第468話 特待生選抜試験~野手編~⑦
キャッチャーの西郷は、中村をどう抑えてやるかを考えていた。
(普通に抑えるだけなら、中村の得意ゾーンの低めを避けて高めの球だけを投げればいいたい。ばってん、それじゃあこっちが逃げたも同然ばい。中村に完全勝利するためには、あえて低めで勝負し完璧に抑える。それしかないたい)
西郷が内角低めにミットを構えると、比嘉はニヤリと笑みを浮かべながら頷く。
(先輩、相手の得意コースにわざわざ投げさせるとかキャッチャー失格っすよ。まあそんなキャッチャーのリードに頷く俺も……)
ワインドアップから大きく振りかぶる比嘉。
(ピッチャー失格っすね)
比嘉の指先から強烈なバックスピンのかかったボールが放たれる。
(ラッキーまた低め!)
ボールの軌道を見て、瞬時に内角の低めにくると予測した中村は、お馴染みのゴルフ打ちでバットを振り下ろそうとしていた。しかし……。
(はっ!?)
中村は慌ててバットを止めた。
「ストライク!」
(おいおい、嘘だろ……どうしてあの軌道から、高めのストライクゾーンギリギリを通っていくんだよ。一体どうなってるんだ?)
(やっべ、力入り過ぎて高めに浮いちゃったな)
(まったく、比嘉のストレートのキレは相変わらずえげつないばってん、コントロールはまだまだ改善の余地があるたい。今度こそちゃんと低めに投げてくればい)
続けて外角低めにミットを構える西郷と、すぐに頷き投球モーションに入る比嘉。しかし、中村の頭の中はまだ混乱していた。
(ていうかスピードも半端なかったぞ。確か甲子園の時は最高でも140いってなかったはずなのに、普通に150くらいでてたんじゃね? この人のストレートは、明らかに異常……)
その時、中村は比嘉が2球目をたった今投げ込もうとしているのに気づき慌てて準備に入った。
(こんなストレート、打てる気がしない)
「ストライク」
中村はまったく手が出せないまま、茫然と球を見送った。
(やべっ、また高めにいったか)
(おいおい、2球続けて何やってるたい。これじゃあまるで低めに投げたら打たれそうだから逃げてるみたいに思われるばい)
そんな西郷の予想とは裏腹に、中村はただただ比嘉のストレートの凄さに圧倒されていたのだった。
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