第2話 引き籠りニートの姉が、妹に虐められ

 私の名前はノゾミ 今年で25歳になる引き籠りのニートだ

 もう8年も殆ど家から出ず、

 この部屋の中でゲームとネットだけで生きている

 私が引き籠りになったのは高校の時に、虐めにあい

 不登校になってからだ、、、


「ノゾミ・・・ゆっくりでいいのよ・・・無理しないでいいからね」


 そう言い、私を見守ってくれている

 優しい両親には感謝してもしきれない

 だが・・・そんな生活に罪悪感を抱いてない訳じゃないのだが

 外に出るのは怖いし、この部屋は居心地がいいし

 ズルズルとニート生活を続けてしまっているが

 一人それが気に食わない人間がいる

 それは、2歳年下の妹のカオリだ


「ちょっとこのニート、パラサイト、クズ

 とっとと出て行きなさいよ」


 そう、顔を合わせるたびに思いつく罵声を浴びせてくる

 たしかに、間違いじゃないけど、言い過ぎなんじゃ?

 そう言い返すと


「はあ・・・・今のアンタは、あたしの姉でもなければ

 人間でもないのよ、パラサイトが人間の言葉を

 話してるんじゃないわよ」


 と、とりつくしまもない


「ちょっとかカオリちゃん、お姉ちゃんは、心に

 とても深い傷をつけられたのよ、しょうがないじゃない

 私達家族が支えてあげないと」


 そうお母さんは、私の事を庇ってくれるが

 それも妹にも気に入らないのだろう


「そうやって母さんや、父さんがいつまでも

 甘やかすから、このパラサイトがいつまでも人間になれないのよ

 こんなパラサイトが実の姉だなんて

 恥ずかしくて彼氏を家に呼ぶことも出来ないんだよ

 もう、彼との仲になにか問題が起きたらどうしてくれるの?」


 妹には結婚を前提にしている彼氏がいるらしいのだが

 私も両親も、あったことがない

 両親はそれが不満で、私の事以外でもこの頃は妹と

 よく揉めていたりする


「お父さんも、私も、一度もあったことないまま結婚だなんて

 認めませんからね」


 おかげで、両親と妹の仲はかなり険悪になってるし

 そんな、お母さんにムッと来たのか

 妹は不機嫌に顔になると


「べつに、認めて貰わなくても構わないから」


 切れ気味のカオリの顔を、母さんも睨みながら


「あなたの、お相手もそう言ってるの?、だとしたら随分と

 常識のない人なのね」


「うるさいわね、こんなパラサイトの姉や、甘やかすだけで

 何もしない、毒親が家族なんて、紹介できるわけがないでしょう」


 私の事は、本当の事だからしょうがないけど

 こんな私を支えてくれる優しい両親まで毒親扱い

 あまりの事に、さすがに頭に来るが

 妹に怒鳴るなんて、そんな度胸は私には無い

 そんな私を見てさらに、イライラしたのだろう

 舌打ちすると自分の部屋に戻っていく


「待ちなさい、まだ話は終わっていませんよ

 ちょっと、待ちなさい」


「うるさい・・・・こっちにはないから」


 



 それから、3ヶ月たったある日

 カオリはまだ、気に入らないようだが

 彼氏は、ご両親が健在で縁を切ってる訳でも

 無いのに、挨拶しないのは、おかしいと言って

 挨拶に来ることになったんだけど

 もちろんその間、私はカオリの命令で部屋に

 引き籠っていろと言われている

 まあ、そちらの方が、私もありがたいんだけど

 

 早く帰ってくれないかとゲームをしていたら

 ドアを叩く音に気付き、ヘッドホンを外すと


「ノゾミ、あなたもカオリの婚約者にご挨拶しなさい」


 え?・・・・お母さんの突然の言葉にビックリした私は


「でも、カオリが顔だすなって?」


「そうなんだけど、、トシアキさんが、どうしても

 姉になる人に挨拶したいって、聞かなくて」


 うーーーん、トシアキさん?それが妹の相手なのね

 だけど、カオリも怒るだろうし、私も会いたくないし


「お母さん、あの、コミュ症なんで部屋から出たくないって

 言ってもらえる?」


「トシアキさんには、あなたの事情は聞いてもらっているから

 心配しないでも大丈夫よ」


 遠慮したいんだけど、お母さんは許してくれそうにない

 

「うん・・・解ったよ、でもこのままの格好でもいいのかな?」


 私は、いつものジャージ姿だ、恥ずかしがる私をチラッと見ると


「大丈夫よ、さっきも言ったけどあなたの事は、だいたい話しているし

 トシアキさんも、いい人そうだし」


 本当に気が進まないが、逃げれそうにない


「うん・・・・・はあーーー」


 お母さんと一緒に階段を降り、応接間に入ると

 父さん、カオリ、そしてあの人がトシアキさんなんだろう

 三人が私を見つめている・・・

 カオリの鋭い視線やトシアキさんの目踏みするような視線に

 ひるみながら・・・・ソファーに座る


「トシアキさん、この子がカオリの姉のノゾミです」


 そう、お母さんが、トシアキさんに紹介してくれると


「初めまして義姉さん、トシアキです、カオリさんと

 お付き合いさせてもらっています」


 なるほど、カオリが自慢するだけあって、イケメンだ

 イケメンはおろか、男子とはまともに話したこともない

 私は、オロオロするばかりで言葉が出てこない

 そんな私の姿を見て、イラついたのだろう


「もう、いいからお姉ちゃんは、部屋に戻ってて」


 ちょっとキツイ言い方だが、いつもに比べれば

 だいぶ優しめだ、すこし笑顔が硬いが

 そんなカオリの言葉に、お母さんは、眉を顰めると


「カオリちゃん、お姉さんが、一生懸命挨拶しようとしているのが

 解らないの?・・本当に冷たい子ね」


「ちょ」そこでカオリの言葉は止まる、トシアキさんの前だし

 家族と争ってる姿を見せたくないんだろう

 だけど、もしかしたらちょっと遅かったかもしれない

 すでにトシアキさんは、すこし冷めた目でカオリを見始めている

 その雰囲気に気付いたんだろう、妹は慌てたように

 言い訳をし始める


「ちがうのよトシアキさん、これは姉の為なの」


 そう少し震えぎみに口にするが、その言葉に被せるように

 お母さんが口を開く


「あら、いつもパラサイト、クズ、寄生虫って怒鳴ってるに

 今日は随分控えめなのね?」 


 凍り付く一同、、いやお母さん

 それはちょっと今は、まずいんじゃ

 トシアキさんが、わざとらしく咳ばらいをすると


「ウホン・・・その今日は、そろそろ、帰りますね」


 そう慌てながらも、取り繕うと

 トシアキさんは立ち上がり、家を出て行く

 カオリは正気を取り戻すと、トシアキさんを追っていったが

 30分後くらいで戻ってくると

 お母さんと凄い口げんかを始める

 ああ・・また私のせいで家族が争っている

 その事に、辛くなり、部屋に戻ろうとすると


「ちょっと、パラサイト、部屋から出るなって言ったでしょう

 言いつけも守れないの、このグズ」


 横に居るお母さん、お父さんがヒートアップ

 だめだ・・・三人とも熱くなり始めて

 私じゃ口出しできない、そう諦め、立っている事しかできなかった



 その後のことだが、トシアキさんとは別れることになったらしい

 その事では、またカオリに罵られたが、それはしょうがない

 それよりも、今回の一件が両親と妹の間に

 埋めようのない溝を作ってしまったようだ  

 ほぼ絶縁状態でカオリは家を出ることになった


「気が強く、人の気持ちが解らない、あんたなんかもう

 娘じゃないから、どこにでも行けばいいわ」


 そうお母さんが怒鳴れば、妹も負けずに


「は?人の気持ちが解らない?、それはそっちでしょう

 せいぜいそのパラサイトと家族ごっこしてればいいわ

 後で困っても私に頼らないでよね」


 そう言い捨てると妹は家を出て行ったのだが

 カオリが出て行くときに、また私を睨みながら

 

「このパラサイト・・・いい加減、いつまでも傷ついたとか

 言ってるんじゃないよ、せいぜい両親にすがりついて

 生きる事ね、このクズ」


 私は怖くて、カオリの目を見ることは、あまりなかったが

 最後だしついカオリの目をチラッとだが

 予想はしていたが、こんなに冷たい目をしてるとは思わなかった

 冷たいというか、私を蔑んでいるのかもしれない

 本気で私の事をパラサイトだと思っているんだろう事が解る

 

「まあ・・本当に人を思いやる心が無いのね・・そんなだから

 恋人や家族に捨てられるのよ

 少しは頭を冷やして自分の行動がどれだけ

 周りを傷つけたか考える事ね」


 お母さんは、私を庇いそんな事を言ってくれるが

 カオリのあの目に、私は初めて 悔しいって感情が湧いてきた

 それからの、私は自分の趣味でもあるイラストでなんとか

 お金を稼ぐことが出来ないかと、自宅にこもりながら

 努力した・・・・

 

 


 カオリが家を出て行き5年の歳月が流れた

 そのあいだ、カオリからの連絡は一切なく

 私も家族もカオリの事を忘れかけていた


 私と言えば、あの時から始めた、フリーランスの

 イラストレーターだが・・・正直、まだお小遣い程度しか

 稼げてはいないが、でも大事な私の仕事だ

 一生懸命やってるし、外との繋がりも多少は出来た

 

 今日はその、数少ない打ち合わせのために外に出た

 私も少しは、成長で来たんだろう何とか外にでれるようなった

 まあ、まだ人と接するのは苦手で、なるべく外に

 出ずにすましてはいるんだけど


 クライアントとの打ち合わせが終わり

 駅まで、歩いてる時だった

 

「あーー」後ろから声が聞こえてくる

 後ろを振り返ると「あー」私も驚いて声を出してしまう

 そこには、5年ぶりの妹、カオリが立っていた

 相変らず、気の強よそうな目で私を見ている


「へえ・・・外に出るようになったんだ・・ねえ少し時間ある?」


 そうカオリが言ってきた・・なんだろう少し怖かったが私は頷き

 後ろに付いて行った

 適当なファミレスを見つけると、カオリがここでいいかと

 聞いてきたんで、また頷いた


「ねえ、まだあの家にいるんだよね?」


 そう話を私に振ってくるので

 別に嘘をつくことじゃないし今の

 私の生活を話した


「へえ・・・・まあ、小遣い程度とはいえ自分で稼いで

 外に出るようになったのは、少しは、ましになったのね」


 興味深そうに、私をみているので

 ちょと居心地が悪くなる


「カオリは、あれからどうしてるの?」


 カオリは不機嫌そうな顔になると


「私の方はいいこと何もなしね、恋人もなくし、家族もなくし

 トシアキさんは同じ会社だから、へんな噂がたってすごい

 いずらいし・・・本当に最悪」


「そうなんだ」なんて言っていいか、解らないでいると


 そんな私をみて、すこしイラっとしたのか

 声を荒げると


「なに・・・あたしが、上手くいってないのが嬉しいの?」


「そんなことないよ・・・」

 

 そうどもりながら、慌てて答えると

 疑わし気な視線を向けてくるが

 

「まあいいわ・・・ちょっと話すかどうか悩んでいるんだけど

 あんたさ、もしそのイラストレーターの仕事で

 自分一人で暮らせるくらい稼げるようになったら

 あの、家出るつもりとかあったりする?」


 突然の質問に、カオリの真意が解らずどう答えるか迷うが

 別に、隠す事もないし、本当の事言うか


「考えた事あんまり、無いんだけど

 やっぱり・・・・でたほうがいいのかな?」


 逆に聞き返すと


「いや、そんなのは、自分で決めてよ・・・

 もし・・・出る気があるなら、話しといたほうが良いのかな?」


 さっきから、なんなんだろう?そこまで言われるときになるんだけど


「あの・・・もう話してよ・・・言いたいんでしょう?」


「そうね・・・確かに話したいんだけど


覚悟してね聞いたら後悔するからそれでもいい?」


 そう言うと私を真剣な目で見てくる

 え?・・なに?・・・怖いんだけど 

 

「あの・・・そこまで言われると聞かない訳にはいかなくない?」


「そうね・・・もしね姉さんがあの家を出る気になったとするじゃない

 その時は、絶対に母さんたちに相談しちゃダメよ

 絶対にあの家から、出そうとしないから」


「え・・・なんで?」


「たぶん、姉さんが一人でやっていける訳がない、心配だって言うと

 思うけど・・・まあ、たしかに、あたしの目から見ても姉さん一人で

 暮らさせるのか心配だけど、理由はそれだけじゃない

 姉さんにあることが、バレたら困るからよ」


「え?・・・何がバレたら困るの?」


 もういい加減もったいぶらないで教えて欲しい

 ちょっと、うんざりし始めた私に気づたのか


「じゃあ、ズバリ言うわね、姉さんの戸籍よ」


「私の戸籍?・・・・・・・なんで?」


「私ねず~と不思議だったのよ、いくら我が子が可愛いとはいえ

 引き籠りのニートになった、姉さんを甘やかしすぎるってね」


 あれ?私の戸籍の話から取んだけど?

 なに、私や両親の悪口が言いたいの?ちょと、ムッとすると


「あの、その話かんけいあるの?」


「あるよ・・・・あたし、姉さんにず~と言ってたよね

 パラサイト、クズ、ゴミって・・・」


「また、その話なの・・・もう解ってるよ、私はパラサイトのクズよ」


 私がふてくされると、カオリはニヤリとして


「ああ、ごめんね、あたしの言いたい事は普通の親なら

 子供をなんとか自立させたいと思うものでしょう?」


「うん・・それはそうだろうけど・・たぶん私の事が心配なんだと

 思うよ・・自分で言うのもなんだけど、私は頼りないし」


「そうね、、確かに頼りないし、私もそうだと思ってた

 でも、その割には、なにもしなかったじゃない?

 あたしも最初はね、事情が事情だし、しょうがないと思っていたのよ

 でもね、何年たっても、何もしなかったじゃない

 カウンセリングや心療内科とか受けさせる、わけでもない」


 たしかに言われてみると、そうだ、両親は私を慰めてくれたが

 その手の事は、なにもされたことが無い


「あたしも、それが気に食わなくて、姉さんや、両親にどうしても

 強くでちゃったのよ、このままじゃ姉さんが一生パラサイトになると思ってね」


 いや・・そうだとしても、あの言い方はきつすぎる気がするんだけど


「なに・・・なにか言いたいの?」そう言い、険しい視線をする


「いえ・・とくには」私はすぐに視線をずらしてしまう


「ちょっと、本題から、外れたわね、、まあ、

 あたしは不思議だし気に入らなかったのよ 

 それでね・・家を出てから少し調べたの

 そうしたらすぐに解ったことがあるの

 それが、姉さんの戸籍よ」


「私の戸籍・・さっきから言ってるけど

わたしの戸籍がどうしたの?」


「うん・・よく聞いてね・・・姉さんは結婚してるの」


「え???・・・・あのごめん、私結婚どころか

 男の人と付き合ったことも無いんだけど」


「そんな事しってるわよ、あたしが言ってるのは、

 戸籍上の話・・・姉さんは今、結婚してるのよ」


「そうなの?・・・ええ・・・だれと?、私だれの奥さんなの?」


「親戚の、おじさんみたいよ・・・あたしも、あったことないんだけど」


「いや・・あの、なんで?」私は動揺しながらカオリを見つめると


「そうよね、そう思うよね、そのおじさんね

 かなりの資産家なんだけど、すごい変わり者で

 奥さんも取ろうともしない

 もしそのまま死ねば、財産は国にほとんど持ってかれるみたいで

 それなら、姉さんを奥さんにしとこうって」


 目が点になる・・・知らない間に結婚していたのもビックリ

 なんだけど、両親がそんな事をしていたなんて


「そのおじさんって・・・どこに居るの?」


「病院・・・もう完治する見込みはないみたいで

 延命治療しかしてないらしいけど

 あと何年持つかってところみたいよ」


「そうなんだ・・・じゃあ、もうちょっとしたら

 私は、金持ちになるんだ?」


「いや、、姉さんはいまでも金持ちのはずよ

 ただその財産を管理してるのが両親だってだけ

 その事を、姉さんに知られたくないから、

 引き籠りのニートのままでいて欲しいのよ

 そうそれこそ一生ね」

 

 そうなんだ、、まずい、頭が混乱してきた

 そんな私を見ながら


「だからね、姉さん、もしあの家から、出る気になったら

 絶対に内緒にしておきなよ・・・

 下手したら監禁されるかもしれないから

 もしかしたら、いま、外に出てるのも、気に食わないかもしれないよ?」


 でも・・・・


「あのね、カオリ、、イロイロ混乱してるんだけど

 いま、聞いた事本当なんだよね?・・その疑う訳じゃないんだけど

 その・・・信じられないっていうか・・・・」


 私の事をすこし睨み、溜息をつくと


「そうね、こんな話、鵜呑みにしない方が、いいわよね

 区役所にいって戸籍を調べてみればすぐに解るし後

 保険証なら家に置いてるだろうからそれ見れれば

 でも、保険証を探すのもちょとまずいか?」

 

 そうか保険証を見れれば、いいんだよね

 それで本当の事がわかる


「でも、本当だとしても、両親が私の事考えて

 してくれたことかもしれないし」


「そうかな、、あのさ、姉さんいま30歳だよね

 その割に社会経験もほとんどないし

 家事も出来ないし

 とてもじゃないけど

 男と付き合って結婚するどころか

 一人暮らしも、できなさそうだよね?」


「ぐ・・・・そうだけど、改めて言わないでくれる」


 傷ついた顔をした私をチラッと見た後、横を見ると


「引き籠りのニートになったのは姉さんの意志だろうけど

 姉さんを何も出来ないようにしたのは

 あの両親だと私は思っている

 当初はともかく姉さんには外に出ようとする意識がなかった訳じゃないよね?

 それなのに引き籠り続けた、姉さんは、10年以上の時と

 これからも生きる為の知識やスキルを奪われたんだよ解ってる?」


 カオリの言葉に私は衝撃を受け呆然としていると


「それに、私の復讐もしたいし姉さんには、あの家から逃げて

 欲しいのよね」


「え?復讐?」確かに仲悪かったけど


「トシアキさんとの結婚を邪魔された復讐よ」


「いや・・・あの時はごめんね・・・あれはお母さんというより

 私のせいだよね?」


「ちがうよあの、クソ婆のせいよ、そうねあの時、姉さんには部屋から

 出るなって言ってたわよね・・・だけどね、クソ両親が

 トシアキさんに姉さんの事を言ったのよ

 そしてね、姉さんと会いたいと言わせるように

 誘導したの・・・・私の事が本当に嫌いだったんでしょうね」


 そうだったんだ・・・そんな事が


「姉さん、姉さんは一人で何も出来ない

 家に居るころはそんな姉さんにイラつき

 パラサイト呼ばわりしてたけど

 本当の事を知ったら実は逆なんだと

 解った、姉さんを何も出来ないようにして

 家から出れないようにして

 寄生してるのは両親だってのがね」


 カオリの言葉に本当に混乱してしまう

 確かに私は一人で何もできない

 両親は私を甘やかしてくれたけど、それだけだ

 そうだ、このままじゃ駄目だと強く思うようになったのは

 5年前カオリの蔑みの目をみて悔しかったから

 私は、自分を変えようと思ったんだっけ

 私が混乱し悩み始めてのが、カオリにも解ったのか


「姉さん、混乱してるだろうから今日はここまでにしようか

 あんまり遅くなると、あいつらも怪しむかもしれないしね

 それにしても、よく外に出るの許可でたね?」


「うん・・・最初の頃は心配だからって一緒に付いてきてた

 親同伴なんて、いい歳して恥ずかしいから付いてこないでって

 お願いしてこの頃かな、ようやく一人で外に出れるようになったのは」


「ああ、やっぱりそうだったんだね」

 

 カオリも納得したのか頷いている

 それを見た私もカオリに合わせて微妙に頷きファミレスを出ることにした



 自室に戻り、お気に入りのゲームチェアに深く腰を下ろす

 カオリに言われた通りに、普段と変わらないように

 しろと言われたけど、上手くできたろうか?

 うーーん、出来たと思っておこう

 それより、カオリに言われたんだけど

 簡単に見れるなら、保険証を見ろと言われたけど

 よく、思い出してみても、保険証を私は見たことが無い

 病気になったことが無いわけじゃない

 私にはかかりつけの医者がいて、何かあると

 往診に来てくれるんだ、不思議に思わなかったけど

 確かにへんだ

 どうしようか、、なんの理由もなく

 保険証が何処にあるか聞いたら、不自然だよね

 本当に、どうしようか?


 ・・・・・いい方法が思いつかないし

 保険証はいったん忘れよう・・・


 私を飼い殺しにしようとしてるって、言ってるけど

 そこまでとは、私には思えない・・・


 それでも、両親に確かめるのも、なんか怖いし

 カオリの言う通り、監禁とかされても、困るし


 ・・・・・あれ・・・今もほぼ監禁されているよね

 ・・・・でもカオリの言う事が正しければ


 私は10年以上の時間と、その間に経験できたこと

 知識や、スキル、交友関係を、奪われたことになる


 ・・・まあ・・私の10年なんて大した事ないし

 正直、私はそれほど気にしていないんだけど


 でも、問題なのはこれからどうするかって話しよね

 本当に私を閉じこめておく気なら、逃げた方が良いだろうし


 別に閉じこめておく気も無くて

 たんに優しいだけなのかもしれないし


 だめだ・・・いくら考えても、私には解らない

 延々と思考の深みにハマって抜け出せなくなっていた時


「ピコン」ラインの着信音がなる


 予想どおりカオリからのメッセージが来ていた


(少しは考えはまとまった?)


(うーーん、ぜんぜん)


(あっそ、まあいまさら、急ぐ必要はないし

 慌てて、ボロ出さないようにね)


(うん、大丈夫、わかっているよ)


(本当かしらね、バレたら逃げるのも大変になるから

 くれぐれも慎重にね)


(わかったよ・・・ちょっとしつこいよ)


(はいはい、じゃあ何か、あったら連絡ちょうだいね)


 もう・・・・・はあ、今日はもうお風呂に入って寝るか

 



 お風呂からあがり、自分の部屋に戻ると

 あれ・・・扉が開いている? 締め忘れたのかな?

 そう思い部屋の中を見ると


「あれ・・・・お母さん何してるの?」


 声を掛かられたお母さんは、一瞬ビックとなると

 私の微笑みながら見てくるんだけど

 その手には私のスマフォが


「ノゾミちゃん、カオリにあったの?」


 う・・・しまったなんで私はロックもしないで放置していたんだ


「どうしたの、ノゾミちゃん、どこでカオリに会ったの?」


 慌てていて、口ごもる私に

 お母さんはスマフォの画面を見せてくる


「ノゾミちゃん・・・カオリになに聞いたか知らないけど

 騙されちゃだめよ・・・」


 私は後ずさりながら、言葉にならない言い訳をする


「いや・・あの・・べつに・・なにも聞いてないよ」


 ううう・・・本当に私は駄目人間だ、こんな時に

 まともに話す事も出来ないなんて


「ノゾミちゃん、今日からスマフォは没収です

 外に行くときは、必ず私か父さんが付き添いますからね」


「え・・・ひどいよ、お母さん・・・スマフォがないと

 仕事先の人とも連絡ができなくなる」


 私が抗議すると、お母さんは笑顔を一瞬で消す


「ノゾミちゃん、仕事も止めなさい解りましたね」


「そんな・・いやだよ・・やっとお金を稼げるようになってきたのに」


 私の弱々しい抵抗なんて、お母さんには、通じない

 

「ノゾミちゃん、いい子だから

 お母さんの言う事を聞いて頂戴解ったわね」


 そう言うと、私の返事も待たずに私のスマフォを持ち部屋から出て行く


 暫く呆然としてしまったが、正気を取り戻す

 どうしよう、カオリの言ったとおり

 この家から出れなくなってしまったし


 連絡も取れない、最悪仕事先はPCできるからいいんだけど

 いや・・PCも明日には没収されてしまうかもしれない


 どうしたらいい?・・・なんとかカオリと連絡がとりたいけど

 カオリとの連絡先はスマフォにしかない・・・

 あああ・・・まったく、なにしていいか思いつかない




 スマフォを取り上げられてから3日たった

 PCはゲームをする為にと、お願いしてなんとか、取り上げれらなかったんだけど


 両親の監視はさらに厳しくなった部屋のドアは常に開けっ放しで

 私が一人になれるのはトイレの中しかない

 

