第3話 人でなし(誉め言葉)
ドワーフの味方として人間と戦う羽目に合った前日の様子を見てみよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「こちらが私たちの集落です」
そう言われて誘われたのは洞窟だった。
高さ1.5m幅2m位のいびつな穴だった。
え?何これ?防空壕よりはましだけど、地下都市とかそんな奴?
腰を屈めて50mほどカーブを歩くと明かりが見える。
「わあ…」
そこにはふつうの村があった。どうやらあの洞窟はただの入り口だったのだろう。
中世ヨーロッパの村みたいだが窓にガラスはなく、煉瓦でできた家は地震一発で崩れそうだ。
まるでインドとか江戸時代の住宅と言った方が文化レベルは分かりやすいだろうか?
「おい!フローリン!おめえはどこまでほっつき歩いてきてんだ!」
少女に連れられ、入った小屋でいかついおっさんが怒鳴る。
言葉は荒々しいが、そこまで怖くない。なぜならば
「図体ばかりデカくて動きはトロいんだから、おめえはよぉ!」
と凄むおっさんの身長は150cmにも満たないからだ。
まるでゲームにでてくるホビットやドワーフみたいである。
なので160cmはあるフローリンの方が親に見えてしまう。そんな事を考えていると
「おい!フローリン!後ろの大男は誰だ!まさか人間じゃねえだろうな!」
と警戒したように声を出すと
「人間だと!」
「また来たのか、あいつ等!」
「こんどはぶっ殺してやる!」
と斧を片手に集落の人間が飛び出してくるではないか。
どう考えても歓迎されているようには見えない。
「なあ」
いやな予感がする。
「何でしょう?」
「この世界で人間って嫌われてるのか」
「いまウチの集落は人間と戦争中なんですよ」
のほほんと言うフローリン。
悪気は無いらしい。すっげぇタチが悪いんですけど、この天然さん。
10人ほどの小さい住人から取り囲まれる俺。
全員体は小さいが、身の丈ほどある斧を持っているのが非常に怖い。
もしも投げつけられたらケガではすまないだろう。
まって!僕は悪い人間じゃないよ!異世界人だよ!
そう弁解しようとしたが、とんでもない言葉が飛び出した。
「おい!こいつは肌が緑色じゃないぞ!」
はい?
すると、もう一人が兜を脱いで、俺の顔をまじまじと見てきて。
「本当じゃ!こやつ、砂みたいな色をしとるぞ!」
と言った。さらには
「髪も黒いし、どこからどう見ても人間じゃないみたいだぞ!」
とトンでも無い事まで言いだした。
何で黒髪で肌が緑色でなければ人間とみなされないのかは分からないが取り敢えず命拾いしたようだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「すまなかったな。娘の恩人に武器を向けて。ワシはフローリンの父、ナイトロと言う」
そう言いながら、背の低い髭面の男は手を差し出してきた。
どうやらこの世界には握手の習慣があるらしい。
そう思って出された手を握る。
すると周囲の人間も警戒を解いてこう言った。
「やっぱり、おまえさんは人間じゃないな!」
…………笑顔で人でなしと言われた。
こんな時どういう顔をすればよいのだろうか?
まあ、日本人らしく愛想笑いでもしておくか。
「やっぱりこいつ人間じゃないよ」
「うん。人間じゃない」
ほめてくれてるんだろうけど、なんか傷つくぞ。
「ナイトロの娘さんも助けてくれたし良い奴みたいだな」と言われなかったら悪口にしか聞こえないよ!
というかナイトロと呼ばれたフローリンの父親と握手しただけで、何でここまで喜ばれるのだろう?
フローリンに説明を求める。
すると、フローリンは言った。
「実は2年前に人間が私たちを奴隷にしようと攻めてきたんです」
この世界の人間最悪だ!
