第470話 内定
特待生選抜試験から一夜明けた8月30日。鈴井監督は部員達の前で特待生に内定した2人を発表した。
「まず1人目は、投手としての実力はもちろんのこと、バッターとしても上位6人に残る成績を残した飯沼だ。みんな異論はないと思う。そして悩みに悩んだ2人目は……」
この時、ここにいた部員のほぼ全員が同じ人のことを思い浮かべていた。
(中村だろうな)
(まあ中村で決まりだな)
(あれだけの結果を残した以上、中村しかありえないな)
(にしても昨日の中村の活躍は凄かった。まさかあの3人全員からヒットを打つとはな)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「カーン!」
比嘉の投げた遅いストレートを打った中村の打球は、完全に芯を外されたもののフラフラと上がっていき、奇跡的にセカンドとライトの中間地点に落ちるポテンヒットとなった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
昨日の特待生選抜の打撃試験において、二次試験まで進んだ他の5人が誰からもヒットを打てない中、ただ1人だけ3人全員からヒットを放った中村。この圧倒的な結果から、中村の合格を疑う者はいなかった。ところが、鈴井監督の口から出た2人目の内定者は……。
「外山だ」
この予想外の結果に、部員達はざわつき始めた。
「お前らちょっと落ち着け。気持ちはわかる。確かに、昨日あれだけの結果を残した中村を落とすというのは俺としてもかなり勇気のいる決断だった」
「いやそんな勇気いらんでしょ」
「あいつがいれば打線もかなり強力になりそうなのに」
「何言ってんすか監督」
「うるせえ! ちょっとは黙って俺の話を聞け!」
珍しく怒鳴り声を上げた鈴井監督に、部員達はびっくりしながらも大人しく耳を傾けた。
「あのあと撮影していた動画で中村の打席を何度もチェックしたが、あのヒットはハッキリいって3本ともまぐれだ。その証拠に、吉田と川合から打ったヒットはバットの先端、比嘉から打ったヒットはバットの根本近くとどれも芯から大きく外れていた。あいつのゴルフ打ちのフォームのおかげでたまたまバットに当てられてたまたまヒットになっただけだ。まあそれでも、タイミングを合わせる中村の能力の高さあってこそ打てた訳だし、完全にまぐれとまでは言えないがな」
「ならやっぱり中村でいいじゃないですか」
「運も実力のうちって言いますし」
「いいやダメだ。中村には低めの球しか打てないという致命的な弱点がある。あの目立つバッティングフォームだ。その弱点はすぐにバレて簡単に対策されてしまう。わざわざ相手の得意コースで勝負しようとするバカなバッテリーでもない限りな」
鈴井監督から顔を背けて知らんぷりする西郷と比嘉。
「という訳で、中村は候補から外れて、投手の中で2番に評価の高かった外山を選ぶことにした。良いピッチャーは何人いても困らないしな」
こうして、船町北高校野球部に来年入部する特待生枠の2人が内定した。
安達弾~打率2割の1番バッター~ @hayashihajime
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。安達弾~打率2割の1番バッター~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます