第467話 特待生選抜試験~野手編~⑥

 それは、吉田に続きマウンドに上がった川合が投げた初球だった。


「カキーン!」


 内角低めにきたストレートを、またしてもバットの先端ギリギリで捉えた中村の打球は、レフト前ヒットとなった。


(またしてもヒットだと! しかも初球打ちで……)


 中村の活躍に、唖然とする鈴井監督。


(せっかく外角高めに構えてたのに逆球なんて投げるから……ばってん、いくら得意の低めだからといって初球から打つとは驚いたばい)


(いっけね。つい力が入り過ぎて逆球になっちまった。にしてもまさか初球から打たれるとはな。下手したらこいつ、安達並の逸材じゃないか)


 中村の活躍に、驚かされる西郷と川合。しかし、当人はと言うと……。


(低めにきたから反射的に打ちにいったけど、滅茶苦茶速かったな。事前に川合先輩が150キロオーバーの速球ピッチャーだって知ってたからなんとかタイミングは合わせられたけど。しかも途中で球が落ちてこなかったか? もしかして変化球だったのかも、にしては速すぎるか。そしてまた奇跡的にバットの先端に引っ掛かってくれたな。今日の俺運良すぎだろ。反動で交通事故にでも合いそうで怖いわ)


 こんな感じで、中村は相変わらず自分の実力で打てたとは考えていなかった。そんな中、打倒中村に比嘉は闘志を燃やしていた。


(中坊相手に揃いも揃ってあっさり打たれるとか、先輩達情けなさすぎるだろ。このままじゃ完全に舐められるぞ。ここは俺が完膚なきまでに打ちのめしてやらないとな)


 そんなことを考えながら、マウンドに立つ完全本気モードの比嘉。この比嘉の闘志は、キャッチャーの西郷にまで乗り移っていた。


(このままいいようにやられっぱなしで、こいつを帰らす訳にはいかんたい!)


 そしてこのバッテリーの闘志は、打席に立つ中村にも伝わっていた。


(やべー、先輩達超本気モードじゃん)


 思わずバットを持つ手が震える中村。


(でも、どうせなら3人全員からヒットを打ちたい。そうすればきっと、文句なしに特待生に選ばれるはずだからな!)


 相変わらず、中村の手は震えていた。しかし、この震えは経った今、緊張によるものから武者震いへと変わったのだった。

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