第2話 炸裂!『水素爆鳴気』!(混合ガスの名前です)

 前回、メガネっ娘好きが高じて少女にメガネを装着させてしまいましたが、技術レベル的に無理だろうと判断したのではずさせることにしました。

「俺の世界ではメガネだけは必然アイテムなんだよ」と言おうかとも思いましたが、もっともらしいお話を思いついたので、それまで温存しておこうと思います。

 早くメガネっ娘を登場させたい。

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 <レベルが10アップしました>

 <置石順 Lv11 化学者 状態;寝不足

 HP;2/29 MP 0/0

 力;15 知恵;235 素早さ;15 攻撃力;15 防御力;15

 スキル;器用貧乏 Lv1 予知 Lv3 分解 Lv2 結合 Lv1>

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「危ないところを助けてくれてありがとうございます」

 とヘルハウンドに襲われていた少女は言った。

 先ほど命がけの選択をしたにもかかわらず、当たり前のように礼を言ってくるとは、以外と肝が据わっているのかもしれない。

「……………………」

 そんなことを考えながら置石は少女の前で

「……何をされてるのですか?」

「腕立て伏せだ」

 そう尋ねる少女に置石は答える。

 それは見れば分かります。

 そう言おうとした少女だが「俺は今まで10回しか腕立てができなかった」と、かまわずに置石は腕立てを続けて言う。

 運動不足で細い、貧弱そうな腕で行われる腕立ては10回を越え、15回に届こうとしていた。

「だが、ステータスの力という項目が15に増加したという事は、それだけ筋力が増えていると考察する」

 26、27と続き…30回で限界がきた。


 べたり


 地面に倒れ込むと「なるほど、やはり力の値と腕力は連動しているらしい」と突っ伏したままの置石をみて少女は、この方はちょっと…いや、だいぶ変わっているのだなと思った。

 研究者は調べたい事があれば周りの目を気にせず奇行に出る人が一定数存在するので仕方のない事なのである。

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「危ないところを助けてくれてありがとうございます」

 何事も無かったかのように、ふたたびお礼からやり直す少女。

「私は森の中のドワーフの一族、フローリンと申します」

 といって優雅に一礼した。

 ドワーフ?

 ドワーフというと筋骨隆々。背は低いが熊並の筋力を持ち、がっしりとした体格の持ち主で性格は豪快か偏屈というイメージが置石にはあった。

 だが目の前の少女は、背は低いものの身長は150cmくらいある。

 全体的にやせていて、墨色の艶やかな髪にほっそりした腕。小麦色の肌に、のほほんとした、穏やかそうなほほえみを浮かべる顔は豪快さや偏屈さとは無縁の顔である。

「俺の知っているドワーフとはだいぶ違うんだな?」

 ぽつりと、感想が漏れる。

「オキイシさんの知っているドワーフはどんな感じなのですか?」

「ゲームとかマンガの知識だけど、背は低くてがっしりした体格。斧が主力武器でゴブリンとかコボルト程度の魔物なら素手で首をねじ切りそうなイメージかな」

「背が低いのは合ってますねぇ」

 さすがに首はねじ切れませんが。とほっそりとした腕を見せる。

「背が低い?でも君はだいぶ高い方だと思うんだが」

 女性でこの背丈なら男性は置石と同じくらいに推測された。だがフローリンと名乗るドワーフの少女は

「わたし、。『突然変異』ってお医者さまには言われました」と言った。

 なるほど。ドワーフにしては背が高いと思ったが彼女だけが特別だったのか。と置石は納得していると

「あの巨大な狼を同時に倒すなんて凄いです。何か特別なルーンを使用したのですか?」

「ルーン?よく知らないけど、この世界では化学記号はルーン文字とか言うのかい?」

 試しにいくつかの記号を書いてみるが「変わった記号ですね」と言われた。

 この世界の文字ってどんなものなんだろう?

 そう考えていると、フローリンと名乗った少女は変わった記号にしかみえない文字を書いて見せた。まるでグロンギ語だなと置石は思う。

「全然違う文字だな」

 どうやら彼女たちが使う『魔法』と俺が使った魔法は別物らしい。

 置石は先ほど見えた光景を思い出した。

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「スキル;分解を使用しますか?」

 あの言葉が表示されたとき、俺は瞬時に「はい」を選んだ。

 次の瞬間、目に映るすべてが元素記号で表示された。

 N2 02 H20

 CH2OHなどの元素記号から有機化合物まで。

 この世界を構成する全てが記号の羅列で構成されたように見える。

「なんだこれは…」

 それは文字と数字があふれた世界。たとえるならゲームのプログラム画面のようだった。


 死ぬ前の過集中か、本能的なひらめきか、俺は『H2O』とかかれた文字を選び、それを

『2H2O=2H2+O2』

 水が水素と酸素に分解されるように書き換えた。

 すると

『分解方法を決めてください』と出たので即座に『電気分解』を選択する。

 分解範囲はヘルハウンドの口元だ。


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 ここまでの作業に1秒もかからなかったと思う。

 次の瞬間、ヘルハウンドの頭部で爆発が起こり、気がつけば血を流して死んでいた訳である。


 以上を説明すると目の前の少女は「そんな魔法は初めて聞きました」という。

 ふつうは世界にあふれる魔法の元を変換して火炎を出すなり水を集めるのがこの世界の魔法なのだそうな。

 ふんわりした説明だが、顕微鏡のない時代に「病気は悪魔がとりついて起こす」などという説明を人類の祖先がしていた事を考えれば、まだ詳しい説明といえるだろう。

 何しろ彼女は木靴に皮の服を纏っており、ジッパーやボタンらしき装飾品がいっさい無い。

 中世ヨーロッパよりも前の文化レベルの服であるあたり彼女の集落の規模もなんとなく想像がつこうというものだ。

 置石がそんな事を考えていると、少女は

「その、水素という物を作ったら、何故ヘルハウンドが倒れたのですか?」と問うてきた。

 女性と縁がないどころか就職後は化学知識を語る相手のいなかった置石。

 寝不足にもかかわらずハイテンションでまくしたてた。 

「説明しよう!水素は軽くて安定した期待だが、501度以上の熱源、主に火を近づけると空気中の酸素と激しく反応して爆発するのである!」

 この時、水素と酸素が2:1で混ざっていると一番よく燃焼し爆発すると言われている。


「その名も『水素爆鳴気』!」


 中二病患者が考えたような名前だが酸素と混ざった状態の爆発しやすい混合ガスをそう言う。


「えっと…」

 あれ?よくわかってない?

「えー、水素というのは火を近づけると信じられないくらいに膨らむんで、あの犬の化け物は口のなかで膨らんだ水素に耐えられなくて吹き飛んだんだよ」

 どうやらこの世界では気体はまだ発見されていないのだろうか?と置石は文明レベルの差異を再認識した。


 地球でも気体の存在は昔から知られていたが、その発見はかなり遅い。

 例えば酸素は1771年、スウェーデンのカール・ヴィルヘルム・シェーレが酸化水銀(II)とさまざまな硝酸塩混合物を加熱する過程で発見し、フランス革命で処刑されたラボアジエなどが検証を行っている。

 それまでは「物が燃えるのはフロギストンという物質を放出している過程である」と考えられていたくらい目に見えないものの実態を掴むのは難しかったのである。


 風船…といってもゴムはなさそうだしわからないかな?と思ったが

「腸で作った浮き袋が割れるようなものですか?」と少女は言った。

「そう、そんな感じ」

 難しい概念の理解が早くて感心する。

「………それは変わった能力ですね」

 そう言って少女は「炎よ」とつぶやくと、目の前でライター程度の火を指先から灯した。

「初歩的ですが、これが火の魔法です」

 そう説明する少女の目の前で、O2がどんどん燃焼されてCO2に変わっていくのが見える。

 だが、使は置石の能力でも全く分からなかった。

 火が燃えるには3つ必要なものがある。

 酸素、燃料、温度である。

 火のない所に煙はたたないように、燃えるものの無いところにも火は燃えないのである。この場合、酸素はあるが燃料と高温がどこから供給されているかがわからない。

「これが、魔法の力というものなのか」

 未知の現象を前にして置石は少女の指をまじまじと見る。

「あの…」

 見つめられて恥ずかしくなった少女が頬を赤らめる。

「あ、すまない。俺の世界では珍しい現象だったので」

「いえ、こちらこそ…」

 そういって少女は「あら?」と首を傾げ「俺の世界?」と不思議そうな眼で置石を見た。

「たぶん俺はこことは別の世界から来たみたいなんだ」

 言ってから、しまった。と思った。

 仮に外国人らしき人が『俺、実は異世界から来たんだ』とかいったらどう思うだろうか?

 きっと、どうみても怪しい人にしか見えないだろう。だが

「そういえば、昔、オキイシさんと同じように異世界から来たという方がいらしたと言い伝えで聞いたことがあります」

 と少女は言った。

 何てご都合主義。

 セーフと思いながら置石は、異世界人としての当然の疑問を問いかけてみる。

「だから知りたいんだけど、ここはどこなんだい?」

「ここは『アルケミア大陸』の南方で『嘆きの湖』に一番近い集落です」

 なるほどわからん。

 とりあえず中二心の古傷をガンガン突いてくる地名から地球でない事はわかった。

 そんな置石をみてフローリンは何かに気が付いたようにポンと手を叩き

「という事はオキイシさんは家が無いんですね」と言った。

 置石がうなずくと「じゃあ、私の家に泊まってください。父も賛成してくれると思います」と言う。

 いくら命の恩人とは言え、年頃のお嬢さんが男性を泊めると言うのもどうかと思ったが流石に野宿はキツイ。

 なのでお言葉に甘える事にした。


 こうして誘われるままホイホイとついていった置石は……

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「人間が来たぞー!」

「おい!同志名誉ドワーフ!ここからどうやって奴らを追い払うんだ!」

「同志 !指示を出してくれ!」


 目の前には敵である鋼で武装した人間たち。

 横には味方である青銅の鎧に身を包んだドワーフたち。

 どう考えても所属している場所も装備も逆な気がするが、ドワーフの集落に来た置石は翌日には人間たちと戦うことになっていた。

 シナリオがバグったとしか思えない急転回の様子を次に語らせてもらおう。


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 研究者の奇行については『自分の体で実験したい 紀ノ国屋書店』という本に詳しく書かれてますので興味のある方は御一読を。

 食べ物がどのように消化されるのかを調べるために、袋に入れたパンを使った実験は狂気の沙汰だと思いました。

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