第4話 兄を溺愛する両親に、虐げられた妹の話

私の名前はノゾミ 今年で25歳になる

 優しい旦那に可愛らしい娘の三人暮らしをしている

 旦那の仕事も、私の仕事にも問題ないし、とても幸せだ

 そんな私だが今までの人生に困難が無かったわけじゃない

 いや、それなりの困難があったと言ってもいいだろう


 もう縁を切っているつもりだが、私の実家は

 両親、兄のトシアキ、私の4人家族だったんだけど

 兄と私とでは両親、特に母からの待遇に凄い差があった

 確かに兄は優秀で、中学、高校の成績は常にトップクラス

 国立大もストレートで入ったほどだ


 それに比べて私の成績は常に平均よりちょっと上

 どれほど頑張っても、それ以上には行けなかった

 当然、両親の期待は兄に集中、そうなると

 元々暴君だった兄は、あからさまに私を見下し

 きかいがあれば、私を虐めてくるし

 私の物やバイトで稼いだお金まで奪っていくありさまだ

 その事を両親にいくら訴えた所で、まるで取り合ってくれない

 それどころか母親に至っては、逆に私を叱ってくるほどだ

 

 そんな、中学、高校生活を送ってきたのだが


「高校まで卒業させてやったんだ

もう一人でやって行けるだろうし

 とっとと独り立ちしろ」

 

 そう言われ、家を出されることになった

 まあ、私もそうなるだろうと覚悟はしていたし

 なにより、兄や両親にもう家族としての情がまったく

 わかないようになっていたので、家を出るのは

 こちらとしても願ったりかなったり、だったりしたのが

 高卒での就職はやはり、ハンデがありそれなりに苦労はしたが

 あのまま家に残ることを考えれば、何でもなかったし

 なにより自分が稼いだ、お金が兄に取られないのだ

 頑張ればそれだけ、稼げる訳じゃないけれど

 本当に気持ちよく仕事に集中できた

 

 そのおかげもあるのだろうか

 旦那とも職場で、出会いそのまま3年のお付き合い後

 結婚、その次の歳には娘を出産

 娘の手がある程度かからなくなったところで

 復職もした、旦那の稼ぎだけでも生活に問題は無いが

 自分でも言うのもなんだけど、貧乏性って言うのか

 働いていないと、不安になるというか

 まあ、そのへんはいいでしょう


 そんな、日々を過ごしていたのだが


「ブーン」「ブーン」

 バイブに気付き画面を見ると

 実家からか・・・もう何年も連絡が無かったんだけど

 何だろう、この前話した時は

 私からで、いちおうは娘の誕生くらいは

教えとこうとしたのだけれど

 私の子供には興味がないのか、報告はほんの1分もかからずに終わった

 嫌だけど、このまま無視するわけにもいかない

覚悟を決めることにする


「はい、もしもし」


「ノゾミかなんですぐに出ないんだ」


 うわ・・兄さんか・・


「仕事中なんだし、しょうがないでしょう」


「なんだと、随分と偉くなったものだな

え・・・いつから俺にそんな

 口が利けるようになったんだ?」


 本当に沸点の低い男だ

相変らず自分は王様だとでも思っているのだろう

 

「用事がないなら切るよ」


「おいまて・・用事がなければ掛ける訳ないだろう」


「じゃあ、早くその要件を話してくれない?」


「ち・・・親父が死んだ・・・

それくらいはお前にも教えとこうと思ってな

 どうする葬式にはくるのか?」


 そうか父さんが、死んだんだ・・・どうしよか・・

 葬式には出るべきなんだろうけど、今更私が行っても

 父さんも、喜ばないだろうしな


「どちらでもいいんだけど・・私が出てもいいの?」


 面倒だし、来るなって言ってもらっても

構わないんだけど


「そうだな・・俺様は心が広いからな

お前も最後の別れくらいして構わないぞ」


 相変らず意味不明の上から目線にイラっとするが

 もう、行くしかないのか


「解ったわ」


そう短く答え、電話を切る


「はあ・・取り敢えず旦那に連絡して

あと会社に忌引きの連絡して・・

あと・・お義母さんに娘を預かって貰って

 そんなところかな?」


 

 

 久ぶりの実家、7年ぶりか

特に変わりはないみたいね

 本当なら旦那も、来るべきなんだろうけど

 あえて、来ないでもらった、それは正解だったわね


「相変らず不細工だな、お前みたいな女でも

 嫁に貰い手が有ったらしいが、まあ旦那も

 お前と同じレベルのやつなんだろうけどな」


 そう、いきなりニヤニヤしながら、私を煽ってくる

 相変らず、歪んでいるやつだな

親の顔が見てみたいわね

 話しても、イライラするだけだし

スルーしたいんだけど

 

「おい、挨拶もまともに出来ないのか?

やっぱり高卒は常識もないな」


「ちょっと・・周りの目も少しは気にしたら?」


「うるさいな・・あとお前の旦那は

なんで来てないんだ?」


「だって、1回もあったこともない、他人なんだし

来てもしょうがないでしょう」


「はあ?・・どこまで常識がないんだ、これだから高卒は」


 高卒、高卒うるさいな


「はいはい、国立大卒と違うんで、許してくださいね」


 と、嫌味を言ったところで、母さんが割り込んでくる


「二人ともいい加減にしなさい

お父さんのお別れなのに

 葬式で兄妹喧嘩するなんて」


 母さんに言われたくないけど

まあ言ってる事は確かにその通りでもあるし

 周りの親戚の目も痛いし

兄さんは適当に相手にする事にするか





「おい・・お前は遺産放棄しろよ」

そう言って、私を睨みつけてくる

 おいおい・・精進落としの席での第一声がそれかよ

 本当に呆れるしかない

まあこんな家に未練はないし

 それで、縁が切れるならそれでもいいか


「別に構わないわよ、その代わり

母さんの面倒は兄さんが見てね

 私は、この家から一切手を引かせてもらうから」


「家や母さんの事は、お前が気にする必要はない

もう二度と連絡をしてくるんじゃないぞ」


 いやいや、もう連絡したくないのは

こっちも同じなんだけど

 いや・・・・私にもまだ未練があったんだな

 

「解りました、遺産放棄は間違いなくするから

兄さんも約束守ってよね」


 私が念押しすると、兄はうざそうに


「何回も言うな、お前こそ、二度と連絡してくるなよ」


 そんなやり取りを、していた間

母さんは空気だった

 まあ・・私の事はどうでもいいんだろうし

 愛する兄さんと、これからも暮していけるのだし

 問題は無いんだろう

 嫌な言い方になるけど

次は母さんに何かあった時なんだろうなと

 なんとなく思いながら、実家にさよならをした




 そんな事があってから2年後

私の生活はとくに変わりなく

 すこし退屈だが家族3人幸せな

生活をしていたのだが

 ある土曜日の午後


「ピンポーン、ピンポーン」


 このチャイムが

本当の意味での清算の始まりになるとは


「はいはい、、今出ますよ」


そう言いドアを開くと


「・・・え?・・・母さん・・・突然どうしたの?」

 

 なんだろう?オドオドしてると言いうか

 疲れてるというか?やつれてる?

 どちらにしても、嫌な予感しかしなかったので


「元気そうね・・じゃあ」


そう言い、すぐに扉を閉めようとしたが


「まって・・母親が訪ねてきたってのに

なんでそんなに冷たいの」


「いや・・なんで冷たくされるか

本当に解ってないなら

 少し自分を見直した方がいいわよ?」


 本当に解らないなら

少なくとも私とは話もできない

 話すだけ無駄だろう


「うぅぅぅ・・・お願い入れて・・助けて頂戴」


 うわーー何事なの? 

もう助ける義理はないんだけど

 そこで泣かれるのはご近所の目が


「解ったから、早く入って」


 お母さんを連れて居間にきたのだが

娘と遊んでいた旦那は

 ポカーンとした顔をみせ 

「あの・・・どちら様?」


「ごめんね、母です」

「そのそれでちょっと悪いんだけど

 娘と外でちょと遊んできて

もらえなかな?今夜、話すから」


 旦那はもちろん、私の事情は知っている

 私と母さんを、交互にみると


「よしカオリ・・父さんと買い物にいくか

プ〇キュア買ってやるぞ」


「駄目よ、この前買ったばかりなんだから」


 娘のご機嫌取が〇リキュアしか思いつかない

旦那は渋い顔をし始めるが

 私は引かない・・・

溜息を付くと旦那は黙って娘と外に

 ちょっと、悪いことしたな

この事も後で謝っておかないとな


「母さんそこに座って」

お茶をだすか少し迷ったが

 それくらいは、良いだろうと

お茶の用意をする


「で・・・なんのようなの?」


「助けて欲しいのよ」


「いや、あのね、なにがあったのかしらないけど

 なんで私に助けて貰えると思ってるのか

 まずそれが理解できないんだけど?」


 とりつく、すきをあたえるつもりは無いので

 わざとらしい、くらい冷たい声を出す事にすると

 いきなり、泣き叫び始めた

 げ・・・失敗した?

