第5話 行動
将彦は橋本幸江から譲り受けた宝くじのことを母親に相談をした。きっかけは自分に扱えない幸運であれば、しっかりと幸せとして扱える人の手に渡って欲しいという言葉だった。
橋本幸江から譲り受けた経緯やその使い方で悩んでいることを明かすと母親は困りながらも嬉しそうな顔をした。
「なんていうか、私の育て方がよかったのか。将彦は思ったより素直な子に成長してくれてて安心したわ。」
その後、まず母親と一緒に宝くじを銀行へ換金しにいった。そこで対応してくれた窓口の銀行員に最初から当たった金額を全額寄付として利用したい旨を伝えた。
手続きの間、銀行員の男性は高額な当選金を本当に受け取らなくて良いのかを三度ほど確認してきたが、母親はその度に将彦の顔をのぞき込み、将彦自身で大丈夫ですと答えた。銀行員の男性はたまに高額当選を全額寄付する人がいることを話では聞いていたが、実際にお会いしたのは初めてだと言った。
手続きから寄付完了までは順調に進み銀行にいってから3週間後に寄付先から感謝の電話がかかってきた。
こうして将彦を苦悩させた幸運は無事幸せとして扱える人々の手に渡った。
ニュースでは北海道で今年の初雪が降った伝えられた11月の終わり頃、将彦は多摩川の近くにある橋本幸江の施設に訪れていた。
「将彦君、この絵柄はどうかしら」
橋本幸江はリビングの机の上に何枚かの年賀状のサンプルを並べ、将彦に質問した。
「
将彦は桜の背景に水墨画に似た技法で書かれた牛が描かれているものを指差した。
「えぇ、少しおばさん過ぎないかしら。だったらこっちの赤べこの方が良いわ」
橋本幸江は将彦が指差した隣のデザインの葉書を手にとった。葉書の真ん中にアニメちっくに赤べこが描かれている。
将彦は月に一度、橋本幸江を訪れては世間話や身の回りの手伝い、ちょっとした相談にのっている。橋本幸江から譲り受けた幸運は既に将彦の手を離れているが、将彦にとって本当の幸運は今回のことで自分と向き合いお金との付き合い方を考える機会を得られたことだと。その感謝の気持ちがあるからこそ将彦自身が自発的に橋本幸江のもとを訪れている。
施設を訪れてから2時間ほど過ぎたあたりで橋本幸江の夕食の時間になり、将彦は施設をあとにし多摩川を少し歩くと、緑が少なくなりグラウンドの地肌がはっきりと見えるようになってきていることに気がついた。
「次に来るときには雪でも降ってるかな」
将彦はそう呟いて最寄りの駅へ歩き出した。
使い方は人それぞれ 宮古 宗 @miyako_shu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます