第469話 特待生選抜試験~野手編~⑧

(今の俺の実力では、到底この人の球は打てない。ていうか、この人の球をまともに打てた人って、甲子園でもほとんどいなかったよな? じゃあ中学生の俺が打てないのは当たり前なのでは……)


 西郷のサインに頷き、投球モーションに入る比嘉。


(そうだそうだ。この勝負は打てなくて当然なんだよ。だからもし打てなかったらなんて考える必要はない。とりあえず振るだけ振ってみて、ヒットになれば儲けもの。そんなマインドで……)


 急に体の力みが抜けた中村は、いつも通りのゴルフ打ちのフォームで振りかぶる。


(今度こそ低めに決めてやる!)


 比嘉の指先からボールが放たれる。


(バットの先っぽですくい上げてやる!)


 ストレートの球筋を見て、ボールが地面にぶつかるスレスレの位置くると判断した中村は、瞬時にそう考えながらバットを振り下ろした。


(あれ、ボールが落ちてこない……)


 中村の予想に反して、ボールはストライクゾーンの内角やや低めの位置を通過しようとしていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 3球目を投げる直前、西郷は内角低めに普通のストレートよりもよりバックスピンのかかったキレのある遅いストレートを要求した。


(今日は普通のストレートのコントロールが不安定だばってん、こっちの方がちゃんと低めに投げられる可能性が高そうだばい) 


(2球連続で高めに浮いちゃったし、まあ仕方ないか)


 比嘉は普通のストレートを投げたい気持ちを抑えて、しぶしぶ西郷のサインに頷いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 タラレバの話になるが、もしもこの3球目も比嘉が普通のストレートを投げていた場合、中村はバットを振り遅れて空振り三振になっていたはずだった。


 しかし、ここで球速の遅いストレートを選択したせいで、振り遅れ気味だった中村のスイングのタイミングが奇跡的に一致し、バットは比嘉のストレートを捉えた。ただし、中村が今までに2球見た普通のストレートよりもキレがよく予想外に浮き上がってきたため、バットが当たった位置は完全に芯を外れていた。


「カーン!」

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