エピローグ


* * * * *



< モテ期というものは万人に対して平等に訪れるもので、そしてそれは誰しも三度は経験する >



 よく考えて見てほしい。三回くるんだよ?

 僕の場合、高校一年生の一学期、中学二年生の同じ時期、小学五年生の夏。

 はい、よく考えて。

 小学五年生の夏、あれはモテ期と呼べますか?


 思い返して、読み直して見てほしい。

 故に最初のエピソードを引用する。



– – – – – –


 テスト何点だった? とか。

 リコーダー持ってきた? とか。

 持久走完走できた? とか。


『十三点だったよ』

『わぁ! よかった! わたし、二十点はあった!』


『リコーダー忘れた、先生そんなこと言ってたっけ?』

『わたしも忘れたの! よかった、先生のはなし聞いてないのわたしだけじゃなくて』


『持久走ね、しんどくて無理だった。途中で先生がもういいっていうから、あまえちゃった』

『よかったー! わたし、十分以上かかってすごく恥ずかしかったんだけど、下には下がいるよね、やっぱ!』


– – – – – –(引用元:第一話)



 冷静に考えて! 違うよね、これ。馬鹿にされてるだけだよね!

 チヤホヤ違う! 揶揄われてるだけだよっ!

 これをモテ期と勘違いしてた、小学五年生の僕ってどんだけ馬鹿なの?

 僕はまだ、三度目のモテ期を迎えていなかった。

 だから神様は僕にもう一度チャンスを……これはいわゆる、四度目のモテ期なのかもしれない。


 そんなことはどうでもいい。


 今は現在、今日という始業式のお話。



 早めに登校した僕は、学校の中庭にある桜の木の下に立っていた。

 あれだよ、間違えて早めに起きて暇だから学校きたら綺麗な桜が見えたからふらっと立ち寄っただけで。桜花の下でたそがれる僕、カッコいいとか思ってないっ!


 だからそんなことはどーでもいいっ!


 あいかわらずだな、僕は。

 阿呆ぷりはやはり、父譲りなのかもしれない。しっかり者の母さんに似たかったな。

 そういえば美術部顧問の先生は元気かな?


 今はどうでもいいか。


 そろそろ行こうかと踵を翻したとき、背後に人影があった。

 ふわりと舞う、スカートの裾。

 揺れるツインテールと色素の薄い長い髪。


「おはよう」

 

 一歩、そして一歩、競うように僕に歩み寄ってくる影二つ。

 小さい頃から変わらない笑顔の花を咲かせる幼なじみと、僕に会えた嬉しさをしかめっ面、ツンデレをもって隠そうとするクラスメイト。

 ピコんと、携帯に、優等生と先輩からメッセージが入った。


《進級おめでとうございます、うちの高校は昨日でしたが》

《わたしもついに大学生だよっ》



『おはよう』の言葉が、彼女たちの声で重なった。



 始業式というこの日。


 僕らは今日から、高校二年生だ。









〈 end 〉

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『僕がいる』〜タイムリープして幼馴染の美少女を助けるゆる系青春SF 七種夏生 @taderaion

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