第466話 特待生選抜試験~野手編~⑤

 そんな強きな態度で初球のスライダーを投げる吉田。


「パンッ!」


「ストライク!」


 得意の低めにきた初球を思い切り振っていった中村だったが、鋭く曲がるスライダーを全く捉えられず空振りした。そして、続く2球目も……。


「パンッ!」


「ストライク!」


 内角低めへと大きく曲がってきたカーブに、思わず腰が引けて見逃してしまう中村。


(すごい! 変化球のキレが半端ないな。どっちも得意の低めの球だったのに全然打てなかった。これが甲子園レベルのピッチャーの実力か)


 吉田の投球レベルの高さに素直に感動する中村。


(だけどこのままじゃ終わったんじゃ、せっかくわざわざ鹿児島からきた高い交通費が無駄になっちまう!)


 一呼吸ついてから、鋭い眼光で吉田を睨みつけながら再びあのゴルフ打ちの構えをする中村。


「低めにこい低めにこい低めにこい……」


 呪文のように呟き続ける中村の声を、西郷は聞き逃さなかった。


(そんな声に出したら狙いがバレバレたい。だが可愛い後輩のためにもあえて投げてやるばい。吉田先輩の十八番チェンジアップを、真ん中低めにな!)


 チェンジアップのサインを出して、地面スレスレにミットを構える西郷。そのミット目掛けて、渾身のチェンジアップを投げ込む吉田。ストライクゾーンから、ストンと高度を下げて地面スレスレまで落ちていく、まさに教科書通りの理想的なチェンジアップ。普通のバッターなら空振りしてしまうであろうチェンジアップだが、あいにく中村は普通の選手ではなかった。


「カキーン!」


 バットの先端でなんとか捉えたその打球は、センター前ヒットとなった。


(吉田先輩のチェンジアップは完璧だったばい。それなのに……)


(あの球をヒットにされたんじゃ、もう笑うしかないな)


 まさかの中村のヒットにショックを受ける西郷と、ショックを通り越して笑い出した吉田。


(あっぶねーなんとか先端に引っ掛かってくれた。にしてもあんなにストンと落ちてくるとはな。やっぱすげー)


 運よくヒットになってくれて喜びながらも、相変わらず吉田の高い投球技術に驚かされていた中村。


(前に飛ばすどころかヒットにしやがった)


 予想外の中村の活躍に驚く鈴井監督。しかし、鈴井監督がさらに驚かされるのはそれからわずか1分後のことだった。


「カキーン!」

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