なに不安定すぎるんだけど

 ・・・演技じゃないよね?

 取り敢えず何もせずに

母さんが落ち着くのを待つことにする




「その・・兄さんに連絡して迎えに来てもらうね」


 そう私が言うと

まだ下を向いて泣いていた母さんは

 すごい勢いで顔を上げると


「だめ・・トシアキには知らせないで・・殺されちゃう」


 なに・・この尋常じゃない、脅えようは?

 なんとなく予想はつくんだけど

 泣きながら事情を話す母さんの話は

いまいち解りづらかったが


 要約するとこういう事なんだろう


 驚いた事に兄はなんと、大学卒業後、就職したが

 上司とそりが、合わないと半年も持たずに退職

 その後、暫くは転職活動をしていたらしいが

それもうまくいかず

 そのまま、家に引き籠るようになったそうだ

 それでも、父親が生きてる時はまだ

ましだったのだが

 いまでは、DVじみた事までされてると


「いや・・ほんと兄さんや実家から早く逃げて

よかった、まあ甘やかして育てた母さんの

責任でもあるけど、それを今言っても

 いまさら、しょうがないしね」


 私がしみじみ、母さんに言い聞かせるように口にすると


「ノゾミちゃんお願い暫く

母さんをここに置いて、頂戴

 家事でも、孫の面倒でもなんでするから」


「いや、間に合ってるんで、家に帰ってください」


 即答する私に、また涙ぐむと


「ノゾミちゃん、今までの事は謝るから

お願い助けて

 私はあなたの、母親なのよ」


「自分が都合悪くなったからって

突然、母親ずらしないでください

 私の家族は旦那と娘それに旦那の両親だけです

 それに叔父さんとか叔母さんとか、親戚に頼れば?」


 軽く睨みながら言うと、母さんは俯きながら


「親戚にはもう助けてくれる人もいないの」


「え?なんで?」

「あんまり気にしてなかったけど

お父さんの葬式の時は

別に普通にみえたんだけど?」


「うん・・あの葬式が最後の

きっかけになったみたいで

 ほとんどの親戚に絶縁状をだされたのよ」


「そうなんだ・・もしかして私のせいじゃないよね?」


 ちがうとはおもうけど、もし私のせいなら、

 多少は罪悪感を感じないでもないんだけど


 当たり前だけど、母さんは首を横に振り


「親戚がノゾミちゃんの事どう思っているのか

あんまり知らないけど

 それよりトシアキの事が原因だと思う

 元々、いい歳して無職で家にどじこって評判悪いのに

 たまに親戚で集まれば

いつもあの態度で、トラブルを起こすし

 そのうえ葬式の時のノゾミちゃんへの態度でね」


「たしかにね・・お父さんの葬式だってのに

あの態度常識があるなら

もう兄さんと距離置こうと思うわよね」

 

