第6話 1mは一命取る 高所からの落下物による事故(故意

三行でわかる前回までのあらすじ;


・二酸化炭素を悪用して

・50人の軍隊を二酸化炭素中毒にして昏倒させ

・石を落して潰しました。(三行


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『1mは一命取る』という工事現場の標語がある。


 体重60kmの人間が1mの高さから落ちた場合、時速15.94km/h。約1.5tの衝撃が発生する。この力が頭に集中するとたとえ1mの高さから落ちても死んでしまうのである。

 ここで20kgの石を5m(地面の高さ3m+人間の身長+α)の高さから落とした場合、秒速9.9m 時速にすれば35.64km/hとなる。


衝撃にして約2t。


 鉄の兜など簡単にひしゃげて中身も潰れた。まるでスイカでも潰れるような音と共に新スキル【観察】による生命反応が消えていくのが分かる。

 それと共にLvが上がる。そのおかげで持ち上げる石も軽くなり、より高い位置から放り投げられるため、兜から飛び散る血しぶきも広範囲になる。


<置石順 Lv41 化学者 状態;普通

 HP;179/179 MP 300/300

 力;200 知恵;475 素早さ;215 攻撃力;415 防御力;315

 スキル;器用貧乏 Lv2 予知 Lv6 分解 Lv4 結合 Lv3 観察Lv1 

 称号 ;拷問官                           >

 『称号 ;【殺戮者】を取得しました。【撃墜王】を取得しました。』


 うむ、何か不穏な称号を手に入れたようだ。失礼な。

そう思いながら28人目の犠牲者を発生させようとすると

「も、もうそこらへんで良いんじゃないかね?」とドワーフの一人から言われた。

 振り返ってみると、集落のドワーフ達からドン引きされている。

 確かに今の状態だと置石は

 誤解を解くために、置石はドワーフに語りかける。

「俺のスキルには【予知】というものがあるんだ。」

「20年前に死んだ長老様がそんなスキルをもっとったなぁ」

 既に知っているのか。なら話が早い。ドワーフ達も少し話を聞く気になったようだ。

「これは実験の結果をある程度予測する物なんだが、未来に起こりそうな可能性も予め知る事が出来る能力らしい」

「ああ、長老様も雨や台風を予知して村人に教えてくれたもんじゃった」

「その能力で、今回の戦いに負けた場合を予知して見たんだ」

 そう前置きをすると、スキルで見えた最悪の未来を説明する。


「ここの集落にいる25人。全員がここから帰る船の中で劣悪な扱いを受けてという未来だった。」

 その言葉を聞いて集落中のドワーフが、とあるドワーフを見る。

 おそらく嘘発見とか、そんなスキルを持っているのだろう。

 そのドワーフは冷や汗を流しながらも首を振る。『嘘はついていない』という事だろう。

「こいつらは俺たちを奴隷とか劣等種とか言ってただろ?会話ってのは対等の立場だとお互いに認識してないとできないんだよ」

 研究所でも全く根拠もないのに『自分は偉いんだから特別扱いしろ』と言うようなオーラを出している人間がいた。今回の緑人間はそれに輪をかけてひどい。

「言葉は通じても、相手が何かを考えていて、その考えを受け入れようとしない相手、『自分は何の根拠もないけどお前たちより偉くて文化的な存在だから、無知で愚かなお前たちは黙って俺の言うことに従え。なぜならお前たちは無知で愚かだからだ』って奴らとは、意志疎通はできないよ。こちらに感情とかあるって考えもしないんだから」

 ちなみに1700年代の欧州では犬とか猫には感情が無いと考えられていたらしく、科学史を調べるとかなり残酷な実験がされている。

 それこそ、そこらに生えている植物の葉をむしったり、雑草を抜くような感覚で腕や足を引(残酷すぎる描写なので検閲されました)とか、現代感覚では目を背けたくなるような行いがされていたし、牢屋に入れられた囚人を40日間放置していたので、自分の排せつ物を食べて生き延びたと言う知りたくなかった話もある。