…よくそんな状態の村に、俺を連れてこようと思ったね。
「ええ、オキイシさんならきっと歓迎してもらえると思ったんです。肌も緑色じゃないですし」
何の悪意もない笑顔でフローリンは俺に言った。
…だから何だよ、肌が緑色って。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「事の始まりは2年前でした」
この大陸の南には『嘆きの湖』と呼ばれる船で30日かけて移動しても対岸が見えない巨大な湖があるのだという。
「ご大層な名前だけど、なんか謂われがあるのかい?」
「今から百年前は常に雨が降り、霧がかかっていたためついた名だと聞いています」
そのため船で進んだり、湖に沿って移動したりしてどれだけの広さがあるのか調べようとしたドワーフもいるそうだが、結局寒さや暑さ、食料の問題などで引き返してきたという。
「ところが25年前に雨が止み、2年前には対岸から船が来たんです」
彼らは巨大な船に乗り、50人ほどの人員で上陸してきたという。
嘆きの湖の対岸から初めて来訪者が現れたのだ。
近隣のドワーフたちは彼らを勇敢な者たちとしてもてなし食料や水を援助ようとしたという。
だがその感情は一変した
言葉が通じないと思ったのか、ノロックという船の責任者は第一声にこう言ったらしい。
「なんだ、この貧相な小鬼たちは」
このあまりにも無礼で失礼な言葉を投げかけられて始めドワーフたちは「まともな知的生命体なら、そんな事を言うはずがない。これは何かの聞き間違いではないのか?」と自分の耳を疑った。
だがその後も
「そんな事より金だ。銀でも良い。ええい、こんなガラクタなどいらん!」と、ドワーフが有効の印に差し出したナイフを投げ捨て大変失礼な事を言っていたそうだ。
そして部下に命じて6人のドワーフを連行し、猿か犬のような動物にモノを教えるような態度で
「いいか、このキラキラしたきれいな金属、これを金という。おまえたちの小さな頭をすべて使ってでも覚えろ。我々はこれを欲している。これをお前たちは持ってこい」と言ったらしい。
「まるでヤクザに借金でもしてんのかって感じの銭ゲバぶりだなぁ」
ウチの研究室にも、人間としてあり得ない位人格の終わっていて『殺処分でもしたほうが良いんじゃないか』という男がいたが、それを上回るひどい奴だったらしい。
「まあ、あのノロックという無礼な男が底抜けのアホだったのはわしらにとっては幸いだった。あれで奴らは敵だとみんなが認識できたからな」
ナイトロが複雑な顔で言う。
結局ドワーフたちが『自分たちにとって財産は共有物で独占するものでは無いこと』『ものを頼む時は、ただ働きではなく対価を出す』よう求めたが聞き入れられなかった。
あまつさえノロックという男は
「こいつらは、見た目は貧相だし頭は良くなさそうだが、力はある。これならまあ奴隷として女王陛下に献上ができるだろう」などと言い出したのだという。
「ふざけるな!」
そういうと連行されたドワーフ6人はノロックをを投げ飛ばした。
体は小さいが力は強いドワーフは3歳の小熊のようなものだった。
体の大きさは小学生並でも成人男性よりはるかに力持ちな小熊が野生全開で暴れたらどうなるか?
人間が用意したテントはぼろ切れとなり、身長165cm程度のノロックは3mの高さまで放りあげられ、180cmの見張り4人は頭から地面に埋まったという。
こうして最悪の第一次接触は終了し人間とドワーフは戦争状態になった。
そして一度目は撃退に成功。人間たちは船で逃げ帰った。ところが、それから1年して再び上陸し復讐戦をしようとしているというのだ。
「そして昨日3人が偵察に来ててな。一人だけ捕まえたんじゃが、敵の居場所がわらからん。そこで逆にフローリンを偵察に出したんだ」
とナイトロが言う。
「この集落では女性を偵察に出すのか?」
酷い話だ。不快感を隠さずに言うと、ナイトロはきまり悪そうに頭をかいて
「こいつの一歩はワシらの二歩に相当する…まあ、なんだ…。ワシらだと足が遅すぎて偵察にならんのじゃ…」
フローリン以外のドワーフはだいたい身長130cm位ばかりである。
「…なんか、その……………ごめん」
触れてはいけない部分に触れた事を認識し、俺は誤った。
「それで、人間さんの居場所は分かったんですが、ヘルハウンドに気づかれて追いかけられまして」
暗くなった雰囲気を気にせずフローリンが言う。
「そこで俺と遭遇したってわけか」
「はい、そうです。あの時は死ぬかと思いました」
朗らかに壮絶な体験を報告するフローリンさん。
「もしかして、あの犬は人間の猟犬か?」
「たぶんそうだと思います。木陰でのぞいていたら、テントから飛び出して来ましたから」
犬は嗅覚と聴覚に優れている。
番犬と言うにはごつすぎるが見張りとしては適役だろう。
「娘が無事で本当によかったよ。礼を言う」
とナイトロは深々と頭を下げた。
族長として娘をひいきするわけにはいかないが、心配だったのだろう。
頑固そうに見えたが意外と気の良さそうな親父さんである。
「あ、そうそう」
そう、しんみりしているとまたまた空気を詠まずにフローリンは言う。
「あした人間さんたち、ここを攻めてくるって」
「「「「それを先にいえ!!!!」」」」
集落のドワーフと置石のツッコミが集落にこだました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます