に目を引いたのは
「本当に体が緑色の人間ばかりなんだな」
彼らの肌は緑色だった。兜から見える顔、手袋と服の隙間から見える姿は地球人と変わらないが、その肌の色は植物と同じだった。
肌の色が違う事に違和感を感じる事は仕方が無い。
自分が知っていることと違うものを警戒するのは原始時代から備わった人間の持つ防衛本能だ。この警戒能力が低かった原人は野生動物や現人類に駆逐され滅んだと言われている。
異質なものを警戒するのは仕方が無い。だが
「ウジ虫が如き醜い肌をもつゴブリンの同胞たち!薄汚い穴倉で暮らす蛮族たちよ!」
と肌の色が違うこの世界の人間は叫んだ。
自分と違う部分を見下したり、罵ったりするのは仕方なくない。
差別である。
あまりにも酷い言動に、俺はなぜドワーフたちが自分を人間ではないといったのか深く理解できた。
この世界の人間は、自分達とは違った生態をもつドワーフを見下していたからだ。
こちらのドワーフは25人程度。若い衆やベテランの戦士は別の集落の応援に向かっていて留守なのだと言う。
対して敵である人間の数はおよそ50人。
その殆どは皮鎧に鉄兜という武装だが、数人だけ神官の様な服を着た身分の高そうな連中がいた。
「あれが、人間の中でもやっかいな魔法使いじゃ」
警戒したようにドワーフ集落の長であるナイトロさんが言う。
身長170cmで痩せ型の体型を持つ人間たちは学者の様でドワーフに比べると貧弱そうに見えた。
力の強いドワーフなら数の不利だって覆せるかもしれない。
…そう思っていた時期が俺にもありました。
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ドワーフをウジ虫呼ばわりした皮膚が緑色の人間は『高貴な人間様に薄汚いドワーフがさわるなんてもってのほか』とか言ったのだろう。
ドワーフとの握手ひとつであそこまで喜ばれたのは、俺がドワーフを対等の存在として認め、触る事を嫌悪しなかったからだと推測するに至った。
傲慢なる侵略者の演説は続き
「我々はヒメリス@の神とアイアス@の神のお導きで、この土地に神の教えを広め無知蒙昧な貴様らに知識というものを伝道師に来た。神の慈悲に感謝し我々に降伏せよ!」
と、あくまで傲慢に言い放つ。
対等の存在と話している意識は全く感じられない。
「あれで相手が言う事を聞くと思っているのかな…」
「単なる挑発かと思ったんじゃが、どうやら奴ら本気でワシらに慈悲をかけたつもりでいるらしい」
「マジか…」
今の時点で対話は無理らしい。そう判断した。
たしかにあいつらからしたら俺は人間では無いらしい。だが、俺もあんなのを人間とは呼びたくない。
なのでここからは地球人とは異質な人間として『緑人間』という呼称で話を進めよう。
地球人とは外見が異なるこの緑人間たちはまわりの地面から2mほど掘り下げられた直径50m程の穴の中に布陣する。
昨日一日で掘り下げた突貫の穴なのだが緑人間たちは気にした風もなく前進する。
『お前たちの浅知恵で作った罠など我々には効かない』と言わんばかりに堂々と降りてきた。
足元には白く脆い石が敷き詰められ、足場を悪くしているのだが全く気にした様子はない。
こちらは2m高い位置から人間を見下ろす絶好の位置になるが、全く気にした様子はない。
まるで侵攻先に邪魔な草が生えていたので踏みつぶして歩こう程度の感覚だ。
迂回して攻め来られた場合の保険にバリケードを作っていたのが無駄になった。
先鋒がくぼ地に入り、本隊も入った。それを確認して、高さ5mはある集落入口の岩上から一人のドワーフが姿を現す。
族長であるナイトロだ。
彼は雷鳴のごとき大声で
「この地を荒らしに来た人間どもよ!今ならまだ許す!これ以上我々の土地に侵入するな!」
そういうと30kgはあろう大斧を軽々と振りかざす。
あの小柄な体のどこにそんな力があるのだろうと俺は目を丸くしたのだが緑人間たちは小馬鹿にしたように笑い、やがて爆笑に変わった。
まるで動物園の檻にいる熊でもみるように全く危険を感じていない。
これに怒ったナイトロは「ふんっ!」と声を挙げて斧を投げつけた。しかし
「シールド」
緑人間の前に障壁が現れ、岩の壁にぶつかったかのように斧ははじかれた。
「なんと!」
これに気をよくした大将らしき神官服の緑人間が言う。
「はっはーっっ!!!よくぞここまで原始的ながらもみすぼらしい要塞を作った!感動した!」
あくまでもなめくさった態度で横にいた神官服の緑人間も
「ウジ虫どもも頭を使うようになったか!奴隷として扱う幅ができたな!すばらしいぞ!ウジ虫ども!」
傲慢に言い放つ。
「だが……」
そういうと、右手が輝き出す。
何ともヤバい量のエネルギーが集まるのがみただけで分かる。
「貴様等ウジ虫どもが勝てるなどと、思い上がるのも大概にしろ!ファイア・テンペスト!」
レーザーのように凝縮された火をまとった暴風がドワーフたちの頭上をかすめ、後ろの木々をなぎ払った。
炎の通ったあとは枝一つ残らず焦げている。
おい、ちょっと待て。そういうのは転生者やる役目だろ。
俺は戦いの前にドワーフたちから聞いていた双方のスペック差を思い出していた。
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【この世界の人間と戦ったドワーフの証言】
「人間は魔術が発展していてな。我々が10人がかりでも勝てないような魔法使いがいるんじゃ。こちらの矢は風魔法で逸らされるし、斧を投げつけてもシールドとかいう魔法で防がれた」
「逆にこちらの魔法は、かき消されたな。水地火風全ての属性も発動せんかったわい。中級魔法も遠距離からの魔法も自動で消されたし、なんなら反射までされた」
「辺り一面を焼きつくしたり、一瞬で凍結する魔法まで使えたようじゃな。ワシらの魔法は水を出したり、火をつける程度のものじゃが、あれ二つくらい魔法を混ぜたものを使っておるのかもしれんなぁ。原理はわからんが」
……………チート能力を持つ相手に戦う異世界転生って、ふつう逆じゃないだろうか?責任者と一度じっくりと話したい所である。
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話には聞いていたがここまで戦力差があるとキツイ。
「クソッ!毒だ!毒を撒け!」
まるで追いつめられた悪役のように指示する俺。
その指令にドワーフたちは樽に入った液体を柄杓からすくい人間に振りまいた。だが
「そんな物が俺に効くか!」
気合いと共に炎の壁が燃え広がり、周囲の白い霧を巻き上げる。炎の熱で液体は速やかに蒸発した。
「あんな大きな
その言葉を聞いてリーダー格の男が鼻を鳴らして
「一つ勘違いしているようだが…」
と言う。あ、これ絶対聞かない方が良い奴だ。
「俺はおまえたちを奴隷として捕まえるために手加減をしてやっているのだぞ。俺が本気を出せばこんな岩、集落ごと吹き飛ばすことだって可能だ」
そういうと、『
あまりの高熱に岩がマグマ化したのだ。
「嘘だろぉ!」
あんなのをぶつけられたら、こちらはひとたまりも無い。
炎を使うならヘルハウンドと同じように水素爆発が使えるはずだ。
下手をすれば相手の手が千切れてグロ展開になるかもしれないが『暴力的な表現』にチェックは付いてある。レーディング的に許された攻撃だ。なので
「喰らえ!【スキル;分解!】水素爆鳴気!」
空気中の水素と酸素を分離し、炎があれば所構わず爆発する凶悪なスキルを発動する。だが
「【スキル;
どうやら俺みたいな低レベルの魔法はかき消されるらしい。ディスペルマジックとかの術式自体を消すような魔法があるのだろう。さらには
「【スキル;ラーニング】」
という不吉な言葉まで出てきた。
俺の目の前の分子が組み変えられて水素と酸素に変換されていくのがわかる。
これに火が付けば…
「皆、物陰に隠れろ!」
魔法使いの手から放たれた火炎弾が引火して水素爆発が起こる。
「ふむ、変わったスキルだが威力が弱い。気持ち悪い肌の者が使うスキルなどこの程度か」
爆発で粉々になったバリケードを見て、つまらなさそうに呟く。
……一目見ただけで原理を理解して真似したらしい。
ユニークスキルを模倣されて、ゴミ扱いされるとか有りえないだろう、神様!
見れるわけがないが一応相手の能力を確認すると
<【レベル差があり計測できません】
??? Lv??? ??? 状態;???
HP;????/???? MP ?????/?????
力;??? 知恵;???? 素早さ;????
攻撃力;???? 防御力;????
スキル;???? Lv?? ???? Lv?? ???? Lv??
???? Lv?? ???? Lv?? ???? Lv??
???? Lv?????? Lv??>
能力値の桁が違いすぎる。
俺のステータスと比べると差があり過ぎだろう。
<置石順 Lv11 化学者 状態;寝不足
HP;2/29 MP 0/0
力;15 知恵;235 素早さ;15 攻撃力;15 防御力;15
スキル;器用貧乏 Lv1 予知 Lv3 分解 Lv2 結合 Lv1>
ちなみにフローリンのステータスはこんな感じだ
<フローリン Lv20 天候魔法使い 状態;緊張
HP;38/38 MP 100/100
力;35 知恵;124 素早さ;37 攻撃力;21 防御力;45
スキル;天候魔法 Lv3 裁縫 Lv5 料理 Lv5 偵察 Lv2>
3桁4桁のステータスがどれだけ異常かお分かり頂けるだろう。
こんなのが4人もいるのだ。……………………これ詰んでる。
「そんな…」
見れば隣でフローリンがへたりこんでいた。
「あ…あんな化け物勝てるわけがない…」
とナイトロやほかのドワーフも言う。
これではドワーフ軍が瓦解するのも時間の問題だ。なんとかしないと。
戦意が砕かれたのが緑人間の方からも見て取れたのだろう。緑人間の長は満足そうに笑みを浮かべる。
「我々は神の使いとして神の言葉を届けるべく、このような蛮地に来たのだ。神の加護が無い低俗なるウジ虫が勝てるわけがないのは当然だろう」と自慢げに語り、この世界を作った偉大なる存在がこの世界を浄化するために(緑)人間に管理を任せた事。
そのため(緑)人間に劣るウジ虫であるドワーフは奴隷として彼らの王のために働き、一部は奴隷として本国に送って王に献上しなければならない事を『ウジ虫でも理解できるように』有りがたくも長々しく説明した。
ドワーフたちは神の使いである王の所有物だから手加減したが、これ以上抵抗するなら見せしめに5匹、みるも無残にからだを切り裂いて処刑をするとサディスティックな顔で笑いながら言った。
左手を炎で炭化するまであぶり、右手は氷魔法で黒く壊死するまで氷結させるという。体に至っては(残酷すぎるので省略します)という悪魔の所業を、解剖用のカエルの説明をするかのように語り出した。
それは脅しでは無く、単なる予定として何の感情もなく告げられた。
3分に渡る長い長い口上とパフォーマンス。こちらの戦意をくじくには十分だっただろう。
フローリンはあまりにもおぞましさにへたりこんだ。
他のドワーフも敗北を認めざるを得なかったのだろう。力なく地面に突っ伏した。
そして、それをじっくり聞いた俺は
「勝った!」
――――――勝利を確信して、そう叫んだ。
「は?」
この発言に人間?だけでなくドワーフたちまで首を傾げた。
それはそうだろう。人数でも不利なのに圧倒的な戦力差までついている。
ゲームなら完全に負けイベントであり、強者である人間の奴隷として惨めな最後を迎えるエンディングを待つだけだっただろう。
1分前までは。
だが、本当の罠が発動したのだ。どんなに強くても勝ち目のない罠が。
俺の叫びと呼応するように緑人間が一人倒れた。
小柄な体格ながら凶悪な魔法を唱えた神官服の男だ。
化け物波のステータスを持った男が気を失って倒れたのである。
「神官様!!!」
指揮官が急に倒れて助け起こそうとしゃがんだ緑人間も、同じように意識を失って倒れた。
「おのれ蛮族どもめ!いったいどんな手」を…と言おうとしたが兵士も意識が飛んだ。
「な、何が起こったんだ!」
兵士たちが困惑する。背の低いものから順番に次々と倒れていく人間軍。
さあ、これからが本番だ。
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