オスマントルコ時代をモデルにしたファンタジー中編です。
王家の妾たちが暮らす後宮で育った少女、カシワは第二皇子であるために同じく後宮の鳥かごのような部屋の中で育てられた少年セリムと幼馴染でしたが、二人は自由を求めて逃げ出します。
しかし、彼らにも追手が迫ってきて……。
実際の時代をモデルにしているだけあって、その背景には重く暗い設定が描写されていますが、それを感じさせないくらいに主人公たちが前向きで明るく、アクションシーンはコメディのような雰囲気があって、気軽に読むことができます。
主人公たちの頑張る姿も見ていて応援したくなりました。
宮殿に閉じ込められるのは、『後宮』の女たちと『鳥籠』の皇子たち。
皇帝の妾として連れてこられた女達も、皇帝の血を引く王子たちも共通して言えるのは、そこに自由が無いこと。日々ドロドロした争いが繰り広げられる後宮で育ったカシワと、自由の無い場所で飼いならされていた皇子セリム。しかし、ある時カシワがセリムを誘拐して逃亡したため、宮殿は大騒ぎ。
後宮育ちの女が皇子を誘拐するなんて、もちろんあってはならない事です。では何故カシワは、セリムを攫ったか。それは二人で、自由を掴み取るため。
宮殿で窮屈な思いをしたまま、一生を終えるなんてまっぴら。迫り来る追っ手を切り抜けて、二人は自由を勝ち取ることができるのか?
後宮や国としての背景など、設定がしっかりと描かれていて、読み始めてすぐに、濃厚な物語の世界へと入り込むことができました。
昨今ゲームの要素を取り入れた異世界ファンタジーが流行っていますけど、本作はスキルもチート設定も存在しない、ハイファンタジー。
純粋な異世界ファンタジーが好きな方に、是非読んでもらいたいお話です。
後宮で育った少女カシワと、皇子であるが故に、後宮(ハレム)の一角である鳥籠(カフェス)にてずっと自由を奪われ続けていた少年、セリㇺ。そんな二人の、自由を求めた逃亡劇。
主人公であるカシワが可愛く、そしてカッコよく、困難に直面しても前に進んで行こうとするその姿を応援したくなります。そしてセリㇺも、最初はカシワに引っ張られている印象だったのに、決める所はしっかり決めてくれます。
そんな魅力的な二人と共に本作を面白くしているのは、この逃亡劇の根底にあると言うべき後宮の闇。
後宮。つまりはハレム。今やラノベですっかりおなじみとなっているハーレムの語源ではありますが、あんな可愛いものとは違います。権力争いや、それへの対抗案など様々な思惑が絡んでいった結果、驚くほど歪に歪んでしまったシステム。オスマン帝国をモデルにしたそうですが、こんなものが現実にもあったのかと思うと、戦慄せずにはいられません。
だからこそ、そこから逃げ出そうとする二人が、何としても成功し幸せを掴んでくれますようにと強く願います。