 この集落のドワーフが受けるのは、。 


 なので、こいつらは話し合いができない。

 ここで始末しておかないと緑人間とは話し合いができないだろう。

「ついでに言えば、2・3日中に報復の部隊が100人程度やって来る。少しでもレベルを上げておかないと勝てないかもしれないんだ」

 その言葉にドワーフ達が動揺する。100人との戦闘など経験がなかったのだろう。

「何とか交渉して助かることはできんのかのう。死ぬくらいなら奴隷になったほうがまだマシじゃないのかね?」

 と置石の知ってるドワーフらしからぬ弱気な発言をするのがいた。

『屠殺人に媚びを売っても、養豚場の豚は殺される順番が変わるだけだぞ』

 と言いたかったが、養殖の発想がないようなので

「道具に敬意を持たない奴が、ハンマーを大事に扱うか?」

 折れたら次を使い捨てで使うだけだろ。と説明したらだいぶわかってくれたようだった。

「しかし、何でそこまで奴らに敵意をもっとるんじゃ?」

「昨日、色々と観察したからな」

「観察?」

「ここに偵察に来て捕まった緑人間がいただろう。そいつと色々話をしたんだよ」

 と置石はフローリンを見ながら言った。

「いったいどうしたのじゃ?」

 ナイトロがフローリンにたずねる。

「さあ?ただ、昨日捕虜に会ったあとから様子が変わられたような…」

 


・・・一日前の夜・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 フローリンに案内されて置石はドワーフの集落の牢獄へ来ていた。

「捕虜と会ってどうするのですか?」

 不思議そうに訪ねるフローリン。彼女的には緑人間の集落の位置や人数を聞いただけでも十分な情報だったらしい。だが

「戦うなら先ずは相手を知らないといけないだろう?」

 と置石は答える。戦闘がどれだけ凄惨なものか分かっているのか分かっていないのか判別し辛いのほほんとした彼女に具体的に説明すると。

「心臓はあるのか?脳や内臓や骨は存在するのか?呼吸をしているか?どれくらいの温度で熱いと感じるのか?これらを知っているだけでも対応方法が変わってくるんだ」

「そうなんですか?」

 よく分かってないような顔で答えるフローリン。


 実験とはある程度の推測はあるが、根本的には試行錯誤の繰り返し、思いついた事の総当たりである。

 そのためには対象をじっくりと観察する必要がある。

 なのでこの世界でいう『人類』とはどういうものか調べる必要がある。もしも火属性は完全無効とか太陽の光に弱い。などの特殊な条件があったなら大変だからだ。

 案内された場所には縄で縛られた男がいた。

 体の皮膚は緑色。髪の毛も緑色だ。この世界ではこれが正しい人間の姿かもしれないが、やっぱり違和感がある。これは仕方ない。普段と違うものを警戒したからこそ人類は危険を回避できてきたのだから。

 とりあえず、異文化コミュニケーションはあいさつから。フレンドリーに話しかけてみよう。

「やあ、はじめまして。俺は…「ふむお前のような気持ち悪い肌をした者と話すことはない。せいぜい我々の仲間がここのドワーフを退治して奴隷として本国に連れ帰るまで、震えておびえているが良い」」

 コミュニケーションは失敗に終わった。

「まあ、縛られているんだし警戒するのは仕方ないよな。そう興奮しないで話だけでも聞いてくれないか?」

「イヤだ」

「君たちは水の中でも活動できるのかな?」

「知るか」

「熱いモノを食べたりするとやけどしたりしないかな」

「薄汚いゴミ虫の食べ物など食べられるか」

 その後も5回ほど質問をしたがまともな返答は帰ってこなかった。

「何で、君たちはそこまで偉そうなのかな?俺にとっては君たちの緑色の皮膚の方が異常で気持ち悪いんだが」

 その瞬間、バカにしたように緑人間は口を開く。

「はっ!この神に選ばれた美しい肌の色が異常?これだから蛮族は無知なのだ。我らがウースラ神と同じ美しき緑が分からないとは、実に愚かだな」

 そう、せせら笑う。

「そんな神知らないが、他の種族とまともに会話もできないのが信徒なんて、ずいぶんと傲慢で無知な神なんだな」

 そう言ったが、

「我が神は愚か者には見向きもしないのだ。おまえたちの体に緑である部分が一つでもあるか?ウースラ神はその緑の体のすべてを人間を作るためにお使いになられ、他の生き物はゴミやクズで作られたのだ。ゴミに神は目をかけないのだ」

 九十九神が怒りそうな神様だな。

 どちらにせよ挑発にはのらなかった。強がりではなく、自分たちは神に近く、他の生き物は自分たちに尽くす奴隷なのだと本気で信じていそうだ。

念のためにもういちど聞いておこう。

「つまり、君は我々と対等の立場で話す意志は無いと、そういうことかい?」穏やかに、確認するように言った。

「当然だろう?何度言えばわかる?言葉は通じても野蛮な風習でろくな文化も持たないウジ虫どもと、神の使途として正しい教えを施しに来た我々が対等のはずがないだろう。未開の蛮族に正しい奴隷としての役割を与えてやるのだ。ありがたく思え」

 この言葉にフローリンが悲しそうな顔をする。ああ、やっぱりこの世界の人間とは合い入れそうにない。

 緑人間は捕まったストレスを吐き出すように続けて言う。


「お前たちみたいな無学の徒はどうせ生きてても何の価値もないのだ。せいぜい我々のために働く以外に生きている意味などないだろう」



「なるほど」




冷ややかな目をして置石は言った。


「なるほど」


今まで浴びせられたバリ雑言を反芻するように、もう一度言った。

「もう一度、確認するぞ。お前は俺たちと対等に対話をする気はない。間違いないな」

「何度も言わせるな。人間とゴミが対等になれるか。身の程を知れ」

 嘲るように醜い顔で笑いながら言う緑人間。

 

 この時、置石は勤めていたブラック企業や友人のいたブラック企業を思い出して、こう言った。


「なるほど、つまりお前は俺たちから対等な存在として扱われる価値がないわけだ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「俺の友人は就職した先で奴隷のように使われて過労で倒れたり、暴力を振るわれて精神を病んで自殺したり、ろくな給料ももらえずに世捨て人みたいになった人間が多くいたんだよ」

 その知らせを聞いたのは葬儀や引っ越しが終わった後だった。

 かく言う置石も利益にならない研究職として、社内での地位は低く「どけ」と押しやられたり、軽い暴力は日常茶飯事。

 無茶なスケジュールで研究をさせられたりしてロクに睡眠も取れず体をこわした。

 それでも『仕事をクビになったら生活が破綻する』とか『人生のレールからはずれる事が怖かった』時はまともな思考ができなかったが、正常な思考で考えて、対等な立場である人間に対してまともな人間がそんな事をするだろうか?


 答えは否である。


 体育会系とか、仕事の厳しさなど盾に他人を傷つける人間は、他人を対等の人間として見る常識の欠けた者が、無難に毎日を過ごそうとしている人間の優しさにつけこんで無法を働いているだけなのだ。

 死ぬ前はそれでも職にしがみつこうと我慢したが、一度死んだら我慢するのがバカらしくなった。

 それどころか、そんな他人への思いやりももてないような未熟な猿以下の存在に無性に腹が立ってきた。


 そんなに素晴らしい存在がどんな構造をしているのか、じっくり調べてやろうじゃないか。


「俺は歴史を少しだけ学んでてな」

 軽く前置きをすると、緑人間の頸動脈を掴む。

「き、貴様!なにをする!」

「移民族同士が接触した場合。交易とか観光などの対等な関係が築けなかった場合、侵略戦争に発展し、より凄惨で残酷な戦いを経験を積んだ部族の方が圧倒的に強い」

 ポリネシア諸島の部族は、食人の風習があるような戦争を繰り返した部族の方が数が少なくても勝利したのだという。

「そのためには、相手がどのような状態になれば死ぬのか色々知る必要があるよな?」

「……は…はなせ…………」

 薄い緑色だった顔色は、みるみるうちに暗くなり苦悶の表情をあげる。 

 どうやら緑人間は血液が体内を流れて、酸素が脳に届かなくなると命の危険があるらしい。


 ああ、よかった。


「心臓はあるのか?あるのなら、心臓を刺せば死ぬのか?脳や内臓や骨は存在するのか?存在するのなら鈍器でブン殴れば脳挫傷や骨折で戦闘不能にできるのか?呼吸をしているか?いるのなら毒ガスや窒息させることで殺すことが可能か?どれくらいの温度で熱いと感じるのか?百度でも熱いと感じるなら熱っした油や火あぶりにすれば殺せるのか?俺がお前を使って知りたいのは、そんなお前を破壊する方法だ」

 目の前の緑人間はゾッとした表情をする。

 今まで自分は神の加護に守られた特別な人間で、物語の主人公のように、一時的にピンチになっても何らかのチャンスで脱出できる。そうでなくても味方が助けてくれるだろうと楽観的に考えていた。

 自分がドワーフを奴隷のように使うのは当然だが、特別な存在である自分は捕虜としての待遇を受けるのは当然だと、信じられないことに彼は常識として考えていた。

 だが、目の前の男は違う。

 自分を見る目が特別な存在に対するものではなかった。

「あ…ああ…」

 それは、猫がネズミをいたぶったり、子供が小動物をいじめるのとは違った。

 それらは相手がいやがるのを楽しむ目だ。

 相手に感情や心があると分かった上で、その反応を楽しんでいる。

 だがこの男の目は違う。

 相手の反応を知りたいのではない。

 子供が昆虫の四肢を残酷にもぎ取ったり、羽を限界以上まで広げて引きちぎり、甲殻に覆われた体内がどうなっているのか知りたくて力任せに指で殻を押しつぶすような、相手にいっさいの権利を認めない目。

 彼がこちらの社会を知っていたなら

『どこまで生きられるのかを実験して殺す予定のモルモット(実験動物)を見る目』だと表現しただろう。


 今まで自分が積み上げてきた経験や人生。輝かしい実績。それらを無視して、どこまで力を入れれば指の骨は折れるのか?何分水の中に漬ければ死ぬのか?油まみれにして火を付ければ何分生きていけるのか?

 そんな『耐久度テストの素材』としてしか見ていない科学者の目だった。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 ポリネシアの話は「銃・病原菌・鉄」という本に載ってました。

 話せば分かる相手なら良いのですが、話すよりも暴力だという修羅の島の住人には対話は無効だと言う良い教訓でした。


なお今回の事故事例は探してみたらぴったりのモノがなかったので

職場の安全サイト NO.101398 を参考にします。


『被災者は、養鶏用の飼料運送のため出荷口へ向かった。しばらく経過した後、他の出荷口で作業していた作業員が、被災者のトラックが停車している出荷口で、一向に積み込み作業が行われていないことを不審に思い当該出荷口へ出向いたところ、トラックの横に倒れている被災者を発見した。

 被災者は積み込み作業を行っていたところ、誤ってトラックの荷台から転落したと推測される。目撃者がいないため、被災者が、積み込み作業のどの段階で転落したか不明であるが、発見時、トラックの飼料投入口の扉が開いており、操作盤のスイッチは押されていなかったことから、投入口の扉を開いた段階で転落した可能性が高いと推測される』


 低い場所でも転倒や落下物には注意してください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る