待ってるよ、お姉ちゃん

それから数十年後。

あの子はずっとパークで幸せに暮らしていたが、今ではすっかり歳を取り、寝て過ごす事が多くなっていた。

彼は居住エリアで、イエイヌと一緒に暮らしていた。

時折フレンズが訪ねてきた。そんな時はアムールトラの事を話したり、ポイポイの記録映像を見せてあげたりした。


ある朝、あの子がベッドで目を覚ますと、イエイヌがやってきて、彼の顔をのぞき込みながら嬉しそうに挨拶をした。


イエイヌ「おはようございまーす。表に誰か来たみたいなので、ちょっと見てきますね。」

そう言うと、イエイヌは玄関から出て行った。彼は少し首を動かして、その後ろ姿を見送った。


話の途中から、彼にはイエイヌの声が聞こえなくなっていた。それになんだか、体の周りにキラキラしているものが見える。

彼はふうっと息を吐くと、枕元のポイポイに声をかけた。

あの子「おはよう、ポイポイ。」


ポイポイ「オハヨウ。今朝ハ気持チノイイ青空ダヨ。」


あの子「ごめんねポイポイ、僕はそろそろ、行かなきゃならないみたいだ。こんなことを頼むのは申し訳ないけど、どうかパークのみんなを見守りながら、アムールお姉ちゃんが起きるまで待っててあげてね。」

そう言い終えると、急に体が軽くなった。


気がつくと彼は子供の時の姿で空に浮いていて、体中が輝きに包まれていた。すると傍に職員夫婦が現れた。2人とも彼を見て微笑んでいる。


そして体が徐々に光の粒となり、少しずつ空に消えてゆく。

あの子「イエイヌさんが言った通りだ。」


そこから見下ろすと、家の窓から空になったベッドと、枕元で彼の方を見ているポイポイが見えた。


あの子「パークのみんな、今までありがとう。僕はずっと、空からみんなを見ているよ。そしてアムールお姉ちゃん、必ず帰ってきてね。いつまでも待ってるからね。」


3人は輝きとなって、風と一緒に空へと散っていった。そして、それをじっと見ていたポイポイがこう呟いた。

ポイポイ「マカセテ。」



しばらくして、何も知らないイエイヌが、2人のフレンズを連れて帰ってきた。

イエイヌ「あれ、ボスだけですか?一人でお散歩に行ったのかな。カラカルさんが新しいお友達と一緒に遊びにきてくれたのに。」


カラカル「元気があっていいじゃない。帰ってきたら、またお話を聞かせてもらいましょ。ね、サーバル。」


サーバル「うん!どんなヒトなんだろう、楽しみだなー。」



イエイヌのおうちの中に、彼女達の明るい話し声が響き渡った。

そして窓から穏やかな日差しとともに、清々しい風が流れ込んできた。

ポイポイはベッドの上で、その様子を静かに見守っていた。

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アムールトラ/ビーストのきせき 今日坂 @kyousaka

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