「ノゾミちゃん、、ゲームしているの?」


 PCの画面をのぞき込み、私に聞いてくる


「うん・・・ねえお母さん、私、仕事も続けたいし、外にも出たいんだけど」


 まあ・・返事は解ってるんだけど、いちよう言ってみる事にする

 お母さんは、優しい笑顔を私に向けてくれるけど


「ダメよノゾミちゃん、ノゾミちゃんには外の世界は辛すぎるわ

 いつまでも、お母さんの言う事を聞いてればいいんのよ」


 ・・・ダメだ・・本当に一生飼い殺しにする気だ

 こうなったら、なんとか逃げないとまずいんだけど


 残念な事に、私ひとりじゃ、どうしていいか解らない

 ここは、なんとしても、カオリの所まで逃げないと


 その為にもなんとかしてカオリと連絡を取らないと

 そこまでは思いつくんだけど・・・・


「あのお母さん・・・もう寝るんで、外に出てもらっていい?」


「わかったわ、ノゾミちゃんが寝るまで側に居てあげるからね」


 もう・・・・なにも言わないわよ

 お母さんに見つめられながら、ベットに入ることにする







「コンコン」「コンコン」「コンコン」


 うん・・・まだ朝じゃないわよね?・・・なんか音が聞こえる

 寝ぼけなら音がする窓を見ると


 ・・・・・あ・・・・カオリ

 一瞬で目が覚めると窓に飛びつく


 あれここ2階よね

 よく見ると雨どいに、しがみついてるようだ、すごいな


「カオリ・・・すごいわね、あなた・・・よくそんな事できるわね」


 私が驚愕の目でカオリを見てると

 

「なに感心してるのよ、姉さんも、やるのよ

 私と同じように雨どいを伝って降りるのよ」


「え・・・無理・・怖い・・・・無理」


 私がしり込みしてると


「そういうのいいから、早く着替えて・・逃げられなくなるよ

 私が関わってるのがバレたり、逃げようとする意思があるのがバレたら

 どんどんキツクなるわよ、覚悟決めなさい


 両親が死ぬまでこの家にいるか、怪我しても逃げるか

 大丈夫よ、そう簡単に落ちないし、落ちたって骨を折るくらいよ」


 確かに・・・カオリがいないと逃げることもできないし

 私は覚悟を決めると、カオリの後について雨どいに、しがみつく


「ひいいーー」


「うるさい、声をだすな」


 そんな事がいろいろあったが、

 ようやくカオリの家まで逃げることができた

 カオリの出すお茶を一口飲みようやく落ち着くことができると


「ふーーーー」「やっと落ち着けた、、カオリありがとう

 でもなんで、解ったの・・・私が閉じこめられてるって?」


「ああ・・そんなのすぐに解るよ、だって突然、姉さんのアカウントが

 消えて、スマフォにかけても着信拒否されてるんだもの


 ああ・・・ねえさんなんかヘマしたんだなって」


 たしかにヘマしたんだけど


「でも・・・カオリとのチャトに、まずいワードが入ってたせいなんだけど」


「いや・・・あのね・・なんですぐに消さないのよ、それにロックもしてないの?」


 そうジト目で見てくるが


「その・・・・ロックするなって、言われたから」


「はーーーー」そうカオリは盛大に溜息をつくと


「馬鹿なの?」


「ばかです・・・・」カオリから視線を外し呟く


 呆れ顔のまま、カオリが呟く


「まあ・・いいわ・・・これからは、あたしが姉さんを守ってあげるから

 明日、スマフォ買いにいこうか、でも仕事先のアドレスとか

 連絡先とかは、どうしょうもないけど、まずはないとね」


「うん・・・でもお金ないよ?」


「いいよ、それくらい出すから・・・ああもちろん貸すだけよ

 あとでちゃんと返してもらうからね」


 カオリが決め顔をし、

 私はちょと涙目になりながらカオリを見てしまう

 

「ありがとう、カオリ・・・よろしくね」


   





 あたしの名前はカオリ 28歳 


 いま、あたしの眼の前には、私の事を信じ頼りにしている姉がいる

 すべて計画通りだ、姉さんのことを、調べてから考えた事だ


 姉さんの行動範囲を調べ、偶然を装い再会

 そこまでの道は随分長かったが、再会してからは早かった


 姉さんはあの通りの人間だ、いくらでもコントロールできるし

 両親もどう動くかわかる


 だから、ねえさんのスマフォに、危険なワードを入れたチャトをし

 その後、母さんが確認したくなるように、電話をする


 それだけで姉さんは、自由を奪われることが解っていた

 ねえさんは一人では何も出来ない女だ、だがそれはしょうがない


 そういうふうに育てられたのだから


 それに、ねえさんにはそれが許されるほどの財産がある

 

 姉さんの事はもう嫌いじゃないし、今となってはただ一人の家族だ

 ちゃんと姉さんの財産も取り戻してあげるし、世話もしてあげる  

 

 あたしは、両親が大嫌いだったが、一つだけ感謝している

 あたしが自由にできる姉を作ってくれたことを。 




読了ありがとうございます

You Tubeでも配信中ですので

よろしければそちらも覗いてみてください

https://youtu.be/_kjrnjd0CM0

ニコニコ動画版はこちらから

https://www.nicovideo.jp/watch/sm43639525?ref=garage_share_other

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