「ええ・・父さんが生きていたから付き合いも

してくれてたけど

 もう、だれも相手してくれなくて」


 なるほどね、それで、最後に私を頼ってきたのか


「母さん申し訳ないんだけど、私には幼い娘もいるし

 そんな危険をおかせない、悪い事言わないから

 兄さんの居ない所に逃げたほうがいいよ」


「ノゾミちゃん、お願いもう

私には頼れるところが本当に無いの

 トシアキの所に戻されたら

いづれは、父さんの遺産を全部

 吸いつくされて、その後はいびり殺される」


「父さんの遺産か・・兄さん

私の分も貰ったろうし母さんと半分ずつ

 貰ったんだよね?・・いくらか知れないけど」


「うん、、母さんがあの家と1000万

トシアキに現金で1000万って所だったわ」


「1000万か、そこそこ貰えたんだね

あのもしかして

 兄さん1000万2年で使い切ったとか?」


「たぶん・・この頃、私にお金を

貸してくれって言ってくるようになって」


「光熱費とか食費とか兄さんがだしてるの?」


「いいえ、トシアキは家に1銭もお金を入れた事はないわ」


「うわーーほんとのクズね

でもじゃあ、なにに、お金使ったの

 パチンコとかしてるの?」


「それがね、お母さんもよく知らないんだけど

ゲームに課金してるとかで」


「なに、もしかしてガチャに

1000万も溶かしたの?馬鹿じゃないの」   


 もう呆れるしかないのだが

母さんには呆れるとかじゃないんだろう

 悲しい顔をしながら、しみじみと呟く


「お父さんの最後の言いつけを守ればよかった」


「父さんのいいつけ?」


「お父さん、死ぬちょっと前に言ってたの

トシアキはもうダメだ育て方を間違えた

親として最後にしてやれるのが遺産を残す事だが

 どうせその遺産もいずれ食いつぶす、だから

 葬式が終わったら、お前もトシアキを

捨てて逃げろって言っていたのに」


 へえ・・そんな事を父さんがね、仕事ばかりで

 家族の事なんか見てないと思ったんだけど


「そうだね、父さんの言う事聞いておくべきだったね

 父さんもだけど、私にとっても

あの葬式が家族としての最後だったし

 冷たいようだけど何度もいうね

もう母さんは家族じゃない

 その母さんの為になにかしようとは思えないの」


 私の宣言に、母さんはもう泣くことも止め

呆然として私の顔を見つめている


「じゃあ母さん・・駅まで送るから、もう尋ねてこないでね」


 私も母さんの目を見つめ返しながら

その手を取り立たせる

 駅に消えて行く母さんの後ろ姿

 もう、、生きている姿を見れるのは最後かもしれない

 そう思うと、すこし目頭が熱くなってくる

 私にも、ほんのちょっとは

家族の情がのこっていたのだろうか



 夕飯のあと旦那に、すべてを話すと

 旦那は晩酌のビールを飲みながら聞いてくる


「本当にそれでいいのか?

お義母さん、これから死ぬまで

 生き地獄を、味わう事になるぞ?」


 そうはっきり、指摘されると・・答えにくいが

 もう私の中では決まっていることだ


「うん、、母さんがどうなるか

わかるし、可哀そうだとはおもうけど

 もう軽い気持ちで手を出せない

あなたや娘も危険に巻き込めないわ」


 私がすべて言うまで、黙って聞いてくれると

 

「俺は助けてあげても

いいんじゃないかとも思うぞ

 まあ、お義母さんが地獄に

落ちて欲しいと思っているほど

 憎んでるなら・・もうなにも言わないがな」


 地獄に落ちて欲しいか、

旦那はもうなにも言わずに

 私の方を見ていてくれる


「はーーーーーー」 

大きく溜息を付き、私の覚悟は決まった


「お願いがあるんだけど、母さんを助けたい

手伝ってもらってもいいかな?」


 旦那はにこりとすると


「おう」


 


「母さん」買い物に出た

母さんに声を掛けると脅えたような、目で私を見てくる


「ノゾミちゃん?」


「母さん・・・・助けに来たわ」





 何を言われているのか暫く理解できなったのだろうが

 突然、糸の切れた人形のように膝をつくと

 そのまま号泣する

 

「母さん・・でも助けるのはこれが最後よ

 悪いけど、今までと変わらず、私達は他人だからね」


 まだ泣いている母さんにそう言うと

解ったのか軽く頷いていた


「じゃあ、この睡眠導入剤を上手く食事に混ぜてね

 今夜22時に旦那とまた来るから」





 睡眠導入剤が効いたのか

それとも日常的に飲んでるらしいお酒のせいか

 私の眼の前でだらしなく爆睡している兄さんの体を

旦那と一緒にホームセンターで買ってきた

インシュロックとガムテープでの拘束が終わる


「母さん、タライかおけ貸して」

すぐに風呂桶を持ってきてくれたので

 水を一杯に汲むと

そのまま兄さんに水を思いっきりブッカケル


「うわーーー」

何が起きたのか理解できず

キョロキョロと周りを

 見回す滑稽な姿の兄さんを見下ろしていると

 ようやく、私の姿に気づいたのか


「お前・・ノゾミ・・・なんのつもりだ?」

 

 そう叫び私を睨むが

すぐに自分が拘束されていることに


「おい・・ふざけるな、すぐに自由にしろ

お前らタダで済むとおもうなよ」


「ふざけてないし、勿論ただで済ます気はないよ

 逆に聞きたいんだけど、タダで済むと思ってるの?」


 そう私が冷たく答えると

ごくりと唾を飲む音が聞こえてくる


「なにがねらいだ・・・なにする気だ?」


「いや、、兄さんみたいなDVまでするクソニートを

 どうしたらいいと思う?、国立大出のエリート様

 なんだから、わかるよね?」


 口ごもる、兄さんを見下したまま


「なんだ、わからないんだ?

やっぱり兄さんは、

 なんの役にも立たない人間なんだね」


「ふざけるな・・・俺はお前たちとは違うんだ

 お前みたいな高卒とちがうんだからな」


「はあ・・哀れよね、大昔の栄光しか

すがれるものが無いなんてね

 でもそうね・・・そんな大昔の頃から

私も兄さんが嫌いだったし

 恨みがあるから、同じものなのかな?」


 そう恨みのこもった目で睨んでやると、この状態には

 さすがに恐怖を感じるのだろう、震える兄さんをみて

 随分足りないとは思うが、昔の恨みを忘れることにする


「ははは、冗談よ兄さん、でもその顔、傑作ね

 まあ、いつまでも話してても、しょうがないし

 これからの予定を話しとくね」


「まずね、、兄さんみたいなニートを引き取ってくれる

 更生施設に入ってもらうから

場所は何処か言えないけど

 すごい山の中らしいから

ネットもないしスマフォの電波も

届かない所らしいんでちょっと暇かもしれないけど

頑張って一人で生きていけるようになってね

 ちなみに1年分の料金はもう前払いしてるんで

その間に何とかしてね」


 いっきにそこまで説明すると、当り前だが不満をぶつけてくる


「ふざけるな、ぜったいにそんな所に行かないぞ」


「何言ってるの?兄さんに行ってなんて

お願いしてないよ

 行けって命令してるんだよ」


「俺に命令だと、なに様のつもりだよ」


「いや、もうそういうのいいからじゃあ、行きましょうか」


 後ろにいる旦那に目配せすると

持っていた布袋を兄さんに被せ

 兄さんの足を持つと引きずっていくのだが


「あの兄さんあんまり暴れないでくれる?

ダメかちょっと止まって」


 また風呂桶に水を汲んでくると、袋にこぼす

 おお・・・かなり苦しそうね

逆に暴れる兄さんが疲れて動かなく

 なるまで待ち


「ほら、まだ暴れるなら、もう一回いくよ?」


「むう・・・ぶば」


「ごめんなんか、こもってて

何言ってるかわからないし

 用心のためもう一回いっとくね」


 そういい水をまた布袋にかける

 すごい苦しいんだろうな

あまりの暴れっぷりに引いてしまうが

静かになった所でさすがに

窒息死しそうなので布袋をはずす


「えーーと・・・別に殺したい訳じゃないんで

そろそろ大人しくしてね」


 まともに息が吸えない状態で

全力で暴れたんだかなり疲れたんだろう

 ぐっったりとして涙を流している

 おとなしくなったみたいなので、旦那に目配せすると

 旦那は頷き、兄さんの足を持って、引きずり車に乗せた




 それを見送っていた母さんが、私にお礼を言ってくる


「ありがとう、ノゾミちゃん、本当にありがとう」


「あのね、母さんまだ終わってないからね

 あいつは1年で戻ってくるんだから

 それまでに、この家売って・・

だれも知らない場所に逃げるんだよ」


 母さんは、複雑な顔をすると頷いた


「私も引っ越すし、携帯の番号も変えるから

 これで母さんとも、お別れね

もう生きているうちに会う事はないから」


 まだ複雑な表情のまま、さらに頷く母さん

 兄さんは確かに1年で戻ってくるが

もしかしたら

 その1年でまともになるかもしれないし

ならないかもしれない

 母さんも、これからどうするのかも、解らない


 でももうどうでもいい、後の事は

 お互い自分たちでどうにかするしかない

 そう、本当に両親と兄、、すべてと縁が切れたんだ


「ああ・・・スッキリしたーー」


読了ありがとうございます

You Tubeでも配信中ですので

よろしければそちらも覗いてみてください

https://www.youtube.com/channel/UCqYZ2G81hDAyyJm1VkUWuEQ

ニコニコ動画版

https://www.nicovideo.jp/watch/sm43867344?ref=garage_share_other

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